野菜を病気知らずにする納豆菌の力。なぜ納豆菌は強いのか。

野菜を病気知らずにする納豆菌の力。なぜ納豆菌は強いのか。

納豆は腸内改善などにも役立つとされている日本の食卓に馴染みある発酵食品です。そんな納豆は農業分野でも大活躍。本記事では、納豆菌を使った手作り肥料の作り方や使い方、またなぜ納豆菌は強いのかという点についてご紹介していきます。

 

 

納豆菌を使った肥料で病気知らず!?

野菜を病気知らずにする納豆菌の力。なぜ納豆菌は強いのか。|画像1

 

一般社団法人農山漁村文化協会が刊行している農業情報誌「現代農業」では、度々納豆菌に関する特集が組まれています。納豆菌の活用は減農薬につながります。

たとえばあるキュウリ農家の事例では、納豆と米ヌカを使ったぼかし肥料のおかげで、防除の回数を月に1度に減らしても灰色かび病やべと病が発生しない、とあります。

この農家が用いているぼかし肥料の材料は米ヌカ15kg、納豆1パック、水2リットルだけ。漬物用の樽に全ての材料を入れて手でかき混ぜたら、蓋をして暖かい場所に置いておきます。朝晩に1回ずつ切り返せば、1週間ほどでパラパラしたぼかし肥料が出来上がります。15kgで約10a分になります。

作ったぼかし肥料を、キュウリを定植後にウネ間にふり、その後は月に1度10aに30kgほど米ヌカだけをウネ間にふるだけです。

上記の方法による病害予防の効果は納豆菌だけでなく米ヌカも関係しているとは思いますが、納豆菌も米ヌカも灰色かび病の抑制効果が知られています(米ヌカの場合は、米ヌカを地表面に散布した施設内のキュウリ花弁や散布土壌から分離したFusarium属菌の灰色かび病に対する抗菌性が報告されています)。

 

 

納豆菌の灰色かび病抑制効果について

野菜を病気知らずにする納豆菌の力。なぜ納豆菌は強いのか。|画像2

 

橋本俊祐『納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)によるイチゴの灰色かび病に対する抑制効果』(日植病報78: 104-107、2012年)では、イチゴ葉上での灰血かび病に対する抑制効果が確認されています。

以下に実験の大まかな流れをまとめます。実際にはより細かな条件等が設定されています。気になる方はぜひ参考文献3.を読んでみてください。

実験では、市販されている5種の納豆からそれぞれ単一コロニーを分離・培養し、検査用キットによって同定された納豆菌5株(No.1〜5)が用いられました。灰色かび病菌は薬剤感受性の異なる3つの菌株が用いられています。

灰色かび病菌の懸濁液を培地に広げ、そこへペーパーディスク※1を載せ、その上にNo.1〜5の納豆菌を懸濁した液を滴下します(対照区には納豆菌ではなく滅菌水を滴下)。2日間培養した後、ハロー※2の大きさを測定します。

※1 ペーパーディスク法:ペーパーディスク法は、寒天培地に試験対象微生物を全面塗抹し、その上に抗生物質や抗菌物質を浸み込ませたペーパーディスクを載せ、一定温度、時間で培養します。その後、ペーパーディスク周囲の微生物の発育阻止帯 (ハロー) の大きさから、定性的に抗菌物質に対する感受性/耐性の確認、抗菌物質の効力を評価します。(引用元:抗菌性試験 – 株式会社テクノスルガ・ラボ – ペーパーディスク法・MIC法

※2 ハロー:発育阻止帯とも呼ばれ、細菌の発育がない透明な部分。この実験の場合、納豆菌が灰色かび病の生育を抑制する力の強さがわかります。

結果、薬剤感受性の異なる3つの灰色かび病菌を広げた培地すべての納豆菌を滴下したものにおいて明瞭なハローが生じました。

次に納豆菌がイチゴ植物体上でも灰色かび病を抑制するのかについて実験が行われました。用いたのは前述でも登場した薬剤感受性の異なる3つの灰色かび病菌、培土でポット栽培された2〜3週齢のイチゴの2番目に新しい複葉、そして納豆菌懸濁液です。

イチゴ複葉に納豆菌懸濁液を噴霧し、その24時間後に葉の上に灰色かび病を接種し、4日後に病斑径を測定します。対照区は納豆菌懸濁液ではなく、滅菌水が噴霧されています。その結果、No.2株に抑制効果が強く認められました。たとえば灰色かび病の3菌株のうちの1つの病斑径が対照区では9.8土 0.5mmでしたが、No.2株を噴霧したものの病斑径は5.3土 0.3mmとなりました。これは灰色かび病の残り2菌株でも同様の傾向が認められています。

またイチゴ植物において灰色かび病の主要な感染部位であり、発病後に第二次感染源となる分生子※3が大量に形成される花器でも、納豆菌は灰色かび病の発病、および分生子の形成を抑制する効果があると示されています。

※3 分生子:菌類において,出芽や分裂などの方法によって無性的に形成される胞子のうちで,鞭毛をもたず細胞壁が比較的薄いもの(出典元:株式会社平凡社 世界大百科事典 第2版)

 

 

まだまだある!納豆菌を活用した肥料

野菜を病気知らずにする納豆菌の力。なぜ納豆菌は強いのか。|画像3

 

病気予防に納豆液を散布している農家の事例も少なくありません。たとえばあるリンゴ農家は、納豆菌を散布することで褐変病が出にくくなったといいます。

納豆液に使うのは、納豆6パックと水。ミキサーに納豆を6パック入れ、そこに納豆が浸かるくらいの水を入れたら、1分ほど攪拌し、網目の細かい洗濯ネットで濾せば、納豆液の原液が出来上がります。スピードスプレーヤー※4のタンクに入れ、1000リットルに薄めてから使用します。

※4 スピードスプレーヤー:果樹園などで用いられる薬剤散布用の噴霧機。送風式で作業能率が高い。(出典元:小学館 デジタル大辞泉)

イチゴのうどんこ病、炭疽病の予防にも役立っています。イチゴ農家の事例でも納豆液に使う材料は納豆と水だけとシンプルなものでした(参考文献4)。

 

 

納豆菌はなぜこんなにも強い!?

野菜を病気知らずにする納豆菌の力。なぜ納豆菌は強いのか。|画像4

 

枯草菌のグループに属する納豆菌。枯草菌の特性に熱への強さが挙げられます。納豆菌をはじめ、枯草菌は生育が難しい状況下になると耐熱性に優れた胞子(芽胞)を作り、外的ストレスをやり過ごします。そして温度が下がり、生育に適した温度になると胞子から発芽して増殖を始めます。この芽胞を殺すには121℃、20分以上加熱しなければなりません!

納豆菌が強いのは熱だけではありません。酸などにも強い耐性があります。たとえば人間の胃の中は非常に強い酸性(pH2.2)の胃液で満たされており、多くの微生物やウイルスは胃液によって死滅しますが、納豆菌の胞子は胃酸に負けず、腸まで運ばれていきます。

このように、納豆菌はかなりタフな微生物です。

そんな納豆菌を病原菌より先に植物体上に定着させることができれば、病原菌が必要とする生息場所や栄養を納豆菌が奪うことで、病原菌が定着・増殖するのを防ぐことができます。納豆を使ったぼかし肥料でも納豆液でも、あらゆる事例や圃場の広さなどによって、必要となる納豆パックの量は異なりますが、気になる方はぜひ納豆を取り入れてみてください。

 

参考文献

  1. 農山漁村文化協会編『現代農業 2022年05月号』(農文協、2022年)
  2. 非病原性Fusarium 属菌によるキュウリ灰色かび病の発病抑制
  3. 橋本俊祐『納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)によるイチゴの灰色かび病に対する抑制効果』(日植病報78: 104-107、2012年)
  4. 月刊 現代農業2021年6月号 イチゴの炭疽病を抑えた納豆液
  5. 【今さら聞けない発酵の疑問(9)】納豆菌が熱に強い理由|丸ごと小泉武夫 食マガジン
  6. 【防除学習帖】第8回 病害の防除方法(生物的防除)|防除学習帖|シリーズ|農薬|JAcom 農業協同組合新聞

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