肥料の「三大要素」は窒素、リン酸、カリウムですが、それに石灰と苦土を加えて「五大要素」と呼ぶこともあります。
本記事では、五大要素のひとつである「石灰」に着目し、石灰肥料の特徴と使い方についてまとめます。
石灰(カルシウム)の植物への作用
石灰(カルシウム)は作物の細胞壁や細胞膜などの材料になります。新しい細胞が作られる成長点や根の先端で特に必要となる栄養素です。これが欠乏すると生理障害を起こしたり病気にかかりやすくなったりします。
石灰は水に溶けやすい性質のものが多く、雨の多い日本の土壌において元々不足しがちであるといわれています。特に窒素肥料を多量に施して作物の生育を促す農業現場において、カルシウムの欠乏は生理障害を引き起こす原因となります。そこで積極的に補給されているのが石灰肥料です。
主な石灰肥料は5種類
主な石灰肥料としてあげられるのは以下の5種類です。
- 生石灰
- 消石灰
- 炭カル(炭酸カルシウム)
- 苦土炭カル
- 副産石灰
ただし、使い勝手の良さを考えると活用しやすいのは4種類ともいえます。
まずはそれぞれの特徴について記載します。
生石灰
生石灰は「石灰石(炭酸カルシウム)」を1,000〜2,000℃の高温で焼いてできる「酸化カルシウム」です。アルカリ分を80%以上も含む生石灰は速効性があり、土壌pHを急激に上昇させます。
生石灰は扱いに注意が必要なため、肥料として用いるのはあまりおすすめしません。
生石灰(酸化カルシウム)は水に触れると発熱し、次項で説明する「消石灰(水酸化カルシウム)」に変化します。この際の発熱は数百度まで上がります。そのため、濡れた手で生石灰に触れたり、目に入ったりするととても危険です。生石灰そのものが燃えることはありませんが、水に濡れたり、近くに可燃物があったりして火事が発生した事例があります。
濡れるような場所や可燃物の近くに置いてはならないこと、500kg以上保管する場合には消防署への届出が必要になることを合わせて考えると、肥料としての活用はやはりおすすめできません。
消石灰
消石灰は先述した生石灰に水を加えて化合したものです。アルカリ分は60%以上と生石灰に比べると低いものの、同じく速効性があり、土壌pHの急激な改良に向いています。
生石灰よりは扱いやすい肥料ですがアルカリ分が強いため、施用後すぐに播種や定植するのは避けましょう。一般的に消石灰を施用後2週間置いてから播種や定植を行います。
炭カル
炭カルこと炭酸カルシウムは石灰石を細かく砕いたものです。水に溶けず、中性の炭カルは緩効性で土壌pHの改良や作物へのカルシウム供給がゆるやかに行われます。
ただし、緩効性ゆえの注意点もあります。詳細は石灰肥料を施用する際の注意点として後述します。
苦土炭カル
苦土炭カルこと炭酸苦土石灰はマグネシウムを含む石灰石を細かく砕いたものです。炭カル同様、苦土炭カルも緩効性です。苦土炭カルは消石灰に比べアルカリ分が少ないことから、作物の根を傷める可能性が低く、施用してすぐに植え付けが可能です。
ただし、土壌pHを改良する効果が出るまでには1〜2週間かかるといわれています。土壌改良目的で施用後すぐに植え付けることはできますが、その際、土壌は酸性のままです。作物の生長のためには植え付けの1〜2週間前に散布することが一般的です。
副産石灰
副産石灰は廃棄物を活用した肥料です。「カキ殻」や「貝化石」などがあげられます。緩効性であり、「カキ殻」や「貝化石」は有機農家が活用する「有機石灰」としても知られています。
注意!石灰チッソや過リン酸石灰は石灰肥料ではない
窒素、リン酸、カリウムの三要素のうち1成分のみを含む肥料を「単肥」と呼びます。三要素に石灰や苦土を含む複数成分の肥料であっても、三要素のうち2成分を含んでいない場合には「複合肥料」とは呼びません。そのため、石灰チッソや過リン酸石灰などは石灰を多く含んでいるものの、石灰肥料ではなく、窒素やリン酸の「単肥」という扱いになります。
石灰肥料を施用する際の注意点
いずれの石灰肥料においても過剰利用は避ける必要があります。カルシウムの欠乏によって生理障害が起きますが、カルシウムが過剰になることで障害が出ることもあります。カルシウムが過剰になると、他のミネラルの吸収を阻害するため、他のミネラル欠乏症の要因となります。
石灰肥料など、アルカリ分の強い資材を多量に施用すると土壌の団粒構造が破壊され、土が固くなってしまいます。土が固くなると、植物が根を深く張れなくなる、土壌中の微生物が生きにくい環境になるといった状態に陥り、その状況がより土を固くしてしまうという悪循環が生じます。
カルシウム不足は補給すれば解決することができますが、過剰なカルシウムを取り除くことは困難です。過剰にならないよう注意しましょう。
消石灰の場合
消石灰は強アルカリ性の物質です。粘膜や皮膚に触れると炎症を引き起こす可能性があります。目に入って失明したという事故事例も過去に報告されています。消石灰を使う作業を行う場合には必ずマスクや長袖、手袋、保護メガネを着用しましょう。
消石灰は速効性があります。播種や定植を行う際は、消石灰の施用から最低でも2週間、できることなら1ヶ月あけてから行いましょう。
炭カルの場合
炭カルは緩効性でアルカリ分も弱いため、反応が穏やかで効き目が長く持続するのが使用上のメリットです。特に粒状の炭カルは粒径が大きいほど効果がゆるやかです。1回施用すれば、数年間は土壌酸度を中和する効果が続きます。
逆に言えば、その効果は「非常に緩慢」なため、状況によっては早めの施用を心がける必要があります。土壌pHを矯正するのに緊急を要する場合には、炭カルではなく消石灰などを使うようにしましょう。
酸度矯正で施用する前にやっておきたいこと
石灰肥料を過剰に施さないためにも、散布する前には専用の試薬や機械を施用するなどして必ず土壌酸度を計りましょう。大まかであればほ場周辺に生えている雑草で酸性に傾いているかどうかを知ることもできます。
関連記事:雑草は畑の状態を表す指標になる!雑草と土壌の関係
参考文献
- 【今さら聞けない安い単肥の話】 石灰の話 – 現代農業WEB
- 石灰の種類 | 農作業のツボ | お知らせ・イベント情報 | 相談できる農業・園芸資材専門店の JAファーム
- 消石灰の使いかた – 株式会社末吉商店 (青森県平川市)
- 消石灰とは? 効果や使い方、苦土石灰との違いなどを解説します
- 「肥料施用学」 BSI 生物科学研究所 炭カル(炭酸カルシウム)
- 苦土石灰とは? 効果と使い方、消石灰・有機石灰との違いなど解説します | となりのカインズさん
『現代農業 2022年11月号』p.164〜170(農文協、2022年)