日本は比較的気候が穏やかなので、自然環境を利用した露地栽培が行われていますが、冬場の出荷期間延長などを目的に、施設栽培も広く行われています。
また近年では、土壌を使わない「水耕栽培」にも注目が集まっています。水耕栽培は土寄せや施肥などの作業を必要とせず、地理的環境に影響されにくい栽培方法のため、気候変動による自然環境の変化や栽培環境がコントロールできるという利点があります。
ですが、水を使う栽培ならではのデメリットがあります。それが「藻の発生」です。水を常時使用することで栽培槽などに藻が発生しやすく、害虫発生の原因となることもあります。
そこで本記事では、水耕栽培に必要不可欠な「藻」の対策法を紹介します。
藻が発生する原因
まず水耕栽培では、原水と液体肥料を用いた「培養液」が農作物の主な栄養となります。
原水は地下水や雨水、水道水などさまざまな水が使用されますが、いずれも病原菌や有害物質などを含んでいないことが使用する条件となります。液体肥料は植物が必要とする三大栄養素、窒素・リン・カリウムやカルシウム・マグネシウムなどが含まれています。
そして藻は、光と栄養さえあれば増殖します。
藻の発生原因を封じ込めたくても、光と栄養を必要とするのは農作物も同じです。農作物によって必要な光の量は異なりますが、藻を抑制するために光を遮って農作物を育てるのは現実的ではありません。
また水耕栽培は培養液で農作物を育てますから、水耕栽培において藻の発生は避けられない、ともいえます。
藻が発生すると起きること
水耕栽培において、藻の発生は避けられないものではありますが、発生そのものは、農作物を育てる養液に薬剤等による異常がないことを表す指標にもなります。藻の発生そのものは、水耕栽培の異常発見に役立ちます。
とはいえ、藻の発生量が多くなるのは厄介です。藻が大量に発生すると、培養液の成分バランスを変えてしまいます。培養液がアルカリ性に傾くと、農作物の根がダメージを受けてしまいます。
また藻の大量発生により発生する粘液状の酸性多糖類が農作物の根の周辺を覆ってしまうと、農作物が養分や酸素を吸収するのを妨げてしまいます。
どのような栽培方法であっても、農作物の成長に関わる生態バランスが崩れると問題が発生する、ということです。
藻の対策法
藻そのものは病原菌ではありません。先でも紹介した通り、農作物に被害を与えない限りは、養液成分の異常がないことを示す指標として扱うこともできます。ただ、大量発生により悪影響が及ぶのは事実です。
まずは養液更新
藻を大量発生させないためのシンプルな対策法は「養液更新」です。藻が発生したら放置するのではなく、こまめに養液を交換し、藻を取り除くようにしましょう。
発生原因を除去
藻は光と栄養さえあれば増殖します。ですから光と栄養を遮断することで大量発生を防ぐことができます。ですが、栄養分は水耕栽培で育てている農作物も欲していますから、現実的には光の遮断が効果的です。
日が当たりすぎることによって大量発生が起きている場合には、水耕栽培の装置の場所を変えたり、日の当たり具合を調節したりすることで改善することができます。
養液pHをキープ
養液のpHをキープすることは、藻の大量発生への対策だけでなく、農作物の生長にも役立ちます。植物の細胞伸長に好ましいpHは5〜6の弱酸性と言われており、アルカリ性に傾くと根の伸長は阻害されます。pH維持のためにも、養液更新を心がけましょう。
薬剤を使用する
藻の発生・繁殖を抑える薬剤を使用するのももちろんおすすめです。また藻が発生した場合、水耕栽培システムを見直すのも良いでしょう。
注目の藻対策法
抗菌剤
2019年10月9日(水)〜11日(金)まで開催されていた『次世代農業EXPO』。「大阪ガスケミカル株式会社」のブースでは、水耕栽培時に発生する藻を抑制する抗菌剤を出展していました。
「ABCoat」と呼ばれる抗菌剤を成型した樹脂などに担持(粉末状の触媒を担体に固定すること)して使用します。公式HPでは、ABCoat処理したスポンジでリーフレタスを育苗し、藻の発生を抑制している事例が紹介されています。
またABCoat処理を行い、藻の発生が抑制されたことによる生長促進、水耕栽培機器の汚れの軽減も紹介されています。
藻が生長しにくいシート
株式会社アグリライト研究所の「アグリウィードクリア」は藻が付着しにくいシートです。
水耕栽培では藻が発生するため、水耕栽培ベッドの清掃は欠かせません。ですがアグリウィードクリアを活用すれば、ベッドの清掃作業の省力化をはかることができます。
藻が付着しにくい特殊加工がされているので、シートに藻がこびりつきにくいのが特徴です。そのため清掃やメンテナンスの回数を減らすことができ、作業時間と資材費を減らすことができます。
抗菌技術
神戸製鋼所材料研究所が開発した高機能抗菌めっき技術「KENIFINE(TM)」。1996年に起きた病原性大腸菌O157による食中毒事件がきっかけで開発されたこの技術は、高い抗菌性と防かび性をもっています。水耕栽培で発生する藻や植物病原菌の抑制だけでなく、SARS系ウイルスと同類のコロナウイルスなどにも抑制効果があると確認されています。
参考文献