植物への窒素供給に期待!?窒素固定菌「アゾトバクター」とは。

植物への窒素供給に期待!?窒素固定菌「アゾトバクター」とは。

植物の生育に必要な栄養分として代表的なものに窒素があります。

窒素は地球上にさまざまな形で存在しています。窒素ガス(N2)は大気中の78%を占め、アンモニア(NH3)や硝酸イオン(NO3-)などの無機化合物は土壌や水などに存在します。これらの窒素は工業的な化学反応や微生物や植物などの生物による化学反応などで形を変えていきながら、自然界を循環しています。

そんな窒素は農業において必要不可欠なものですが、植物の栄養分として与えすぎると環境に悪影響を及ぼします。肥料を与えすぎると作物が窒素を吸収しきれず、土壌中に肥料成分が蓄積されていきます。土の中に蓄積された窒素が形を変え、地下水や河川などに流れ込むと、圃場周辺の環境などに悪影響を与えてしまいます。そのため、このような肥料は適切な施用量で用いることが大切です。

また近年、環境問題への意識の高まりから、単一の栄養分を与えることができる化学肥料を減らす方法や、化学的に合成された肥料や農薬を使わない有機栽培などに注目が集まっています。

そして、上記のような、化学肥料に依存しない取り組みを調べていたところ「アゾトバクター」という単語を見つけました。

 

 

アゾトバクターとは

植物への窒素供給に期待!?窒素固定菌「アゾトバクター」とは。|画像1

 

アゾトバクターとは

土壌中,水中に広く分布し,自然界の有機物を消費して窒素固定を行う好気性細菌。

出典元:株式会社平凡社世界大百科事典 第2版

のこと。「学研キッズネット」に掲載されている解説文には“空気中の窒素を単独に固定する能力をもった細菌”とあります。

『世界大百科事典 第2版』には

近年,植物根圏および葉圏において,アゾトバクターなどの窒素固定菌が分布していることがわかり,これらの細菌は植物の分泌する有機物を消費して窒素固定を行い,固定された窒素はいずれ植物に吸収利用され,一種の緩い共生関係にあるものと考えられている。

出典元:株式会社平凡社世界大百科事典 第2版

とも書かれています。

そもそも「窒素固定」とは

「空気中の窒素ガス(分子状の窒素)を利用して、窒素化合物を合成すること」です。窒素固定には「工業的窒素固定」と「生物的窒素固定」があります。

農作物に用いられる、化学的に合成された窒素肥料は「ハーバー・ボッシュ法」と呼ばれる工業的窒素固定で合成されたものです。これは鉄を主体とした金属触媒上で空気中の窒素と水素を高温・高圧条件下で反応させ、アンモニアを生産する方法です。しかしこの方法には大量の化石燃料が必要で、工業的窒素固定で排出される二酸化炭素量が環境問題の観点から問題視されています。

一方、生物的窒素固定は、窒素を固定する性質をもつ微生物の窒素固定酵素「ニトロゲナーゼ」による酵素反応で窒素化合物の合成が行われます。生物的窒素固定の例でよく知られているのはマメ科植物と共生する根粒菌が行う空気中の窒素固定です。そのほか、シアノバクテリア、光合成細菌、らん藻、そして本記事でご紹介するアゾトバクターなどが窒素固定菌として知られています。

 

 

アゾトバクターが植物に与える影響とは

植物への窒素供給に期待!?窒素固定菌「アゾトバクター」とは。|画像2

 

Current Agriculture Research Journalに掲載されているレビュー論文『Potential Use of Azotobacter Chroococcum in Crop Production: An Overview』には、アゾトバクター・クロロコッカムの作物生産への影響について報告されています。アゾトバクターは窒素を固定する性質のみならず、植物の成長を促進する観点からも注目される微生物です。

アゾトバクター属細菌は植物の成長を促進するオーキシンやサイトカイニンなどの植物ホルモンを合成し、これらの物質は植物の成長を促します。論文内で挙げられていた研究報告には

  • トマトとキュウリの根圏に存在するアゾトバクター・クロロコッカムが、苗の発芽と成長率の増加に関連している
  • アゾトバクター・クロロコッカムを接種したリン酸欠乏土壌で栽培したトマトの乾燥重量が、接種していないものに比べ、大きかった
  • 温室条件下でタマネギの苗に、リン酸の吸収を助けるグロムス菌(アーバスキュラー菌根※1を形成する菌類)とアゾトバクターを摂取したところ、タマネギの根の長さ、植物の高さ、球根の重量やリンの取り込み量が向上した
  • 温室条件下でアゾトバクター・クロロコッカスを接種した土壌で栽培したブラウンサルソンの種子と茎葉の両方で、対照と比較して窒素とリン酸の有意な取り込みが記録された
  • アゾトバクター・クロロコッカムは、根圏に存在する、苗を枯らす原因となるいくつかの病原性真菌の増殖を阻害する抗生物質を産生する

などが挙げられています。

リン酸の取り込み量が向上することから、アルカリ性土壌※2において肥料散布時にアゾトバクターの接種を併用することで、生産性維持に必要なリン酸肥料の量を減らすことができるとも考えられています。

アゾトバクターの植物成長促進作用の正確な様式はまだ完全には解明されていないものの、その高い窒素固定性や植物成長促進効果から、窒素固定に関する研究や植物への接種に用いられ、その使用は農業の作物生産を向上させることが期待されています。

※1 菌根のカテゴリーの一つで、草本をはじめ、陸上植物の70%以上の根に形成される菌根のこと
※2 アゾトバクターは基本的な土壌に生息していますが、中性およびアルカリ性の土壌に見られ、酸性土壌ではありません。“アルカリ性土壌において”と限定的なのは、アゾトバクターの生息域に関係していると考えられます。

 

参考文献

  1. 農業における窒素と環境の関わり
  2. アゾトバクター|あ|辞典|学研キッズネット
  3. 窒素固定-ルーラル電子図書館–農業技術事典 NAROPEDIA
  4. 微生物共培養による窒素固定能の発現 – J-Stage
  5. 空気を肥料とする植物は可能か? – 光合成生物で窒素固定酵素を作動させる試み|academist jornal
  6. Potential Use of Azotobacter Chroococcum in Crop Production: An Overview
  7. 菌根とは
  8. アーバスキュラー菌根菌 – 農研機構

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