乳酸菌とは“糖を発酵して乳酸を作る菌の総称(出典元:朝倉書店栄養・生化学辞典)です。乳酸桿菌(棒状の形をしている細菌)と乳酸球菌に大別され、多数の属、多様な種が存在します。乳酸桿菌の代表的なものはヨーグルトや乳酸菌飲料などをつくるラクトバチルス属、乳酸球菌はチーズやヨーグルトなどをつくるストレプトコッカス属が挙げられます。どちらも通性嫌気性、酸素のない条件下で乳酸を生成しますが、酸素があっても生育できます(酸素があると生育できないものは絶対嫌気性といいます)。
そんな乳酸菌は食品製造や整腸剤などに利用されるだけでなく、農業でも活用されています。そこで本記事では、論文で紹介されていた農作物にもたらす乳酸菌の効果についてまとめました。
乳酸菌が農作物にもたらす効果
乳酸菌は土壌の改良や病気の抑制、植物の成長を促進する目的で、微生物資材として長い間活用され続けています。
松井三郎『乳酸菌Lactobacillus fermentum 403菌が生成するオーキシン・サイトカイニンの分析方法の開発―プロバイオティク環境農業への応用原理』(日本水処理生物学会誌 第48巻 第3号 117-123、 2012年)の序文には、農業への乳酸菌使用について以下のような効果がまとめられています。
- エンドファイト効果※
- 栽培中の葉面散布による病害虫防除効果
- 土壌構造を柔らかくすることによる土壌環境改善効果
- 乳酸菌が共生する植物の成長、開花、結実を促進する効果
※エンドファイトとは“植物の体内に共生する真菌や細菌などの微生物の総称。植物の生存に役立つ生理活性物質を産生するほか、家畜の中毒を引き起こす毒素をつくる微生物もいる。(出典元:小学館 デジタル大辞泉)”。エンドファイト効果は、植物に共生し、植物病原菌への免疫効果や害虫に対して毒を分泌して植物を守る効果を持ち、かつ植物を摂取する動物や人間に悪影響を与えないことが条件である。上記論文では、腸内環境を改善する微生物として実績のある乳酸菌がその条件を満たし、すでに鶏や豚などの家畜に問題がないことを実証していることが記されている。
また収穫量の改善や野菜の旨味、果物の糖度、コメの甘味を増進する効果が認められた、ともあります。
土壌環境改善効果については、
John R. Lamont らが執筆したレビュー論文『From yogurt to yield: Potential applications of lactic acid bacteria in plant production』(Soil Biology and Biochemistry 、2017年8月)では、土壌中の乳酸菌が生成する乳酸によって病害菌が抑えられることの他に
- 土壌の通気性の改善
- 肥料の溶解度の増加
- 植物の成長、種子の発芽を促進
などの効果が挙げられています。
自然発酵で乳酸菌を取り入れる農法も
韓国では、植物の成長促進と病害の原因となる生物から作物を守るために、その場で採取した乳酸菌を取り入れる農法(韓国式自然農法)があります。韓国の自然農法を考案した趙漢珪(チョウ ハンギュ)氏が考案した「天恵緑汁(てんけいりょくじゅう)」はヨモギやセリといった植物を黒砂糖に浸けておくことでできる発酵液で、この中に含まれる微生物の多くは乳酸菌と酵母だといわれています。
参考文献
- 乳酸菌_現代農業用語集
- 松井三郎『乳酸菌Lactobacillus fermentum 403菌が生成するオーキシン・サイトカイニンの分析方法の開発―プロバイオティク環境農業への応用原理』(日本水処理生物学会誌 第48巻 第3号 117-123、 2012年)
- From yogurt to yield: Potential applications of lactic acid bacteria in plant production
- The Prominent Role of Lactic Acid Bacteria in Agriculture and EM
- 趙 漢珪『土着微生物を活かす―韓国自然農業の考え方と実際』(農山漁村文化協会、1995年)
- 天恵緑汁_現代農業用語集