農作物を育てるうえで、切っても切り離せない存在が害虫です。
もちろん生産者さんの中には、予め害虫防除としてネットをかぶせたり、農薬を散布したり、対策を練っている人も少なくないと思いますが、それでも“全く虫の存在がない”状態で作物を育てるのは困難だと考えます。
どちらかというと厄介な存在である虫、害虫ですが、そんな害虫の代表とも言えるイエバエを、第一次産業に有益な存在へと変える技術を見つけました。調べてみると「確かにそう使えば“益虫”になるかも」と納得できるアイディアです。
ハエを利用した肥料づくりとは
「イエバエ高速培養技術」という技術が、今回紹介する害虫をうまく利用する方法です。結論から申し上げると、イエバエの幼虫を利用することで家畜糞尿を用いた肥料づくりの完成速度を大きくするだけでなく、幼虫そのものを飼料として利用することで、家畜や養殖魚の飼料代替品にするという方法です。
まず幼虫を利用した肥料づくりについてご紹介します。
有機質肥料をつくるために用意した家畜糞尿をイエバエによって消化・分解させるのですが、この際に発生するメタンや一酸化窒素、アンモニアといった窒素分を幼虫が吸収してくれるため、1週間ほどで肥料が完成してしまうのです。
有機質肥料の問題点として、完熟するまでに時間がかかること、未熟な肥料を土壌に与えると窒素過多になり、野菜の品質に影響することが挙げられていました※。しかし余分な窒素分を消化・分解を担当するイエバエが吸収するおかげで、使える状態の程窒素有機質肥料が1週間ほどで出来上がるのです!そのうえこの肥料づくりは屋内で行われるため、発酵ガスや汚臭の放出も抑えられ、近隣への配慮もバッチリです。
※ご存知の方も多いと思いますが、窒素過多は生育障害の原因とも言われ、農作物の栽培においてあまり好ましくありません。植物にとって窒素は生命維持に重要な成分です。
窒素が不足していると、生育の基盤とも言える養分ですから、途端に元気がなくなってしまいます。が、これが過剰にある場合にも、野菜の生育には適していません。
私達人間に例えると、「肥満」や「高血圧」の原因、といった感じです。化学肥料であれば、その肥料に含まれる窒素量が記載されているので、土壌への施肥量が把握しやすい特徴があります。
ただ有機質肥料・堆肥となると、その窒素量は簡単に確認することはできません。
安易に「化学はNG、有機はOK」の考えで肥料を施すと、窒素過多の土壌が出来上がってしまいます。もちろん化学肥料だって必要量以上加えれば、農作物は生育不良を起こすでしょう。いずれにせよ、適正な時期に適正量加えることが重要だということは忘れないでください。
参考文献によると、イエバエを利用した程窒素肥料は、収量増加や生産促進などの効果が実証されたと報告があります。土壌をフカフカにする作用や抗菌作用もあり、土壌環境の改善が期待されています。
ハエそのものを畜産・漁業の飼料にすることも?!
私が個人的に「“益虫”になり得るかも」と思ったのは、肥料づくりに役立つ作用だけでなく、イエバエそのものが畜産や養殖業の手助けになるという報告でした。イエバエそのものを飼料とし、養殖業で利用する餌と混ぜることで、単純に今まで餌として与えていた魚粉の使用量が減らせます。そのうえで、参考文献で書かれていた愛媛大学との共同研究によれば、養殖のマダイの体の色や大きさにも有意義な違いが見られたとあります。飼料の代替品として役立つだけでなく、人にとって益のある体色・サイズの変化があるとなれば、利用しない手はないですよね。
日本は人口減少が進み、高齢化社会がますます顕著になっていくことが危惧されていますが、世界を見ると人口は増加傾向にあります。
そんな時、イエバエ肥料で農作物の収量・品質の向上、飼料で畜産や養殖業を支えることができれば、人口増加に伴う食糧危機解消につながることが期待できます。
害虫との付き合い方
ただ今回紹介できるのはイエバエを利用した肥料づくりのみです。
今後も害虫と呼ばれる虫を活用した技術は登場するのではないかと推測されますが、農業においてはそれでもまだまだ害虫は害虫のままです。そこで最後に、農業を営むうえで害虫とどう向き合っていけばよいかを考えます。
農業において、少なくとも“虫”は必ず存在します。これは害虫も益虫も含めてです。
ただ農薬などを利用してやみくもに虫を殺すだけでは、根本的な解決にはなりません。虫がつかないためにはどうすべきかを考え、まずは予防することが重要です。
予防方法にはいくつかあって
・物理的に防除する
・化学的に防除する
・他の生物の力を借りる
などが挙げられます。
物理的な方法は防虫ネットや光・色などで誘引し捕らえるものが挙げられます。
防虫ネットが一番簡単な物理的防除方法だと考えていますが、あらゆる虫を防除するために網目を細かくしすぎると、風通しが悪くなり「虫はつかないけど、生育のよくない農作物」が育ってしまうので注意しましょう。
家庭菜園でもオススメされる方法の一つですが、コンパニオンプランツを利用した防除方法もオススメです。相互作用のある農作物を育てることで、害虫も寄せ付けないし、育てられる野菜の種類も単純に増えます。個人的には農薬散布やあらかじめ病害虫に耐性のある野菜より、害虫の生態を知って、うまく回避する方法が、農業を継続していくうえでは重要だと考えます。
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