植物病害を引き起こす病原体まとめ。細菌類と菌類、ウイルスの違いとは

植物病害を引き起こす病原体まとめ。細菌類と菌類、ウイルスの違いとは

植物病害を引き起こす病原体には、細菌やウイルスなどさまざまなものがあります。そこで本記事では、病原体である細菌類や菌類、ウイルスにはどのような違いがあるのか、それぞれに特徴的な病気の症状などについて紹介していきます。

 

 

病原体の種類

植物病害を引き起こす病原体まとめ。細菌類と菌類、ウイルスの違いとは|画像1

 

植物に病害を引き起こす病原体は以下の通り。

  • ウイロイド
  • ウイルス
  • 細菌(放線菌やファイトプラズマを含む)
  • 菌類
  • センチュウ及び寄生植物など

本記事ではこのうち、ウイロイド、ウイルス、細菌、菌類について紹介していきます。

ウイルスとウイロイド

ウイロイドとは、ウイルスよりも小さい病原体で、その特徴には塩基数200〜400程度の環状の一本鎖RNAで構成されている、ウイルスと違って外被タンパク質をもたない、熱や紫外線に対して比較的安定であることがあげられます。

なお、ウイルスやウイロイドは細胞構造をもたないことや自己増殖機能を欠くことなどから、一般的な生物の定義からははずれたものとされています。理科の教科書では、完全に非生物として扱われるのではなく、生物と非生物の中間的存在として扱われている場合もあります。

※アズワン株式会社が運営する研究者のためのコミュニケーションサイト「Lab BRAINS」が2024年2月に公開した記事によると、ウイルスとウイロイドの中間的存在が発見されたとあります。この研究論文は正式な査読を受けていない状態のものですが、今後、今以上に細かく分類されていくかもしれません。

細菌

細菌は細胞核をもたず、単一の細胞で構成される原核生物です。真核生物の細胞に比べ小さいです。細菌の分類基準には以下のものがあげられます。

  • 全体の形状(球菌、桿菌(棒状の形をしている細菌))
  • グラム反応※
  • 好気性か嫌気性か
  • コロニーの色と形
  • 生育温度
  • 各種生理生化学的性状など

※グラム反応とは、細菌を同定するために行われる、細菌類を色素によって染色する方法「グラム染色」での反応のことです。グラム染色は細菌細胞の表層構造の違いによって染色性が異なることを利用したものです。染色を行い、紫色に染まるものをグラム陽性菌、染まらないものをグラム陰性菌といいます。

現在でも、これらの分類基準は細菌を調べる上で欠かせないものですが、正確に分類するためには遺伝子のデータが必要になります。

菌類

菌類は、原核生物である細菌やウイルスなどとはまったく異なるもので、日常で親しまれている名称でいえば、キノコやカビ、酵母などが菌類に含まれます。なお、本記事で扱う菌類はやや専門的な名称で表した以下の生物をまとめたものの総称です。

  • 接合菌類
  • 子のう菌類
  • 担子菌類
  • 不完全菌類
  • 原生動物界※のネコブカビなど

※なお、原生動物界は生物の分類の1つで、真核生物のうち、菌界にも植物界にも動物界にも含まれない生物のことです。生物全体を5つの界に分ける「五界説」の図で、菌界、原生動物界の位置付けが分かります。本記事においては植物病害の原因として「菌類」とまとめています。

植物病害の9割近くは菌類によって引き起こされる菌類病(糸状菌病)です。「糸状菌」というのは、菌類のうち菌糸と呼ばれる管状の細胞から構成されているものの総称で、いわゆる「カビ」のことです。

 

 

病原体による病徴の違い

植物病害を引き起こす病原体まとめ。細菌類と菌類、ウイルスの違いとは|画像2

 

病原体による病徴の違いを紹介します。ただし、後述にも記していますが、ある1つの病徴だけで病原体を特定するのは困難です。あくまでも、何の病気かという仮説を立てるのに役立てていただけると幸いです。

ウイロイド、ウイルス

代表的な病徴は以下の通り。

病名

特徴

キュウリモザイク病など

葉の緑色に濃淡が生じ、モザイク状になる。
萎縮病など

葉脈のみが濃い緑色になったり、黄白色になったりする。葉が細く奇形になる。株全体が萎縮する

黄化病など

株全体が黄化する

症状からウイロイドかウイルスかを見分けるのは困難です。

細菌

一般的には斑点を形成するか、軟化、腐敗が起きます。病斑の特徴は円形やすじ状、葉脈に沿って褐色の病斑を形成するなど。細菌病の病斑は特徴的で、いずれの病斑も陽に透かすと病斑のまわりに黄色いカサが見られるとされています。

軟化、腐敗するとほとんどは悪臭を放ちます。まれに悪臭を出さずに軟化する細菌病もありますが、少ないです。

土壌伝染性の細菌病である青枯病は、一般的に高温時に発生し、はじめは日中に萎れ、夜間に回復するを繰り返した後に、萎れたまま回復しないようになり、茎葉は緑色のままなのに維管束が褐変して枯れます。

本記事において細菌類に含まれるファイトプラズマ(わずか0.1マイクロメートルというウイルスほどの大きさで細胞壁を持たない)が原因の病気では、葉が黄化したり、葉の周辺がやや白っぽくなったりします。ファイトプラズマの病徴には細くて黄化した茎や葉、葉柄が無数に生じて天ぐ巣状になるなど、植物の外観を大きく変えてしまう特徴があります。

菌類

植物病害を引き起こす菌類は、変形菌類、鞭毛菌類、子のう菌類、担子菌類、不完全菌類※に大別され、病害の発生の仕方や病徴にはそれぞれ特徴があります。本記事では変形菌類、鞭毛菌類、子のう菌類、担子菌類の特徴を紹介します。

※不完全菌類は無性的に形成される分生子しか確認されていない菌類を類別したものです。ただし、この種に属する菌類のうち完全時代(有性的生活環)が確認されたものには完全時代の菌名がつけられており、大半は子のう菌類に属しています。このような菌は、完全時代と不完全時代(無性的生活環)の名前を持つことになります。

変形菌類

たとえば変形菌類に属し、アブラナ科野菜に寄生する根こぶ病菌は、根に大小不整形のコブが形成されます。

鞭毛菌類

鞭毛菌類に属す病原菌はいずれも水分を好み、水分の多い条件で多く発生します。

ピシウム属菌による病徴には、根や茎、葉、果実に発生するやや軟化した腐敗病斑や立ち枯れの症状があげられます。

べと病では、はじめ葉に淡黄色の境目が曖昧な小さな斑点が出て、その後、特徴的な角形でステンドグラス状の黄褐色の病斑、葉裏にやや褐色のカビが生じます。

子のう菌類

イチゴの炭疽病やうどんこ病、菌核病などは子のう菌類による病気です。

炭疽病、菌核病は病斑にはっきりしない輪紋をつくります。炭疽病の場合は、その後鮭肉色または黒色で針の頭大の小さな円形の斑点が生じます。菌核病は葉にははっきりしない輪紋の病斑が、果実や茎などで白色綿毛状のカビが生じ、腐敗した病斑になっていきます。そして特徴的な黒色不整形のネズミの糞状の菌核をつくります。

担子菌類

さび病、ハクサイの尻腐れ病、イネの紋枯病、白絹病などは担子菌類の病気です。

病名

特徴

さび病

ダイダイ色でやや盛り上がった小斑点を多数形成

尻腐れ病

土と接した葉の白色部分に褐色で不整形のくぼんだ病斑ができ、悪化するとそこから腐敗する

紋枯病

イネの茎に紋枯病斑をつくる

白絹病

艶のある白い絹糸状のカビが生じる
→褐色不整形の病斑をつくる
→アワ粒大の褐色の小さな菌核を無数に形成する

 

参考文献

  • 夏秋啓子『農学基礎シリーズ 植物病理学の基礎』(農文協、2021年)
  • 米山伸吾他『新版 仕組みを知って上手に防除 病気・害虫の出方と農薬選び』(農文協、2022年)

参照サイト

(2024年6月17日閲覧)

微生物カテゴリの最新記事