2021年6月24日、平日朝に放送されている情報番組「あさイチ」(NHK総合)で香川県小豆島が特集されていたのですが、その中で400年の歴史がある小豆島特産の醤油製造で生じる醤油の絞り粕を肥料にして育てたミニトマトが紹介されていました。
醤油粕に含まれる塩分が、塩分に強く、コハク酸やイノシトールなどのうまみ、甘味成分を多く含むミニトマトを育ててくれるんだとか。その一方で、醤油粕を肥料として与え続けることで、土壌に塩分が蓄積してしまうことが課題となっていました。
そこで登場するのが、本記事の主役であるアイスプラントです。
土壌の塩分を吸うアイスプラントをミニトマトの栽培を終えた後に植えることで、土壌の塩分が蓄積するのを抑えているのだそう。
そこで本記事では、認知度が徐々に高まっている、塩害土壌の除塩に役立つアイスプラントについてご紹介していきます。
アイスプラントとは
アイスプラントの特徴といえば、葉や茎の表面についた透明な水滴状のものです。これは「ブラッダー細胞」と呼ばれる細胞小器官です。ブラッダー細胞はカリウムやマグネシウムなど、土壌から吸収したミネラルを豊富に含んでいます。
アイスプラントの学術名は「クリスタリナム」です。アイスプラントと呼ばれるようになったのは、光を反射したブラッダー細胞が氷の結晶のように見える、見た目が凍っているように見えることから、といわれています。
原産は南アフリカのナミビア砂漠です。冬に湿度が高く、夏に乾燥する土地でよく育ちます。栽培適温が5〜25度と幅広く、また病害虫にも強いため、農薬を使用せずに育てやすい野菜として近年注目が集まっています。
日本での栽培は1985年から。アイスプラントの吸塩機能を有明海沿岸の塩害対策に役立てるため、佐賀大学農学部が日本に持ち込みました。生食するとほんのり塩味が感じられるアイスプラントの市場出荷が始まったのは2006年のことです。市場では「クリスタルリーフ」「ソルトリーフ」「シオーナ」など、さまざまな名称で売られています。
環境ストレスに強いアイスプラント
アイスプラントは塩のみならず、乾燥や低温などの環境ストレスに対しても高いストレス耐性を示す植物です。
アイスプラントは、ストレスに晒されると光合成型を「C3型」から「CAM型」に切り替えることができます。
- C3型は、一般的な植物がおこなう光合成型
- CAM型は、砂漠など乾燥した地域に育つ植物の光合成型
普通に水分がある条件下では、アイスプラントは一般的な植物と変わりません。この条件下でのブラッダー細胞は表皮に埋没しています。しかし土壌の塩分が強くなったり、乾燥したりすると、ブラッダー細胞が発達し、余分なミネラルや塩分はブラッダー細胞内に保存されます。この光合成変換機構のおかげで、アイスプラントは乾燥や低温、海水のような濃い塩分濃度でも育つことができるのです。
東江栄『アイスプラントを用 いた土壌脱塩技術の可能性』(熱帯農業、48巻・5号,p.294-298、2004年)によると、大麦、レタス、稲、アイスプラントの塩化ナトリウム(NaCl)に対する生育反応を比較したところ、大麦、レタス、稲は約0.5%のNaClで生長量が半分になったのに対し、アイスプラントは1.2%のNaClで生長促進が見られた、とあります。GREENWAY, H. and R. Munns 『Mechanisms of salt tolerance in nonhalophytes』( Ann. Rev. Plant Physiol.31:149-190.,1980 )では、塩に対する生育反応によって植物を4つの群に分類しているのですが、東江の実験結果より、アイスプラントは「最も耐塩性が高く、ある程度塩を吸収したほうが生育が良好な群」に分類されることがわかっています。
アイスプラントの塩の吸塩量とは
東江の同論文には、アイスプラントの吸塩能力についても記されています。アイスプラントをNaClを含む培地で水耕栽培し、その葉身生重1gあたりのNaCl含量を調べています。結果、NaCl含量は最高で25mgとなり、地上部1個体あたりのNaCl吸収量に換算すると約14gとなりました。比較対象には、除塩植物として研究されるアイスプラントと同属の植物と塩生植物(塩分に富む土地に生える植物)が挙げられ、吸収量は以下の通りです。
NaCl |
Na | Cl | |
アイスプラント |
約14g |
– |
– |
Mesembryanthemum barkyi(除塩植物、アイスプラントと同属) |
– |
1.5g |
2.2g |
Suaeda salsa(塩生植物、アカザ科:マツナ属) |
– | 20.6〜25.7g |
– |
本論文の吸塩量の項目は、上記結果をふまえ、アイスプラントは“除塩植物として十分に利用可能な能力を備えているといえよう。”と締めくくられています。
参考文献