市販発酵食品がもつ土壌改良の力!よく食べられる「納豆」を農業に活かす

市販発酵食品がもつ土壌改良の力!よく食べられる「納豆」を農業に活かす

近年「有機栽培」や農薬も肥料も使用しない「自然栽培」などの農法を目にする機会が増えたのではないでしょうか。

化学的につくられた農薬や肥料が「悪」というわけではないものの、消費者の食に対する安全・安心志向の高まりや、連作障害や特定の農薬、肥料が土壌中に蓄積することで起こる土壌環境の悪化などから、注目が高まっているのは事実です。

そんな中、有用微生物を活用した農業資材も注目を集めており、農家さんの中には、日常の食生活で馴染みのある発酵食品を使って土壌改良を行う人もいます。

そこで本記事では、土壌や植物に普遍的に存在する枯草菌の一種であり、市販発酵食品では「納豆」として馴染みのある納豆菌に着目しました。

 

 

納豆がもつ力

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納豆菌とは

納豆菌は「枯草菌」の一種であり、酸素を好む好気性菌です。pH7〜8の弱アルカリな環境を好み、タンパク質やデンプン、脂肪を分解します。環境が悪化すると芽胞をつくり、休眠状態に入るので、高温にも低温にも、乾燥にも紫外線にも強い、なかなかたくましい微生物です。

増殖速度が速く、筆者が微生物を研究していたときにはコンタミ(汚染)原因として嫌われていましたが、農業においては、農作物に悪影響を及ぼす病原菌よりもはやく増殖することで、土壌中の環境を整える役割を担っています。

本記事でご紹介するのは、市販されている「納豆」の活用法ですが、枯草菌であるバチルス菌(納豆の学名はBacillus subtilis var. natto)は微生物農薬として販売されています。

納豆菌の働き

先でも紹介したように、納豆菌はタンパク質やデンプン、脂肪を分解します。中でもタンパク質を分解する酵素・プロテアーゼは、カビやセンチュウといった農作物に害を与える病害菌・病害虫の防除に役立ちます。

例えばカビは、植物の細胞壁を構成するセルロースを分解する酵素をもっているため、植物を分解、植物の細胞内に進入できます。それが連作障害の原因となるのですが、土壌中に納豆菌を投入することで、その増殖スピードにより、カビの増殖を抑制することができます。

センチュウの場合、納豆菌が直接センチュウの増殖に関わるわけではありません。ですが、納豆菌が土壌に投入されることで、土壌中の生物多様性が高まると、センチュウの増殖を抑えることはできます。土壌中の生態系のバランスを整えることが、病害虫の被害を抑えるために重要です。

納豆菌による「亜硝酸の還元」も植物にとって有益です。納豆菌は亜硝酸を食べ、アミノ酸に変えます。納豆菌が亜硝酸をアミノ酸に変えることで、納豆菌が死んだ後、植物がそのアミノ酸を吸収することができます。

 

 

市販発酵食品を活用する際のポイントと注意点

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納豆に限らず、市販発酵食品や微生物資材を活用する際には意識しなければならないことがあります。

ポイント

「納豆菌の働き」でも触れましたが、土壌改良のために大切なのは、納豆菌や市販発酵食品、微生物資材を投入することではなく、土壌中の生態系のバランスを整えることです。

そのため、微生物資材を投入し続けるのではなく、その微生物をどう活性化させるかを意識しながら投入しなければなりません。

微生物資材の稲わらを分解する効果について、市販されている微生物資材を10種類調査した実験では、土壌中に微生物資材を投入するより米ぬかを添加したほうが、稲わら分解の効果が大きく、資材を購入するより経済的という結論が出されています。

微生物資材の堆肥化促進効果について調べる実験においても、微生物資材を投入し続けるのではなく、一度投入した微生物資材で一次発酵を行い、それを再び活用することが堆肥化の促進につながったとあります。

ただ土壌に投入するのではなく、土壌の様子を観察しながら投入する必要があるのです。

注意点

微生物資材は化学的につくられた農薬や肥料のように、即効性があるものでも、病気を必ずなくすものでもありません。病害虫による被害を軽減し、抑制することはできても、病気の影響を0にすることはできません。

そのため、圃場の環境が著しく悪い場合には、微生物資材を活用する前に土壌消毒を行うなどの対処が必要です。

 

 

納豆菌の培養方法

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納豆菌は空気と栄養さえあれば増殖するので、培養方法はとてもシンプルです。

もっともシンプルな培養方法は、

  1. 市販の納豆を1パック分、粉砕する
  2. 10リットルほどの水に加え、数日間培養する

これだけで土壌にまく量の納豆菌を増やすことはできます。培養期間は、培養する季節や気温によって変わってきます。なお、納豆菌が活発に活動する温度は40度です。

また納豆菌が生育するための栄養として黒糖や豆乳を加える人もいるようです。与える栄養を変えて、土壌中への影響力を観察し、自分だけの培養方法を編み出すのもおすすめです。

 

 

納豆菌活用事例

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「元農園(チアファーム)」では、納豆菌のみならず、昆布を浸した水や古くから有機肥料として使われてきた醤油かすなどを土壌中に混ぜ、野菜の生育や味わいなどを研究しています

納豆菌はカビ対策、昆布水は野菜へのミネラル補給とのこと。

株式会社トモ・コーポレーションが、農業・林業・エコ村・漁業・エネルギー・流通の実験村として建設した「エコ村」でも、納豆活用事例が紹介されていました。

納豆菌はウドンコ病や灰色カビ病に効果があると言われています。そこで納豆と飲むヨーグルト、ドライイーストなどを混ぜた「えひめAI」という菌液を用意し、農作物に散布しています。

 

【合わせて読みたい!】

身近な食品微生物・納豆菌の農業利用。納豆菌が与える土壌への効果とは

 

参考文献

  1. 公開シンポジウム 微生物を利用した農業資材の現状と将来
  2. 納豆菌_現代農業用語集
  3. チアファーム 元農園
  4. 昆布水や納豆菌で土作り!栄養満点の露地野菜を忙しい女性に届けたい【農業女子の畑から】
  5. 納豆を利用して菌液を作りました。|エコ村
  6. 橋本俊祐、河村郁恵、中島雅己 ほか、納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)によるイチゴの灰色かび病に対する抑制効果 日本植物病理学会報 Vol.78 (2012) No.2 p.104-107
  7. 橋本俊祐・中島雅己・阿久津克己(2010a). 納豆菌(Bacillus subtilis)によるイチゴ炭疽病とキュウリ褐斑病に対する抑制効果
  8. 仲川晃生、井上康宏、越智直 ほか、納豆調製液によるジャガイモそうか病の種いも伝染防止効果 関東東山病害虫研究会報 Vol.2014 (2014) No.61 p.31-34,

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