肥料のいらない農業?!光合成細菌を活用した研究に注目

肥料のいらない農業?!光合成細菌を活用した研究に注目

 

農作物を育てるのに「窒素」の存在が欠かせません。野菜を育てるのに窒素肥料を使う人は少なくないでしょう。しかし農作物を育てるのに重要な「窒素肥料」が環境汚染を深刻化させる原因となっている現状も。そんな中、名古屋大学大学院が「光合成細菌」に着目した研究成果が話題となっています。この研究成果により、将来窒素肥料ではなく「空気」を肥料にすることが期待されています。

 

 

肥料によって生じる問題(窒素肥料による環境汚染)

肥料のいらない農業?!光合成細菌を活用した研究に注目|画像1

 

農作物を育てるうえで重要な三要素として

  • 窒素
  • リン酸
  • カリウム

が挙げられます。

特に「窒素」は、植物や動物のタンパク質の構成要素であり、植物を大きく生長させるはたらきがあります。特に葉や茎を大きくします。

窒素肥料は「工業的窒素固定」と呼ばれる製法で作られています。工業的窒素固定とは、

金属触媒を使って高温・高圧で窒素に水素を反応させることでアンモニアを生産する過程。
引用元:空気を肥料とする農業に向け大きく前進~光合成生物に窒素固定酵素を導入~

です。

この製法が開発されたことで、窒素肥料を豊富に供給することができるようになりましたが、この生産方法では大量の化石燃料を必要とします。二酸化炭素を大量に排出する製法であり、また耕作地への窒素肥料の投入により過剰な窒素が環境に流出することなどから、環境汚染の深刻化が問題視されています。

 

 

光合成細菌を活用した研究

肥料のいらない農業?!光合成細菌を活用した研究に注目|画像2

 

そんな窒素肥料における問題を解決する手立てとして、名古屋大学大学院が研究しているのが「光合成細菌」の活用です。

微生物の中には、空気中の窒素を肥料成分として変化させる能力をもつものが存在します。空気中の窒素を肥料成分に変えるために、微生物は「ニトロゲナーゼ」と呼ばれる酵素を使います。「作物自身がニトロゲナーゼを作れるようになれば、作物自身が空気から窒素肥料を作れるようになるのでは」と考えられています。窒素肥料を与える必要がなくなる可能性があるのです。

 

ニトロゲナーゼが抱える課題

しかしニトロゲナーゼには、空気中に含まれる「酸素」に触れると壊れてしまう性質があります。作物自身がニトロゲナーゼを作れるようになるのが理想ですが、植物は光合成により酸素を作っています。ニトロゲナーゼを作れるようになっても、光合成で作り出した酸素で作ったニトロゲナーゼが破壊されてしまっては意味がありません。

そのうえ、現時点の研究ではニトロゲナーゼを正常に作るために必要な遺伝子の数が正確にわかっておらず、また作るのに必要な多くの遺伝子を植物に導入することは困難です。

 

光合成細菌とは

そこで注目されたのが「光合成細菌」です。光合成細菌は、田んぼなどに多く生息する嫌気性(酸素を嫌う)菌です。水がためられている場所、有機物が多い場所、明るい場所を好みます。

光合成細菌が必要とする栄養分は、イネの根腐れの原因となる硫化水素や悪臭の原因となるメルカプタンなど農作物に有害な物質です。そして彼らが作り出す物質は、植物や微生物などが栄養分として欲するアミノ酸や核酸など。光合成細菌が作り出す核酸には、果実の色や収量を改善するはたらきがあると言われています。

農業従事者には心強い「味方」と言っても過言ではありません。

なお名古屋大学大学院の研究で用いられた微生物は光合成細菌の一種である「シアノバクテリア」です。この種の中には「窒素固定」※の能力をもたないものと、光合成を行いながらニトロゲナーゼを働かせて窒素固定ができるものがいます。

※大気中の窒素をアンモニアに変換する過程。アンモニアは、植物の窒素源になる。

 

名古屋大学大学院による研究

「ニトロゲナーゼの導入」という研究自体は報告されています。イギリスと中国の研究グループは、大腸菌などの微生物にニトロゲナーゼを働かせました。スペインでは酵母菌にニトロゲナーゼの一部を作らせています。しかし植物など、光合成を行う生物にニトロゲナーゼを働かせる研究は報告されていませんでした。

そこで名古屋大学大学院は、シアノバクテリアに着目。窒素固定の能力をもたないものに窒素固定の遺伝子を導入し、ニトロゲナーゼを作らせるという研究を行ったのです。結果として窒素固定酵素と関連する遺伝子をシアノバクテリアに導入し、光合成生物に窒素固定の能力を付与することに成功しました。

もちろん課題は残っています。

能力を付与することには成功しましたが、窒素固定ができるシアノバクテリアによるニトロゲナーゼのはたらきを100%とすると、導入に成功した種のはたらきは0.3%程度しかありませんでした。

ニトロゲナーゼを構成するタンパク質の割合は、窒素固定可能な種の6〜23%でした。0.3%程度しかニトロゲナーゼがはたらいていなかったことと照らし合わせると、作り出されたニトロゲナーゼタンパク質のうち、1〜4%ほどしか窒素固定のはたらきがない、ということがわかります。

しかし遺伝子の導入により窒素固定の能力が付与されると分かったことで、今後の研究への期待が高まります。

  • いくつ遺伝子が必要なのか
  • どのように遺伝子を制御すればいいのか

などの研究成果が手に入れば、最終目標でもある「植物自身に窒素固定能力を付与する」へ一歩近づきます。

 

参考文献

  1. 「空気を肥料とする」農業へ! 名大の研究が大きな一歩 AGRI JOURNAL
  2. 共同発表:空気を肥料とする農業に向け大きく前進~光合成生物に窒素固定酵素を導入~ 名古屋大学
  3. 光合成細菌 現代農業用語集
  4. 「光合成細菌」の利用/農業資材情報館
  5. 牧  孝昭、『光合成細菌(主としてRhodobacter capsulatus)の農業,畜産,環境,水産への応用』

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