近年は、消費者の環境問題や健康リスクへの関心の高まりから、化学農薬以外の方法を用いた害虫・雑草防除法が広まりを見せています。
化学農薬への依存がもたらしたもの
化学農薬に依存しない働きかけの背景には、化学農薬の使用に依存しすぎた過去が挙げられます。
第二次世界大戦後、経済復興と食糧難の時代に入り、農薬は食料増産と農業生産の効率化に貢献しました。
しかし化学農薬を多用したことで益虫などの生物相の貧困化や抵抗性害虫の出現、農薬費増加による経営圧迫、1950年代に入ると作物への残留農薬や環境汚染の問題が浮き彫りになっていきました。そこで登場したのがIPMの考え方です。
IPMとは
IPMとは「総合的病害虫・雑草管理(Integrated Pest Management)」のことです。国連食糧農業機関(FAO)は、IPMを「農作物に対する有害生物制御に利用可能なすべての防除技術を、経済性を考慮しつつ検討し、対策に適した手段を総合的に講じるもの」と定義しています。
IPMは人や環境へのリスクを軽減または最小限に抑え、また農業を取り巻く生態系への撹乱(生態系に顕著な変化を引き起こすこと)の可能性を少なくするため、自然界が有する有害生物の発生を抑える仕組みを活用して、健全な農作物の生産につなげることができます。
なお、IPMは農薬を使用しないことではありません。農薬を用いた「化学的防除」もIPMの手段の一つです。
IPMを実践する
IPMの実践とは、以下の3点に取り組むことといえます。
- 病害虫・雑草の発生しにくい環境を整える
- 病害虫・雑草の発生状況に応じて、防除の必要性やタイミングを適切に判断する
- 2.の結果、防除が必要と判断した場合、多様な防除手段から適切な手段を選び、講じる
1.の段階の具体例には、病害虫に強い抵抗性品種の導入や土着天敵の活用、輪作や混植を行い、連作障害を回避することなどが挙げられます。
“多様な防除手段”の具体例には以下のものが挙げられます。
- 除草作業
- 被害株の除去
- 水はけや土壌pHの改善
- 袋掛けなど物理的な害虫侵入防止策
- フェロモン剤、生物農薬の活用など
また人や畜産動物、天敵昆虫にも高い安全性を持つ化学農薬の活用も、“多様な防除手段”の一つです。
東京都産業労働局が公開するIPM導入事例には、ハウス栽培されているコマツナとトマトにおける病害虫対策が紹介されています。
IBMとは
IPMによく似た用語にIBMがあります。
IBMは1965年にFAOが農業におけるIPMの理念を発表したあと新たに提唱されたもので、「総合的生物多様性管理(Intergrated Biodiversity Management )」のことです。
IBMが重視するのは、周辺生態系の生物多様性への影響を低減することです。
そのため、IBMの害虫防除法は主に土着天敵の利用を中心としています。農業生態系の生物多様性を保つことで、害虫の発生抑制を試みます。
参考文献