エアルーム種は“長年にわたり受け継がれてきた品種”を指します。アメリカ、サウスカロライナ州にあるクレムソン大学によると、エアルーム種にはさまざまな定義があり、品種の継代に関わる人が栽培者一般なのか、家族や団体、組織に限定されるのかはまだ明確に定義づけられていません。
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そんなエアルーム種は「固定種」であることが前提のため、その点から考えると、近年注目を集めている「伝統野菜」はエアルーム種であるといえそうです。もちろんこれも明確な定義づけはなされていませんが…。
とはいえ、伝統野菜への注目度が高まったこともあり、長年伝統野菜をつくり続けてきた地域では、それらを維持するための取り組みがなされています。そこで本記事ではエアルーム種の種取りと保存方法についてご紹介していきます。
※以下、名称についての解説
伝統野菜:タキイ種苗株式会社出版部編『地方野菜大全』(農山漁村文化協会、2002年)文中での定義は「渡来した野菜が日本各地に伝播・順化され、それぞれの地域でそこの気候・土壌・食生活・地域的行事などに対応するように選抜・固定が繰り返されることによって成立した品種」
F1品種:異なる二種類の親品種を掛け合わせてつくり出した品種。親よりも優れた形質を示すのが特徴で、生育がよくなる、病気に強くなる、収量が高くなるなどのメリットがあります。一方で、この特徴が現れるのは一代限りのため、同じ形質の野菜を栽培するためには毎年種子を購入する必要があります。
在来種:デジタル大辞泉では「動植物の品種のうち、ある地方の風土に適し、その地方で長年栽培または飼育されているもの」、精選版 日本国語大辞典では「ある地方で、長年他の地方の品種と交配されず飼育または栽培されてきた品種」とされていますが、株式会社平凡社『世界大百科事典 第2版』では「もともとその地域に土着していた生物種のこと」とあり、“長年栽培されてきた品種”としての意味と、栽培・飼育されていた意味をもたない定義があります。農業生産上の違いでは、下記「固定種」と違い、採種しても形や大きさが不揃いであることが挙げられます。
固定種:在来種との違いは、親と同じ形質に育つことが挙げられます。固定種の採種には、「その品種の特性を維持すること」が目的として挙げられます。
種取りと保存方法について
エアルーム種は“長年受け継がれてきた品種”であり「固定種」であることが前提の品種です。固定種の採種は先の解説で書いたように「その品種の特性を維持すること」が目的です。そのため、エアルーム種が他の品種と交配しないよう注意してください。
一度に複数の品種を栽培しないことがポイントです。
また他の品種と交配させないためには、
- 栽培品種を隔離できるようその品種専用でケージを用意して栽培する
- 花を袋で覆い、栽培者の手で受粉させる
- 異なる品種が同時に開花しないよう、開花時間帯を鑑みた上で植える
などの方法が挙げられます。
なおエアルーム種として品種が維持しやすく人気が高い野菜には、自家受粉性の豆類やトマト、ナス、ピーマンなどが挙げられます。
一方、タマネギやキュウリ、ニンジンやホウレンソウなど、昆虫や風によって受粉する野菜はそれらの影響を受けて交配が起こる可能性が高いため、エアルーム種の保存を目的とした栽培の場合、上記の方法で隔離して育てましょう。
固定種の育成方法
参考文献:中川原敏雄・石綿薫『自家採種入門ー生命力の強いタネを育てるー』(農山漁村文化協会、2009年)
上図のように
- 母本選抜を行う
- 母本選抜で得た優良個体から得た種子を比較栽培し、優良個体が多い系統を選抜・採種
- 2と同様
を繰り返すことで、品種特性が固定された「固定種」がつくりあげられていきます。
「母本選抜」は品質の良い固定種を作るために重要な過程です。母本選抜とは、品種の特性を維持するために必要な優良個体を厳選することを指します。
なお種子を取り扱う株式会社トーホクでは、商品となる種子を安定的に供給するために、そのもとになる種子「原種」を採種する際、母本選抜のポイントとして、
・品種本来の特性が十分に備わっているか
・健全で力強く生育しているか
そして「選抜が本来の特性と異なる方向に向かないよう注意する」ことを挙げています。
固定種であろうとF1品種であろうと、特性を維持するために心がけることは同じです。
採種方法
根菜類や葉菜類の場合、
- 開花し莢ができたら、莢の色が茶色くなり全体が枯れてきてから莢を刈り取る
- 1を風通しのよいところに置き、2週間〜1ヶ月ほど乾燥させる
- 2から種を落としていく※
- 種は2〜3日ほど「日干し」してよく乾燥させる
※天気が良い日に行う。シートを敷き、種を落とす(ダイコンやゴボウなど莢がかたく種が出にくいものは棒などでたたき、莢をつぶして種をとる)。シート上に種以外のもの(莢の殻やゴミ)が落ちるので、それらは上から落とすようにして風でより分けるとよい。
果菜類の場合は、
- 収穫した実は1週間ほど涼しい場所に並べ、追熟させる
- 1から種をかき出し(トマトなど実がやわらかいものは丸ごとつぶし、キュウリやカボチャは種の部分をかき出す)、それを袋に入れて
- 口をしばり、1〜2日間置いて軽く発酵させる
- 袋の中身をバケツなどの容器に出し、水で洗う。この際、成熟した種は水に沈むので浮いたゴミは捨てる
- 細かい目のザルなどに3を重ならないように広げ、短時間太陽に当てた後、2〜3日ほど「陰干し」する
保存方法
種を完全に乾燥させたら、ガラス瓶などの容器に入れ、涼しく乾燥した場所に保存してください。適切に保存されれば3〜5年はもちます。冷蔵庫に保存するとより寿命が延びます。
また乾燥した状態を保つのに、種とともにシリカゲルを入れるのもおすすめです。
<生存可能な状態を長く保つことができる(適切に保存されていれば目安5年以上)>
- ブロッコリー
- カリフラワー
- ケール
- キュウリ
- レタス
- メロン
- ピーマン
- カブなど
<中生種(適切に保存されていれば少なくとも3年)>
- 豆類
- 人参
- ナス
- パセリ
- エンドウ
- カボチャなど
<生存可能な状態が長くない種子(次の栽培シーズンまで持ちこたえられるかどうか)>
- トウモロコシ
- ネギ
- タマネギ
- ホウレンソウなど
なお発芽するかどうかをテストする際は、湿ったペーパータオルの間に種を入れて発芽の状態を確認します。発芽が少ない場合には、植える際、余分に植えてみてください。
参考文献
- Heirloom Vegitables|Home & Garden Information Center
- 阿部希望『伝統野菜をつくった人々「種子屋」の近代史』(2015年、一般社団法人農山漁村文化協会)
- 生産部|株式会社トーホク
- 母本選抜を実施|JA愛知北