多様なバイオスティミュラントの種類や、効果的に使うタイミング、使い方について。

多様なバイオスティミュラントの種類や、効果的に使うタイミング、使い方について。

近年、注目を集めているバイオスティミュラントとは、、植物の活力を高める資材であり、作物の成長を促進させたり、非生物的ストレス(温度・土壌など)による収量減少を低減させたりといった効果が報告されています。

 

 

バイオスティミュラントが注目を集める背景

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近年、持続可能な農業の実現と環境負荷の低減が求められています。

2050年までに世界人口が約97億人に達すると予測される中、食糧確保のためには農作物の収量向上が不可欠です。そのため、農薬や化学肥料の使用量が年々増加してきましたが、これらの過度な使用は環境負荷を高める要因ともなっています。特に、農業由来の温室効果ガス排出量は全体の温室効果ガス排出量の約23%を占めており、化学肥料の削減が求められています。

このような背景を受けて、EUでは農薬の使用量とリスクの削減、化学肥料の使用量を削減する目標(Farm to Fork戦略)を掲げていますが、この農薬・化学肥料の削減には収量減少のリスクも伴います。

その解決策として有望視されているものの一つがバイオスティミュラントです。既存の農薬や肥料とは異なる作用機構を持つバイオスティミュラントが、環境負荷を抑えながら農作物の生産性向上に貢献すると期待されています。

 

 

多様なバイオスティミュラント

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バイオスティミュラントには、さまざまな原料、作用があります。たとえば広く知られているものには腐植酸・有機酸のほか、海藻、微生物由来のもの、アミノ酸・ペプチド、ミネラル・ビタミンなどが挙げられます。それぞれの特徴を理解し、適切なタイミングで活用することで、収量向上や病害対策、ストレス耐性の向上が期待できます。

海藻の効果

海藻は古くから農業に利用されてきた有機質肥料です。海藻がもたらす効果には、このようなものが挙げられます。

  • ストレス耐性や代謝の向上
  • 蒸散や浸透圧の調整
  • 根の活性の向上

海藻に含まれるアルギン酸類などの微量要素によって土壌中の微生物が活性化されることで、土壌環境が改善し、病害を防ぐとされています。海藻の主成分となるアルギン酸類は、水分を吸収すると膨潤し粘度の高い水溶液をつくります。これにより、土壌の水分保持力が安定・向上することで、有用微生物の繁殖が促され、根圏の土壌環境が改善します。

また海藻由来のさまざまな栄養素が植物に直接作用するという報告もあります。たとえば、トマト栽培において、高温や日照不足など環境ストレスがかかる時期に海藻由来のバイオスティミュラント資材を葉面散布したところ、慣行栽培の対照区と比較して、収量や品質が向上したという結果が報告されています。

微生物の効果

微生物由来のバイオスティミュラントは、主に土壌や根圏環境の改善、根の活性の向上に効果を発揮します。農作物にとって有益な菌類や細菌が土壌中で活性化し、病害菌や線虫を抑制したり、養分吸収の向上を促したりします。

代表的な微生物には「植物成長促進細菌:PGPB」(主な細菌として、Bacillus属細菌、Pseudomonas属細菌など)、「菌根菌」、「ビール酵母」などが挙げられます。たとえば、2024年1月30日に公開された日経バイオテクの記事によると、ビール酵母には以下の効果を発揮します。

例えばビール酵母は、酵母の細胞壁の成分が病原菌と似た刺激を植物に与えるため、病原菌の防除システムとして植物体の根の伸長が起こり、成長が促進される。

引用元:バイオスティミュラント、植物に刺激を与えて収量増加や品質改善を促す

また、トルコキキョウを栽培する栃木県の農家の事例では、有用菌 (トリコデルマF-288株) を含んだ土壌改良材「V-プロテクトG」の使用により、従来の殺菌剤を使用せずにフザリウム菌による土壌病害を大幅に減少させただけでなく、葉や根の成長促進効果も得られたことが報告されています。

そのほか、多様な物質による効果

カニやエビの殻由来の成分であるキトサンは、生物学的ストレス・非生物学的ストレスに対する植物の防御機能を強化するものとして知られています。キトサンの正確な作用機序はまだ完全には解明されていませんが、抗菌性・抗真菌性・抗ウイルス性があり、フザリウム萎凋病などの土壌病害の発生を抑える効果が期待されています。

そのほか、シリカ・コバルトなどのミネラルを含む無機化合物は、植物の成長、植物生産物の品質、生物ストレス耐性を促進する効果があります。特に、シリカ(ケイ素)には、植物の病気に対する抵抗力を増加させたり、光合成効率を向上させたりといった利点があります。

アミノ酸やペプチドを豊富に含むタンパク質加水分解物は、植物の代謝を活性化したり、光合成を促進したりする効果があります。

 

 

バイオスティミュラントに今後求められること

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持続可能な農業の実現に向けた重要な手段として注目されているバイオスティミュラント資材ですが、その利用にはいくつかの注意点や課題があります。

たとえば、バイオスティミュラントは作物の種類や生育環境によって効果が異なるため、圃場ごとに適切な資材を選定する必要があります。

バイオスティミュラントの効果を十二分に得るためには、圃場の生物群を分析し、使用を検討しているバイオスティミュラント資材の成分との相互作用を解明する必要があるのです。現時点では、バイオスティミュラント資材の開発は、トマトやトウモロコシ、小麦といった限定的な作物に集中しています。今後、多様な作物へ適用するためには、さらなる研究と試験が必要とされています。

また、農薬や化学肥料とは異なる作用機構を持つバイオスティミュラントを既存の慣行農業に単純に置き換えることはまだまだ難しいのが現状です。特に、農薬や化学肥料の使用量を削減することで収量が減少するリスクがあり、適切な施用方法の確立が必要とされています。

とはいえ、環境負荷の少ない農業への転換が求められていますから、今後も課題解決に向けた政策的な支援が検討されるはずです。

バイオスティミュラントの効果を最大限に引き出すために、注目されているのが科学的データの活用です。たとえば近年では、圃場の環境データを収集し、最適な農作業を提案するスマート農業の技術の導入が進んでいますが、ここで得られる日照量、降水量、気温、湿度などのデータを基に、最適な施用タイミングを判断することで、バイオスティミュラントの効果を最大化できる可能性があります。

そのほか、オミクス解析(生物の遺伝子、転写物、タンパク質、代謝物など、生命活動に関わる分子群を網羅的に解析する手法の総称)で、生物の機能や状態を包括的に理解することによる、バイオスティミュラント資材の評価方法や散布すべき資材の使用条件を決める目安となるバイオマーカーの特定などの開発が進められています。

【参照サイト】KAKEN — 研究課題をさがす | バイオスティミュラント資材の統合オミクス評価技術の開発 (KAKENHI-PROJECT-21K05553)

科学的データの活用やバイオスティミュラント資材の評価技術の利用が推進されれば、単に農薬や化学肥料の代替資材となるだけでなく、それらを凌駕する作用を発揮する可能性も考えられます。

持続可能な農業の実現と環境負荷の低減につながると期待されるバイオスティミュラントの今後の展開が気になるところです。

 

参考文献:アグリジャーナル編集部『アグリジャーナルvol.33』(株式会社アクセスインターナショナル、2024年)

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