昨今、日本茶の海外輸出が伸びています。しかしその反面、茶産業も他の農産物と同じく栽培面積が減少傾向にあります。本記事では、茶産業の現状について紹介していきます。
茶産業の現状
農林水産省が令和2(2020)年3月に公開した「茶業及びお茶の文化の振興に関する基本方針現状と課題」の資料によると、平成23(2011)年以降、生産量は約8万トンで推移しているものの、栽培面積は緩やかに減少を続け、茶農家数も減少しています。
日本国内の茶の消費動向はというと、平成23年以降、緑茶(リーフ茶、茶葉で淹れるタイプのお茶)は緩やかに減少していますが、緑茶飲料(缶やペットボトル、紙パックの容器に詰めたもの)は増加傾向にあります。
そんな茶の輸出量は増加傾向にあります。その要因には米国等における日本食ブームの影響、健康志向の高まりが挙げられます。
令和1(2019)年の主な輸出先
- アメリカ合衆国 29%
- 台湾 27%
- ドイツ 7%
- シンガポール 6%
- タイ 5%
- その他 26%
なお、令和4(2022)年7月(2021年7月から2022年7月にかけて)は、日本茶の輸出額が17億円から17億9千万円と8840万円(5.19%)増加しました。輸出先は、米国、台湾、ドイツ、カナダ、香港が多く、2022年の輸出額増加の要因には、米国で24.8%、台湾で66.7%、ドイツで60%輸出が増加したことが挙げられます。
世界の「茶」事情
世界において、「茶」は水の次に飲まれている飲料といえます。
世界の茶の消費量は年間約589.7万トン(2018年時点)です。最も多く茶を消費している国は中国(約205.6万トン)、次にインド(約103.6万トン)、ロシアなどCIS諸国※(約24.9万トン)、トルコ(約24.8万トン)、パキスタン(約18.0万トン)と続きます。日本の消費量は約10.4万トンで、消費量は世界で8番目です。
なお、茶には緑茶、ウーロン茶、紅茶などさまざまな種類がありますが、それらはすべて同じ茶葉から作られます(品種は異なります)。茶の種類は茶葉の発酵度合いで大別され、発酵させないのが緑茶です。ウーロン茶は半発酵、紅茶は完全発酵させたものです。
緑茶は年間生産量全体の2割強で、6割以上はインド、ケニア、スリランカなどで生産される紅茶です。
日本で主に飲まれている緑茶ですが、緑茶の最大の生産国は中国です。世界中で飲まれている緑茶の約9割を輸出しています。続く日本の生産量は世界の緑茶の1割強です。また中国と日本の緑茶は生産方法が異なります。日本は茶葉を蒸してから揉んで乾燥させる「蒸製緑茶」が主流です。一方中国では茶葉を釜で炒って乾燥させる「釜炒製緑茶」が主流です。
日本茶を広めるチャンスは今!?世界で日本茶が注目を集めている
日本はお茶の輸出拡大を図るため、緑茶のブランド化を推進しています。日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)などが海外でプロモーション活動を行っています。日本ならではの「蒸製緑茶」をアピールし、その味や香りを味わう機会を増やすことが重要視されています。
とはいえ、輸出される茶の形状として人気が高いのは抹茶を含む「粉末状茶」です。EU域や中近東域では「粉末状茶」の単価が高く、アメリカでは全輸出額の半分以上を抹茶が占めています。また茶器で淹れて飲む茶葉よりもティーパックが好まれ、健康志向の高まりから無糖の緑茶やレモンや桃などのフレーバーをつけた緑茶が人気を博しています。
海外メディアが取り上げる日本茶
なお、日本以外の情報源から日本茶の現状について調べてみたところ、いくつかの海外のメディアで日本茶が取り上げられているのを見つけました。
たとえば米国で150 万部の読者がいるライフスタイルマガジン「Women’s Health」で「Green tea」のトピックを探してみたところ「緑茶の健康効果」や「抹茶を毎日飲むことで得られる10のメリット」などの記事があります。
バルト三国の国際的なファッション・ライフスタイルメディアの「L’Officiel Baltics」では2021年1月に「Japanese tea guide」という記事が公開されています。日本茶の種類によって異なる栽培方法や製造方法、淹れ方について解説されています。取り上げられている茶の種類は抹茶、煎茶、ほうじ茶、玄米茶、玉露で、なんとそれぞれの茶を美味しく淹れるのに適した湯の温度も記されています。
世界中の編集者、ライター、茶の専門家らが共同で運営する「Tea Journey Magazine」は「Japan’s Cultural Tea Bridge to Europe(日本からヨーロッパへの文化的なお茶の架け橋)」という記事で、ヨーロッパへと流れ込む日本茶文化と日本茶の魅力について述べています。
上記記事によると、1980年代半ばから後半にかけて、ヨーロッパに寿司ブームが波及したこと(日本貿易振興機構調べ)、また寿司ブームが起きた2000年代初頭に、長寿の研究をしていた著名な研究者が世界で長寿の5つの地域を「ブルーゾーン」と名付け、その中に日本も含まれていたことから、日本人の飲食習慣に対するポジティブなイメージがさらに強まりました。取材に協力した専門家たちによると、抹茶はヨーロッパ全域で欠かせない日本茶であるといわれています。
九州の日本茶メーカー、鹿児島製茶の茶商であるスウェーデン出身のアンドレ・アンダーソン氏は、鹿児島製茶のベストセラーは高級抹茶だが、鹿児島の茶葉研究所で開発された品種「べにふうき」がヨーロッパで着実に売上を伸ばしていると述べています。「べにふうき」といえば、花粉症に効くお茶として知られています。アンダーソン氏によると、ヨーロッパでは市販の医薬品よりも植物性医薬品が風邪などの一般的な病気を治すのに役立っていることが多く、今後は「べにふうき」の効能を訴求することを視野に入れていると話します。
参考文献