土着菌とは、その地域に元々棲みついている様々な菌のことを指します。土着菌は地域や採取する場所、季節によって性質がそれぞれ異なりますが、身のまわりにある山林や竹林、田んぼなどからいくらでも採取できることが特徴です。
土づくりに役立つ土着菌の名称として「ハンペン」という言葉を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。ハンペンは、林の中にある落ち葉などをどかすと現れる真っ白な菌糸のかたまりを指します。なおハンペン=1種類の微生物ではありません。しかしそんな地域環境に合った強い菌たちを活用することで得られる効果は多々あります。
土着菌で得られる効果
1種類の微生物がもたらす効果ではありませんが、土着菌を活用することで、以下のような効果が期待できます。
水稲
- 苗が丈夫に育つ
- 根張りがよくなる
- 茎葉が硬くなり、倒れにくくなる
- 出穂した後、葉の色が濃くなる
野菜
- 根の発達が早くなる
- 生理障害の発生が少なくなる
- 耐病性が強まる
- 作物体内の代謝を活発にする
- 収穫物にツヤが出る
- 糖度が向上する
土着菌を活用した土壌づくりのコツ
土着菌の採取方法
上記のような効果をもたらしてくれる土着菌の採取方法をご紹介します。
もし林にある落ち葉の下などに先に紹介した真っ白い菌糸のかたまり(ハンペン)が見つかれば、それはそのまま土づくりに活用できます。
もし見つからなかった場合には、
- 腐葉土
- 硬めに炊いたご飯
- 通気性のいい弁当箱状の箱やバケツなど
を用意します。
弁当箱状の箱やバケツにご飯を入れ、腐葉土に混ぜ込むか置くかします。すると数日後にはご飯に様々な色をした菌(麹菌やケカビなど)が生えるはずです。それを採取しましょう。
麹菌の採取方法
特定の菌を狙うこともできます。麹菌を採取する場合には、麹菌の特徴を捉えておきましょう。
- 好気性菌(酸素を好む)
- 水分は50%くらいが好み
→ジメジメしすぎた場所にはいない - 低温に強い
- 微酸性の環境が好き
先で紹介したような方法で採取するのですが、上記の特徴を踏まえ、硬めに炊いたご飯に三杯酢を混ぜ込みましょう。三杯酢を混ぜ込むことで、微酸性の環境が苦手な他の菌が繁殖するのを防ぐことができます。
三杯酢は、
- 酢 半カップ(酢は少し多めに)
- 砂糖 大さじ1杯半
- 薄口醤油 小さじ半分
- 塩 小さじ半分
でつくることができます。
三杯酢をまぜた御飯をおにぎり状にしたら、落ち葉や土をまぶします。バケツやダンボール、スーパーの買い物袋などにも落ち葉や土をいれ、その中におにぎり状にしたご飯を入れれば、3〜10日間で白くふわふわとした麹菌が生えるはずです。
納豆菌の採取方法
納豆菌は市販の納豆を活用するのも◎ですが、彼らはわたしたちの身の回りに普通に存在しています。せっかくですから、身の回りの自然環境から採取してみましょう。
納豆菌は、
- 寒さに弱い
- 乾燥が苦手
- 夏の高温多湿な環境が好き
- アルカリ性が好き
といった特徴があります。
麹菌ではご飯に三杯酢を混ぜ込みましたが、アルカリ性が好きな納豆菌の場合は木灰を混ぜ込みます。採取方法はほぼ一緒ですが、混ぜ込むアイテムだけ、それぞれの菌の好きな環境に見合ったものを混ぜ込みましょう。
乳酸菌を採取する方法
乳酸菌も納豆と同じで、市販されている乳酸菌飲料を活用するという方法もあります。ただし乳酸菌の場合には、高温処理、すなわち殺菌処理されている飲料も多々あります。市販のものを活用する場合には、高温処理がされていないものを選びましょう。
自然にいる乳酸菌を採取する方法にはいくつかありますが、今回は米のとぎ汁を使う方法をご紹介します。
- 米のとぎ汁(最初に出るやつ)
- 和紙(空気を与えることができ、なおかつ蓋ができる)
- 空きビン※
この方法は、ビンに米のとぎ汁を10〜15cmほど入れて、和紙で蓋をするだけ。そのあと冷暗所で10日間置けば、とぎ汁が薄い黄色になり、酸っぱいにおいがするはずです。その状態になったら、牛乳にその汁を加え、増殖を促しましょう。
※他の微生物が増殖しないよう、容器として利用する空きビンはあらかじめ滅菌処理を施しておきます。たっぷりの水が入った鍋にビンを入れ5分ほど煮沸させます。煮沸消毒ができない場合には、焼酎などのアルコール度数の高いお酒で隅々まで良く拭いてください。
土着菌を使ってぼかし肥をつくろう
ぼかし肥とは、
油かすや米ぬかなど有機肥料に、土やモミガラなどを混ぜて発酵させて作る肥料のこと
引用元:カンタン有機肥料、ボカシ肥料の作り方
を指します。土に肥料分を混ぜて薄める=ぼかすという意味合いから”ぼかし”肥というの出そう。早速採取した土着菌を使って、ぼかし肥をつくっていきましょう。必要なものは、
- 米ぬか
- おから
- 採取した菌
- 水
とシンプル。ぼかし肥づくりの流れも
- 原材料と水を混ぜる
- 日陰で発酵させる
で出来上がりというシンプルさです。
採取した菌と水を入れ、よくかき混ぜたら、「米ぬか:おから=3:1」で混ぜたものに加えます。混ぜたものは日陰で発酵させます。発酵が進めば、4〜5日ほどで発酵熱が生じていきます。
今回紹介した菌は全て好気性菌なので、発酵熱が生じ始めてきた頃から切り返し(土の上と下をひっくり返すように混ぜる)を行い、空気を循環させます。
土着菌等を活用した土づくりのコツ
先で紹介した土着菌の採取方法やぼかし肥の作り方ですが、注意点があります。土着菌は当然ながら生きています。そのため、気温や環境によって紹介した日数でうまくことが運ばないこともあれば、発酵が進みすぎることも十分考えられます。
土着菌等を活用して土づくりを行う場合には、彼らが生きていることに配慮して、彼らの変化をよく観察したうえで行動することが大切です。成分が明確に数値化された化学肥料に比べると、手間暇はかかります。しかし微生物と向き合った土づくりには、土の変化が日に日に感じられるという魅力がありますよ!
参考文献