ミニマム・アクセス米(MA米とも表される)は、「日本が海外から最低限輸入しなければならない米」のことです(引用元:エムエーまい【MA米】 | え | 辞典 | 学研キッズネット)。
この仕組みは、1993年に合意されたGATT(関税および貿易に関する一般協定)のウルグアイ・ラウンド交渉によって導入されました。日本は従来、米の自給率をほぼ100%維持し、米の輸入を厳しく制限してきましたが、国際貿易の自由化の流れの中で、最低限の輸入機会を提供する必要があるとされ、ミニマム・アクセス米の導入が決定されました。
ミニマム・アクセス米は国内の米市場に過度な影響を与えないよう、国が一元的に管理しています。輸入量は現在、年間約77万トン(玄米ベース)に設定されており、アメリカやタイ、中国などから輸入されています。これらの米は、主にみそや焼酎、米菓などの加工食品用に利用される他、飼料用や海外援助用としても利用されています。
ミニマム・アクセス米の背景
先述した通り、ミニマム・アクセス米導入の背景には国際的な貿易自由化の流れがありました。1986年から1993年にかけて行われたウルグアイ・ラウンド交渉で、三カ国が輸入数量制限を撤廃し、すべての貿易品目を関税化する方向性が打ち出されました。これに伴い、米の輸入実績がほとんどない中、日本も最低限の輸入機会を提供する義務を負うことになりました。
ただし、日本国内においては、米が国民の主食であり、農業や地方経済において重要な役割を果たしていたことから、市場開放には慎重な姿勢がとられました。その結果、国産米を保護するために輸入米に高い関税を課す特例措置が認められた代わりに、通常よりも高い割増率の最低輸入義務を負うことになりました。
この取り組みは1995年から始まり、当初は国内消費量の4%にあたる約40万トンの輸入が義務付けられました。その後、段階的に8%(約77万トン)に引き上げられています。
ミニマム・アクセス米の現状と課題
現在、ミニマム・アクセス米は主に加工用や飼料用として利用されていますが、いくつかの課題が存在しています。
備蓄米の増加
ミニマム・アクセス米は加工用や飼料用のほか、海外援助用に回されてきましたが、消費しきれず、年々備蓄米として在庫が増えるという課題がありました。古いデータではありますが、2008年末には在庫が203万トンに達したことも。
備蓄米の管理には保管コストがかかるうえ、長期間の保管による品質低下も問題となりました。そのため、近年では、保管中に水ぬれやカビの発生したもの、残留農薬の検出されたものなどは食用不適品として糊の製造用などの非食・工業用に利用されています。バイオエタノール用としての利用もあります。
国内農業との関係
国はミニマム・アクセス米の輸入が国内農業に与える影響を最小限に抑えるために、輸入米を主食用にほとんど流通させない運用を行っていますが、一部のミニマム・アクセス米が主食用に流通することもあり、その価格競争力が国内産米に悪影響を及ぼす懸念が指摘されています。
なお、下記は少々古いデータではありますが、2017年11月から2018年10月にかけてのミニマム・アクセス米の利用先です。
- 主食用 9万トン程度
- 加工用 17万トン
- 飼料用 59万トン
- 海外への食糧援助用 5万トン
- バイオエタノール用 16万トン
- 食用不適品 4万トン
基本的には、国は入札によって決定した輸入業者を通じて買入れを行っています。
一方で、ミニマム・アクセス米の一部(現在玄米ベースで輸入されている約77万トン農地最大10万実トン)とTPP11豪州枠※1については、輸入業者と国内の実需者による実質的な直接取引、SBS(Simultaneous Buy and Sell:売買同時契約)方式※2が認められ、この方式で取引されたミニマム・アクセス米は主に主食用として販売されています。
SBS方式で主食用として販売されるミニマム・アクセス米ですが、2024年度の第1回入札では2万5千トンが全量落札され、申し込み総量は7万トンを超えました。この背景には国産米の価格上昇や供給不足があり、輸入米の需要増加を表します。輸入米は価格が安いため、スーパーや外食産業で普及しており、国産米市場を圧迫することが懸念されています。
※1
TPP11(包括的及び先進的な環太平洋連携<パートナーシップ>協定)は、2018年12月30日に発効されたアメリカを除く環太平洋地域11か国(オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナム)が加盟する自由貿易協定(FTA)。
※2
参照サイト SBS方式について
財政負担の課題も
ミニマム・アクセス米の多くは加工・飼料用に回されていますが、多額の売買差損が発生しており、2022年度の財政負担は674億円に上りました。
ミニマム・アクセス米の制度は現在もWTO(世界貿易機関)やTPPなどの国際交渉の中で議論の対象となっているものの、輸入枠の見直しは国際約束のため困難とされています。そのため、財務省は国産米備蓄の削減と緊急時のMA米活用を提案しています。しかし、食料安全保障の観点からは批判も多く、国内生産基盤の強化や輸入依存の是正が求められています。
ミニマム・アクセス米の今後の動向が気になる
国際的な貿易自由化の中で、導入されたミニマム・アクセス米ですが、その運用には先述したように多くの課題があります。
もちろん、ミニマム・アクセス米ならではの利点もあります。たとえば世界的にトウモロコシなどの価格が高騰しているため、ミニマム・アクセス米を飼料として利用する農家は増えているようです。またスーパーや外食業界は価格の安い輸入米を求めています。
ただ、日本の消費者の「コメ離れ」は進んでおり、備蓄の増加やそれに伴う財政負担などの課題を見過ごすこともできません。今後は、備蓄や流通の効率化、国際交渉の柔軟な対応などを通じて、持続可能な米の輸入・消費体制を構築していくことが求められます。
参考文献:八木宏典『図解知識ゼロからの現代農業入門』(家の光協会、2019年)
参照サイト
- コメの輸入制度
- エムエーまい【MA米】 | え | 辞典 | 学研キッズネット
- コメの国家貿易(MA米等)の運用に伴う財政負担
- [論説]輸入米が国産需要圧迫 MA制度見直しが先だ
- 輸入米が全量落札 国産価格急騰で引き合い(2面・総合)【2024年9月3週号】 – nosai
- MA(ミニマム・アクセス)米の赤字 過去最大の674億円に
- 税金500億円垂れ流し MA米いつまで財政負担を続けるのか【農業ジャーナリスト 山田優】 2023年9月25日
- 「MA米の管理と流通実態にメスを」 | クローズアップ | JAcom 農業協同組合新聞
- 財務省がコメ・水田政策で提起 飼料用米助成廃止を 備蓄米の水準引き下げも
- ミニマム・アクセス米
- 日本のコメは「余っている」というけれど
(2024年12月9日閲覧)