日本で「きくらげ」として販売されているものの多くは中国産の乾燥きくらげです。
林野庁の「特用林産物生産統計調査」によると、令和元(2019)年に輸入された乾燥きくらげは2,532トンです(そのうち2,518トンが中国産)。
一方、国内で生産されている生きくらげは1,263トンです。これまで国産きくらげの生産は鹿児島県など一部の地域に限られており、その生産量は僅かなものでしたが、近年、乾燥きくらげにはない独特の食感や食の安全・安心が求められる中で国産の需要が高まっています。
きくらげの国内生産量は「特用林産基礎資料(平成30年)」によると、平成30(2018)年に国内消費量の8%に達しており、生産量も年々増加傾向にあります。
そんな需要が高まりつつあるきくらげに目をつけた新規就農者の事例が注目を集めています。本記事ではきくらげ栽培のポイントと、栽培事例についてご紹介していきます。
きくらげ栽培の基礎
きくらげは日本各地に広く自生していますが、流通しているもののほとんどは栽培されたものです。食生活に馴染みのあるきくらげは、キクラゲ科キクラゲ属の「キクラゲ」「アラゲキクラゲ」、シロキクラゲ科シロキクラゲ属の「シロキクラゲ」などの種類があげられます。
きくらげの栽培方法には原木栽培と菌床栽培がありますが、一般的には菌床栽培が行われます。本記事で紹介する事例はすべて菌床栽培です。施設や設備に費用がかかりますが、本記事で後述する事例のように、栽培条件で見合うのであれば、他の目的で使われていた施設を活用することもできます。
きくらげは、販売されているきくらげの元となる菌を植え付けたブロック状の菌床に切り込みを入れ、それを高温多湿な環境に置き、定期的に水を与えることで2〜3週間で収穫することができます。栽培に適した環境さえ準備すれば、2〜3週間で収穫できる状態になり、1ヶ月で7〜8cmの大きさになるというスピーディーさが魅力といえます。
きくらげ栽培のポイントは温度と湿度の管理です。きくらげに適した環境は、温度は17〜25度、湿度は80%以上必要です。ビニールハウスなどでも栽培は可能ですが、ビニールハウスでは暖房の効果が小さく、冬の栽培が難しくなります。周年栽培を行う場合には、プレハブやコンテナなどを使用した室温を一定に保つための設備が必要です。後述する事例では、防空壕や空き家をきくらげ栽培の施設として活用しています。
きくらげ栽培の事例
埼玉県のタクシー会社「日栄交通」は、新型コロナウイルスの影響で売り上げが減少したことをきっかけに、空き家を活用したきくらげ栽培を行っています。きくらげの栽培は家庭用の栽培キットから始まり、次に会社の空いた敷地に建てたビニールハウスでの栽培、そして空き家への活用へと変化していきました。家屋がきくらげ栽培に必要な湿気で痛むことがないよう、室内の壁には外壁に使う建築材が、床には防水効果のある樹脂が塗られています。販売方法も現代的で、最初は1パックをフリマサイトで出品したのだとか。
神奈川県の「防空壕きくらげ」では、戦前に掘られた防空壕を活用してきくらげ栽培が行われています。「防空壕きくらげ」では安定的に、かつ無農薬で栽培できるよう、加湿器を動かし続けるだけでなく、1日6回自動で水やりが行われるシステムや空気の循環に気を配るため二酸化炭素の測定器を導入してデータをチェックするなど、本格的な設備導入が行われています。
これらの事例から、きくらげの特徴的な栽培環境を整えるのに手間やコストがかかることが感じられますが、条件さえ整えてしまえば、地域で使われなくなった建築物などを活用することもできるので、地産地消にもつながることが考えられます。
参考文献