近年、薬用植物(薬草)の栽培に注目が集まっています。
薬用植物とは
薬用植物は漢方・生薬製剤(生薬を含む)の原料となります。
なお「生薬」とは、「漢方薬」を構成する原料の一つです。
生薬(しょうやく)とは、植物の葉、茎、根などや鉱物、動物のなかで薬効があるとされる一部分を加工したものです。(加工とは、切る、乾燥する、蒸すなどをさします。)
一方「漢方薬」は、基本的に2種類以上の生薬を組み合わせた薬を指します。近年では抗がん剤の副作用の軽減や高齢者疾患の重症化の予防など、医療現場における漢方薬の需要が高まっています。
厚生労働省「薬事工業生産動態統計(2018)」によると、漢方・生薬製剤(生薬を含む)の生産金額は医薬品市場全体の約2.8%と少額なのですが、過去5年間で21.9%増加と、需要の増加が見られます。これらの原料となる生薬は中国産が全体の約77%を占めています。
しかし中国産生薬の価格が高騰していることから、国内での生産需要が高まっています。
薬用植物の栽培に規制はありません。ただし、栽培した薬用植物を漢方薬にする場合は「医薬品医療機器法」など、さまざまな条件を満たす必要があります。そのため一般的には医薬品メーカーや製薬会社に栽培した作物を全て買い取ってもらう契約を結ぶなどして、実需者と連携して栽培を行っています。
薬用植物の栽培に関する基本的な情報については、薬用作物産地支援協議会の刊行物『これから始める!薬用作物の栽培ガイド』が非常にわかりやすいのでぜひ読んでみてください。
薬用植物にはどのようなものがあるのか
薬用植物の種類はたくさんあります。例えば武田薬品工業株式会社のホームページには「日本薬局方に収載される代表的な薬用植物」が掲載されています。ドクダミやセンブリといった「薬効があるとされる植物」としてうなづけるものやアサガオやキクといった馴染み深い花、強毒成分をもつトリカブトやあまり聞き馴染みのないヒナタイノコヅチなどがあります。もちろん、ここに掲載されているものだけに留まりません。
関連URL:日本薬局方に収載される代表的な薬用植物:武田薬品工業株式会社 京都薬用植物園
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)では、薬用植物の中でも需要が多い5つの薬用植物、
- トウキ
- ミシマサイコ
- カンゾウ
- オタネニンジン
- シャクヤク
の栽培技術紹介パンフレットを公開しています。
関連URL:薬用作物栽培の手引き〜薬用作物の国内生産拡大に向けた技術の開発〜|農研機構
トウキ
トウキは生薬の一つ「当帰」の原料です。「当帰」は冷え性、貧血、月経不順などの婦人病に用いられる生薬で、国内での使用量が多い生薬の一つといわれています。セリ科シシウド属の多年生植物であるトウキは根が生薬として利用されます。
トウキの栽培は、本州では山間地などのやや冷涼な地域で、日当たりがよく、排水性の高い場所が適しています。春に種を播き、育苗したものを翌年春に移植、秋に収穫します。
ミシマサイコ
ミシマサイコは生薬「柴胡」の原料で、「柴胡」は精神的な不安や不眠などに効果のある漢方「柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」などに配合されています。セリ科ミシマサイコ属の多年生植物で根が利用されます。
ミシマサイコの栽培は、温暖な地域で、日当たりがよく、排水性の良い場所が適しています。播種時期は3〜4月で、収穫期は秋。1年または2年で収穫します。
カンゾウ
マメ科カンゾウ属の多年生植物のカンゾウは生薬「甘草」の原料です。「甘草」は約70%の漢方薬に配合され、解熱、鎮痛などの処方に配合されています。
冷涼・乾燥した気候を好むカンゾウは、砂漠地帯のような乾燥地や栄養の乏しい土壌、塩類集積土壌などでも自生する、ストレス耐性の高い植物です。根が深く伸びるため、通気性や排水性の良い土壌が好ましいです。播種時期は4〜5月、収穫時期は10〜11月。収穫まで3年を要します。
オタネニンジン
ウコギ科の多年生植物であるオタネニンジンは、滋養・強壮、抗疲労などの効能のある生薬の原料です。
オタネニンジンは冷涼な気候を好みます。生育が遅いので収穫まで5〜6年を要します。また強い光に弱く、栽培する際は日除けが必須です。
シャクヤク
ボタン科ボタン属の多年生植物のシャクヤクは、鎮痛薬や冷え症用薬、かぜ薬などの処方に配合される生薬の原料です。
冷涼な気候を好みますが、環境適応性は高いです。日当たり、保水性・排水性がよく、根が長く伸びるので耕土が深い圃場が好ましいです。
参考文献