土壌微生物を増やすには。改めて知りたい土壌微生物の効果と増やす方法

土壌微生物を増やすには。改めて知りたい土壌微生物の効果と増やす方法

土壌微生物は、土壌中に存在する細菌や糸状菌、放線菌、藻類、原生動物などの微小な生物を指し、これらは土壌バイオマスの大部分を占めます。バイオマスとは「生物資源(bio)の量(mass)」を表し、「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」を意味します(参照元:バイオマスとは?:九州農政局)。農業において、これらの土壌微生物は土壌中の物質変化を担い、作物の生育に重要な役割を果たしています。

これらの微生物は有機物を分解し、炭素や窒素、リンなどの形態変化を行うほか、大気中の窒素を固定したり(窒素固定)、アンモニアを硝酸にしたり(硝化)、硝酸を窒素ガスに戻したり(脱窒)といった地球規模の窒素循環にも貢献しています。

そこで本記事では、農業において有用な土壌微生物について、改めて知っておきたい土壌微生物の効果と増やす方法についてご紹介します。

 

 

土壌病害を引き起こす微生物もいる点に注意

土壌微生物を増やすには。改めて知りたい土壌微生物の効果と増やす方法|画像1

 

土壌には1グラムあたり約100〜1,000万もの微生物が存在します。土壌微生物の中には植物と共生し、農作物の生産性向上に貢献するものがいる一方で、土壌病害を引き起こすものもいる点に注意が必要です。土壌微生物全てが農作物に有用だとは限りません。

これら多様な土壌微生物は競争や共存を通じて、多様性とバランスを保っています。この多様性が失われると植物の病害や生育不良を引き起こす可能性があるため、有用な土壌微生物の効果を得るためには、土壌微生物の多様性を維持することが重要です。これは、人間の腸内細菌バランスを整えることが健康維持につながることに似ています。

土壌微生物のエサとなる有機物を適切に利用し、良好な生育環境を整えることが、土壌病害の軽減や抑制、農作物の健康な生育につながるとされています。

 

 

土壌微生物が注目される背景

土壌微生物を増やすには。改めて知りたい土壌微生物の効果と増やす方法|画像2

 

近年、化学肥料や農薬の長年にわたる使用が原因で、世界の土壌の約33%が劣化しているとの報告もあり、持続可能な農業の観点から土壌微生物への注目が高まっています。

土壌微生物は前述したように、土壌中の有機物を分解して栄養分を植物に供給するなど、土壌の機能に欠かせない役割を果たしていますが、その働きの多くは未解明です。現在までに判明しているのはわずか1%程度とされています。しかし地表から数十センチの範囲である「表土」には膨大な数の微生物が生息し、土壌の健康を支えているのは確かです。

そして、土壌微生物が豊富で多様な土壌は、植物の成長にとって理想的な環境を提供します。微生物の多様性は、病原菌の侵入を防ぎ、酸素や水の通りを良くし、pHを適切に保つなど、作物が健康に育つ土壌環境を整えます。一方で、微生物のバランスが崩れると、連作障害や病害の発生が増加するリスクがあります。微生物の多様性を維持し、土壌の生態系を豊かに保つことは、農業の持続性を確保するために重要なのです。

 

 

土壌微生物を増やす方法

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良好な土壌をつくるために効果を発揮するのが、堆肥などの有機物を適度に与えることです。堆肥は、微生物のエサとして機能し、土壌微生物の多様性を促進します。たとえば、豚ぷん堆肥を施用した場合、放線菌や細菌が増殖し、病原菌の活動を拮抗作用によって抑えることが確認されています。これにより、土壌環境が改善され、作物の収量が向上する好結果が得られています。

ただし、有機物の過剰投入や不適切な処理は、かえって窒素不足や特定の病原菌の繁殖を招く可能性があるため注意が必要です。

近年では、緑肥の活用も注目されています。緑肥は土壌微生物の活性(機能が高く、反応が活発であること)を高め、有用微生物の増殖を促進します。たとえば、マメ科の緑肥作物を栽培することで、根粒菌が窒素を固定し、次作物に養分として供給します。また、緑肥を土壌にすき込むことで、セルラーゼやホスファターゼといった酵素活性が向上し、有機物の分解や難溶性リン酸の可溶化が進みます。これらの過程を通じて、作物が必要とする無機養分が供給され、健全な生育が促進されます。

また、土壌微生物のバランスを保つ管理を行う際には、農薬の過剰使用や過度な土壌消毒を控えることも重要です。

なお、土壌病害を引き起こす病原菌を抑制する方法も紹介します。病害対策の一例に、エビやカニ殻に含まれるキチンの施用があります。これは、インゲン萎黄病の原因菌であるフザリウム菌の抑制に効果的です。キチン分解菌が増殖することで、フザリウム菌の細胞壁が溶解され、病原菌の活動が抑えられます。また放線菌が増殖することで抗生物質が生成されると、さらなる病害抑制効果が期待できます。同様に、鳥の羽根由来のコラーゲンを土壌に投入することで、線虫捕食菌が増加し、大豆根こぶ線虫を抑制するといった研究報告もあります。

 

 

土壌全体の生態系を活用する視点が重要

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土壌微生物は、病害抑制、土壌生態系の多様性維持、養分循環といった多方面で重要な役割を果たします。とはいえ、土壌微生物は未解明の部分が多く、その働きは地域や条件によって異なるため、特定の微生物に頼るのではなく、土壌全体の生態系を活用する視点が重要といえます。

人間の場合、腸内細菌のバランスを整えることが健康維持につながるように、土壌もまたバランスが大切です。その特性を理解し、適切な有機物や緑肥を活用して、健康な土壌を作ることが、農業の持続可能性を実現させるうえで重要な鍵となるはずです。

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