今更聞けない「菌根菌」。菌根菌の分類やよく目にする「アーバスキュラー菌根菌」について。

今更聞けない「菌根菌」。菌根菌の分類やよく目にする「アーバスキュラー菌根菌」について。

菌根菌は植物の根に共生して生育する微生物の総称です。菌根菌は土壌中の養分を吸収して植物に供給し、その一方で植物が光合成によって生成した物質を受け取ることで生育しています。

本記事ではそんな「菌根菌」に着目し、実はさまざまな種類がいる菌根菌や農業資材などで目にする「アーバスキュラー菌根菌」についてご紹介していきます。

 

 

菌根と菌根菌

今更聞けない「菌根菌」。菌根菌の分類やよく目にする「アーバスキュラー菌根菌」について。|画像1

 

まず「菌根」は

植物の根と菌とが緊密に結合して一体となり、共生的関係で結ばれている根をいうが、菌根は特殊な根ではなく、ほとんどすべての陸上植物は菌根をもち、菌とともに生活する。外生菌根と内生菌根とがある。

出典元:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)

を意味します。

外生菌根

外生菌根は、植物側は樹木(マツ、ブナなど)に多く、外生菌根をつくる菌にはマツタケ目(テングタケ科、ベニタケ科、キシメジ科のホンシメジやマツタケなど)が挙げられます。ちなみにマツタケが人工的に栽培できないのは、菌根をつくるキノコが共生する植物から離れて生育することができないためです。

内生菌根

外生菌根をつくらない樹木や陸上生活をする草のほとんどが、主に糸状菌(一般的にカビと呼ばれる微生物。)と内生菌根をつくります。

外生菌根と内生菌根の違いについては

菌糸が維管束植物の根を覆って,その表面の付近の組織中に繁殖し,キノコ様の構造をつくるものを外菌根または外生菌根といい,菌糸が根の皮層の組織の細胞内で生活しているものを内菌根または内生菌根という。

出典元:株式会社平凡社世界大百科事典 第2版

とも表されます。

また他に、外生菌根と内生菌根の中間的な性質を持つ「内外生菌根」や共生関係が不明瞭な「擬菌根」が挙げられます。

そして冒頭でも紹介しましたが、「菌根菌」は植物の根と共生関係にある微生物の総称です。「共生」とは

異なる種類の生物が、生理的あるいは生態的に緊密な結び付きを保ちながらいっしょに生活している現象。

出典元:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)

を意味します。植物と菌の関係は基本的に、その両方が生活上の利益を受ける「相利共生」と呼ばれる関係です。一方、異なる種類の生物のうち、片方が利益を受け、もう片方が利益も不利益も受けない場合には「片利共生」、片方が利益を受け、もう片方が不利益を受ける場合には「寄生」といいます。

 

 

代表的な菌根菌「アーバスキュラー菌根菌」とは

今更聞けない「菌根菌」。菌根菌の分類やよく目にする「アーバスキュラー菌根菌」について。|画像2

 

アーバスキュラー菌根菌は最も代表的な菌根菌といえます。およそ80%もの陸上植物の根に共生しているもっとも普遍的な菌根菌です。ほとんどの陸上植物がアーバスキュラー菌根と共生できますが、アブラナ科やアカザ科の作物など、ごく一部の植物は共生できません。

アーバスキュラー菌根菌は土壌中の養分の中でもとりわけリン酸を吸収します。

松崎克彦『アーパスキュラー菌根菌とその利用』(農業および園芸第 84巻 第 1号 、2009年)によると、“リン酸は土壌粒子に吸着されやすく、土壌中での移動速度も遅い”とあります。そのため植物は根毛のある範囲のリン酸しか吸収することができません。植物の生育に不可欠な窒素、リン酸、カリウムのうち、このような理由からリン酸が最も吸収しにくいといわれています。

アーバスキュラー菌根菌は植物の根から外部に伸ばした菌糸によって、リン酸を土壌中から吸収し、共生する植物に供給します。そのため、リン酸の少ない土壌で菌根菌をうまく活用できれば、リン肥料を与えなくても植物の生育を支えることができます。Keitaro Tawaraya & Ryouta Hirose & Tadao Wagatsuma『Inoculation of arbuscular mycorrhizal fungi can substantially reduce phosphate fertilizer application to Allium fistulosum L. and achieve marketable yield under field condition』(Biology and Fertility of Soils volume 48, pages839–843 (2012))によると、ネギにアーバスキュラー菌根菌を接種して栽培した結果、リン酸の施肥なしで1.5〜3倍の収量が得られた、と報告されています。

そのほか、亜鉛などのミネラルの吸収促進、アーバスキュラー菌根菌によって根圏域が広げられることで植物が水分を吸収しやすくなり、乾燥ストレス耐性が向上する、病害抵抗性が向上するなどの利点が挙げられます。

なおアーバスキュラー菌根菌は「絶対共生菌」として知られています。「絶対共生」とはすなわち、共生する植物なしでは生きられないことを表します。しかし近年、アーバスキュラー菌根菌の純粋培養に成功したという研究発表が報告されました。

共同発表:アーバスキュラー菌根菌の純粋培養に世界で初めて成功~微生物肥料としての大量生産に道~

この研究成果は、英国時間2019年6月24日に英国科学誌「NatureMicrobiology」のオンライン速報版で公開されました。

先で紹介した「ネギにアーバスキュラー菌根菌を接種した」実験でも紹介しましたが、アーバスキュラー菌根菌を活用することで、土壌へのリン酸肥料の施肥を減らすことができれば、環境負荷の低減に役立てられると考えられます。

アーバスキュラー菌根菌の純粋培養、すなわち共生する植物を必要としない培養方法が確立されれば、農業利用に役立つアーバスキュラー菌根菌の低コストで安定的な大量生産が可能になる、と期待されています。

 

参考文献

  1. 「菌根」『日本大百科全書(ニッポニカ)』(小学館、1984年)
  2. 菌根
  3. 土と助け合う生物「キンコンキンってなんだ?」●企画展「土のけしき・土のふしぎ」 東北大学総合学術博物館のすべて IX
  4. 菌根とは
  5. 理研ニュース No.474 2020年12月発行
  6. 「アーバスキュラー菌根菌」とは何者か?〜理化学研究所 市橋泰範氏 中編|農業とITの未来メディア「SMART AGRI(スマートアグリ)」
  7. 松崎克彦『アーパスキュラー菌根菌とその利用』(農業および園芸第 84巻 第 1号 、2009年)
  8. Keitaro Tawaraya & Ryouta Hirose & Tadao Wagatsuma『Inoculation of arbuscular mycorrhizal fungi can substantially reduce phosphate fertilizer application to Allium fistulosum L. and achieve marketable yield under field condition』(Biology and Fertility of Soils volume 48, pages839–843 (2012))
  9. 共同発表:アーバスキュラー菌根菌の純粋培養に世界で初めて成功~微生物肥料としての大量生産に道~

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