肥料価格が高騰しています。穀物需要の世界的な増加やエネルギー価格の上昇に加え、ウクライナ危機などの影響により、化学肥料原料の国際価格が大幅に上昇しています。
肥料価格高騰の現状
肥料の三要素は
- 窒素(植物の成長を促す)
- リン酸(開花・結実を助ける)
- カリウム(根の発育を支える)
から成ります。
化学肥料は一般的に原油や天然ガスなどの化石燃料やリン鉱石、カリウム鉱石等の鉱物資源が原料として利用されます。日本はこれらを中間原料(化学工業で、原料から多数の工程を経て最終製品が作られる時、中間で得られる化合物の総称。|出典元:広辞苑)の形で輸入しています。
輸入相手国と輸入量
農林水産省によると、日本はリン酸アンモニウム(窒素とリン酸を含む)と塩化カリウムはほぼ全量を輸入に頼っています。そして主な輸入相手国は、尿素(窒素肥料の原料)はマレーシア及び中国、リン酸アンモニウムは中国、塩化カリウムはカナダとなっています。
リン酸アンモニウムにおいては、その輸入量は2020年7月〜2021年6月で51万2000トンで、その90%を中国が占めています。
塩化カリウムの主な輸入相手国はカナダですが、4分の1をロシアとベラルーシから輸入しています。
肥料の消費量は世界的に増加している
世界における肥料の消費量は年々増加しています。なお、世界全体と比較したとき、日本の肥料消費量は世界全体の消費量の0.5%ほどです。
肥料消費量トップ5
- 中国 25.2%
- インド 15.4%
- アメリカ 10.6%
- ブラジル 8.8%
- インドネシア 2.9%
肥料の調達は滞っている
リン酸アンモニウムの主要な輸入相手国である中国の輸出規制により、中国からの調達が滞っています。中国は2021年10月から、品質を確保するために輸出用肥料について成分の検査を強化、輸出が事実上規制されている状態です。国内供給の優先が背景にあると考えられています。
また塩化カリウムにおいても、ウクライナ危機により、輸入相手国であるロシアとベラルーシへの経済制裁が行われたことで両国へ送金することが難しくなり、輸入先を切り替える必要が生じました。日本は主要な輸入相手国であるカナダからの輸入量を増やす考えがありますが、ロシアとベラルーシに経済制裁を科す他国も同様の考えをもつはずです。世界的に輸入先がカナダに集中すれば、より価格が上昇する可能性が高くなります。
施肥コストを下げるための対策とは
国の対策としては、代替調達先の確保と分散調達が挙げられます。たとえば2022年6月29日の日本経済新聞によると、全国農業協同組合連合会(JA全農)がモロッコからのリン鉱石の調達に踏み切りました。モロッコからの輸入は、日本との距離が近い中国に比べると輸送コストがかかりますが、いつ輸出が正常化するか予測できない中では、原料調達を1カ国に依存せず分散調達することが危機に備える上で重要といえます。
また肥料コスト低減に向けた取り組みとして
化学肥料の生産効率を上げ、製造コストを引き下げることで肥料価格を低減する取組も重要
引用元:肥料をめぐる情勢(資料14ページ目)
とされています。
JA全農は平成30年の春用肥料から、複数のメーカーが製造し、全国で流通する化成肥料に
- 平成28年時点で約550あった銘柄を令和2年に24銘柄まで集約
- JAが農業者から予約数量を積み上げる
- 競争入札にかけ、価格決定を行う
という新たな購買方式を導入しました。
銘柄の集約と競争入札を行うことにより、購入先となるメーカーが半分に絞り込まれ、その一方で、銘柄当たりの生産数量を大幅に拡大させてメーカーの製造コストを引き下げ、この取組が行われる前の価格に比べ、1〜3割の価格引き下げを実現させています。
農業従事者に求められる対策とは
農林水産省は
- 土壌分析を行い、肥料の投入量を減らす
- 局所施肥などで、肥料の投入量を減らす
- 国内資源を利用する
- 堆肥を使う
などの対応を呼びかけています。
実践しやすい対策には「化学肥料と堆肥の併用」が挙げられます。肥料メーカーの中には、通常の複合肥料よりも堆肥の配合を高め、価格帯も少し安価な複合肥料の販売を拡大しているところもあります。
化学肥料から完全に堆肥に切り替えると栄養バランスが変わる可能性が高いので、化学肥料の比率を減らし、品質をみながら慎重に進めることをおすすめします。
農林水産省が2021年5月末に立ち上げた「農業者の皆様へ」というページは、肥料代節約の指南書となっています。肥料コスト低減事例集も豊富なので、気になる方はぜひチェックしてみてください。
参考文献