固定種とは「育てた野菜から次の世代へ、次の世代からまた次の世代へと同じ形質が受け継がれ、味や形が固定されたものが育つ種を採ることができる品種」を指します。「在来種」と呼ばれることもあります。
「味や形が固定される」ことがごく当たり前のことのように思えるかもしれませんが、一般的に農業生産で用いられる「F1種」はこの特徴を持ち合わせていません。
「F1種(first filial generation/雑種第一代)」は異なる品種をかけ合わせたものです。これらの特徴は安定した収量が得られること、多少栽培環境が悪くても強固に育つことなどが挙げられます。
しかしF1種はあくまでも「交配で生まれた一代目の種」。F1種から種を採取しても同じ特徴、同じ形や味が得られるとは限りません。F1の次の世代、F2以降はF1ほど生命力が強くないとも言われています。そのためF1種の野菜を育て続ける場合には、毎回種を用意しなければならないのです。
古くから存在していた固定種は、F1種のような安定した収量が得られるとは限りませんし、自家採種には手間がかかります。しかし品質にばらつきがある分、さまざまな環境に適応しやすく、また近年はその土地の風土に合った野菜が採れるところから、近年「伝統野菜」として注目を集めるようになりました。
本記事では、注目集まる「固定種」の種を販売サイトをまとめました。
固定種の種を販売サイトまとめ
野口のタネ
固定種や伝統野菜の種といえば外せないのが「野口のタネ」です。
固定種だけでなく、固定種を守る取り組みにも興味がある人におすすめです。
「野口のタネ」の店主・野口勲氏は伝統野菜がなくなりつつあることに危機を感じ、固定種のインターネット販売と著書や講演活動を通じて固定種を守る活動を広めています。
野口氏はF1種の存在を完全に否定しているわけではありません。高度経済成長期以降、農家の数は少なくなりました。農林水産省の統計によると、平成27年時点の農家の数は215万軒。215万軒の農家が1億2000万人の食べ物を作っていることを考えると、1年中効率よく農産物を供給するには、安定した収量が得られるF1種が必要になります。
ただ、子孫を残すことのできない野菜ばかりが出回っていることに疑問を感じた野口氏は、自分たちが死んで、固定種の種を扱う店がなくなれば固定種が消滅してしまうことに危機を感じ、販売しているわけです。
オンラインショップを見ると、「春まき野菜の種」「秋まき野菜の種」というカテゴリに分かれており、野菜やハーブの種だけでなく「EU認証有機種子」や「緑肥/土壌改良用」の種子まであります。
また種の項目の下には野口氏が執筆した本の他、固定種に関連性のある書籍も販売されています。
公益財団法人 自然農法国際開発研究センター
自然農法とは「農薬や化学肥料などを使⽤せず、枯れ草や藁などで堆肥を作り、⾃然の仕組みを再現して農産物を生産する⽅法」を指します。平たく言えば、なるべく手を加えず、自然界の状態そのままに育てる農法のことです。
そんな自然農法を研究している公益財団法人「自然農法国際開発研究センター」でも固定種を購入することができます。
固定種とともに自然農法を学びたい人には打ってつけの販売サイトです。
なお、販売カテゴリには固定種や在来種のみならず、交配種、自家採種素材などもあります。また種まきに適した時期や品目から選ぶこともでき、迷うことなく購入できるサイトといえます。ただし、人気の種は早めに売り切れることも多いようなので、こまめにチェックすることと、気になる種は早めに申し込むことをおすすめします。
自然農法種子の生かし方や自然農法で農作物を育てる際のポイントなども掲載されているので、自然農法の参考文献としても役立ちますよ。
たねの森
自家採種可能な固定種を取り扱っている「たねの森」。
「たねの森」が扱う種の多くはエアルーム種と呼ばれる品種です。
エアルーム品種とは「家族や組織内で先祖代々引き継がれてきた品種」を指します。たとえば、ある農家のみが生産している品種をエアルーム品種と呼びます。明確に定義づけられているものではないものの、定義としては固定種のひとつと言えます(ただし、その農家のみが生産しているという点から在来種には当てはまらない)。
- 固定種 親から子・子から孫へと代々同じ形質が受け継がれている種
- 在来種 動植物の品種のうち、ある地方の風土に適し、その地方で長年栽培または飼育されているもの
→固定種、F1種、どちらを表すこともできる - エアルーム品種 家族や組織内で先祖代々引き継がれてきた品種
→固定種のみを表す
「たねの森」では、自家採種ができる固定種・エアルーム品種を扱うだけでなく、自家採種の輪を広げるために「タネの交換会」が行われています。
「たねの森」の代表である紙英夫妻は「1人で数十種類の採種を行うのではなく、1種類ずつ採種した数十人が集まって種を交換し合えば、自家採種の輪が広がるだけでなく、固定種やその土地の食文化を次世代につなげていくことができる」と考えています。
また「タネの交換会」では、「タネに興味を持ってほしい」「もらったタネを育ててみてほしい」という思いから、タネ持ってきていない人でも自由にタネをもらうことができるのだとか。
次世代へつなげていく取り組みに関心がある人は「種の交換会」もぜひチェックしてみてください。
種苗法による自家増殖原則禁止について
2018年5月15日、「種苗法により自家増殖原則禁止」というニュースが報じられました。その際「自家採種が原則禁止になった!?」と話題になりましたが、先に申し上げると、現時点では「固定種の自家採種は可能」です。
最後に、勘違いされやすい「種苗法により自家増殖原則禁止」の内容について紹介します。
種苗法とは
まず種苗法とは「植物の新品種の創作に対する保護を定めた法律」です。
内容は「新しい品種を創作した人がその新品種を登録すると、その品種を育成する権利(育成者権)を占有できる」というもの。市販の種や苗は、種苗会社等が品質や収量、病気に強いなどの特徴をもった農作物を生産するために研究開発を行い生産したものです。研究開発には費用と時間がかかりますが、「種苗法」により「かかった費用と時間に対する権利が保証される」と考えるとわかりやすいです。
ただし、今までの種苗法では
- 試験または研究目的での利用
- 農業者の自家増殖
には育成者権が及びませんでした。
自家増殖原則禁止の背景
それがなぜ「(農業者の)自家増殖原則禁止」になってしまったかというと、日本で研究開発された優良品種が海外へ流出してしまったからです。有名な事例には、日本の「とちおとめ」等が韓国に流出し、現地で生産された「雪香(ソルヒャン)」等や、日本のシャインマスカットが中国に流出し、現地で生産されている例などが挙げられます。
日本で研究開発され、日本ブランドとして売り出されるはずだったものが海外に流出してしまっては、今後世界に日本ブランドの農産物を輸出する障害になりかねません。日本の品種を守るために、「(農業者の)自家増殖原則禁止」とされたのです。
固定種の自家採種は可能
とはいえ、「(農業者の)自家増殖原則禁止」となるのは「育成者権(その品種を育成する権利)が認められている作物のみ」です。そのため育成者権が認められていない品種であれば、固定種も在来種も今まで通り自家採種することができ、今まで通り栽培し、流通販売することもできます。
ただ、「(農業者の)自家増殖原則禁止」の背景からも分かるように、その地域や農家が「固定種を保護しよう」と考え、育成者権を取得した場合には、自家採種ができなくなることも考えられます。これは地域や農家の判断に委ねられますが、保護の観点から起きないとも言い切れません。種に関する法律は、今後も注目しておいた方がいいかもしれません。
※追記
農文協から刊行されている『現代農業 2020年1月号』によると、「いよいよ種苗法が『農家の自家増殖は一律原則禁止とし、自家採種やわき芽挿しは育成者の許諾を得なければならない』という制度に変わろうとしている」とあります。
2016年には「農家が自家増殖できない品目(登録品種に限る)」は82種類でしたが、2017年には289種に増えています。海外流出から守ることを理由に、今後も自家採取禁止品目が増える可能性があります。
『現代農業 2020年1月号』にもありましたが、禁止品目の増加に反対したい場合には、意見公募(パブリックコメント)を届けるなどして農家の声を届けましょう。
参考文献
- 野菜の固定種・在来種とは?F1種との違いと守り続けるべき理由 食べチョク
- 減少している伝統野菜。その理由と在来種を見直す動き。 食べチョク
- 野口のタネ オンラインショップ
- タネが危ない!わたしたちは「子孫を残せない野菜」を食べている。~野口のタネ店主 野口勲さん NEXT WISDOM FOUNDATION
- 野菜種子の話あれこれ 野口のタネ
- 公益財団法人 自然農法国際開発研究センター
- 自然のタネ
- 無農薬・無化学肥料のたねの店 たねの森
- 第78回前編 紙 英三郎・愛さん(無農薬・無化学肥料の種の店「たねの森」経営) 日本野菜ソムリエ協会
- 第78回後編 紙 英三郎・愛さん(無農薬・無化学肥料の種の店「たねの森」経営) 日本野菜ソムリエ協会
- 種苗法による自家増殖原則禁止の理解と誤解 農ledge