人口減少が進む日本。高齢化率が高くなり、農村部では高齢化などを理由に利用する農家も増えつつあります。農林水産省は「長期的な土地利用の在り方に関する検討会」にて、離農した農地など、農地としての維持が難しい土地の利用について、段階的な利用方法を示しています。
第 11 回新しい農村政策の在り方に関する検討会・第9回長期的な土地利用の在り方に関する検討会 合同検討会 配布資料(全体版)
その中の「粗放的な利用による農業生産」で登場するのが「エネルギー作物」です。
エネルギー作物とは
再生可能なバイオマス資源を活用したバイオ燃料は、石油に代わる持続可能な次世代のエネルギーとして期待されています。バイオ燃料の原料には、資源作物(糖・澱粉作物、油糧作物、木質(樹木)、草本)や廃棄物(下水汚泥、農林畜産残渣、建築廃材、食料残渣など)が挙げられます。
エネルギー作物として利用される作物は多岐に渡ります。
たとえば農畜産業振興機構「エネルギー資源としてのてん菜」(2005年、最終更新日2010年3月6日)では、エネルギー作物の具体例としてナタネ、ヒマワリ、ムギ、サトウキビ、テンサイなどが挙げられています。
前田征児『エネルギー資源作物とバイオ燃料変換技術の研究開発動向』(2007年、科学技術動向2007年6月号)では、バイオ燃料として活用する原料は食糧との競合を避ける旨が述べられた上で、稲、ソルガムなどが挙げられています。
農林水産省「農林水産関係用語集」によると、資源作物は“エネルギー源や製品材料とすることを主目的に栽培される植物”と定義され、該当植物にはトウモロコシやナタネなどの農作物やヤナギ等の樹木が挙げられています。
このようにエネルギー作物として利用される作物はさまざまですが、近年注目を集めているのが「エリアンサス」です。
エネルギー作物「エリアンサス」
エリアンサスの写真が掲載→農研ニュース№43.indd
イネ科に属する多年草で、熱帯・亜熱帯地域に自生する植物です、越冬できる環境下であれば、周年栽培が可能です。越冬が難しい冬期の低温や雑草により日照が遮られるなどで引き起こされる生育不良がなければ、10年以上栽培できるといわれています。日本では東北南部の低標高地から九州までの非積雪地で栽培できます。
同じ株から毎年収穫できるのも特長の一つですが、主な魅力は栽培の手間がかからないことにあります。エリアンサスは乾燥に強く、雨水だけで生育します。土質を選ばないので、遊休地となった土地に植えるのに最適です。
またエリアンサスは肥料をほとんど必要としません。森田茂紀『バイオエタノールの原料を作る – 「もう1つの栽培学」への挑戦 – 』東京農業大学「新・実学ジャーナルNo.119」(2015年4月)によると、エリアンサスは一度苗に植え付けると追肥なしでも2、3年は収量が増加し、その後もほとんど減少しないとのこと。
エリアンサスは、初冬からの低温で、茎葉が枯れ上がる「立毛乾燥」が起こることで、水分が約30%まで乾燥します。そのため、ペレット燃料に加工する際、乾燥工程を省けるメリットもあります。加えて、その乾燥により、収穫物の保存性の良さや運搬のしやすさも利点として挙げられます。
注目のエネルギー作物「ジャイアントミスカンサス」「ヤナギ」
ジャイアントミスカンサスはススキとオギが自然に交雑してできた雑種で、「オギススキ」とも呼ばれています。エリアンサスと同じイネ科の多年草ですが、栽培北限が東北南部のエリアンサスと違い、ジャイアントミスカンサスは北海道でも栽培できます。草丈は3m以上にもなります。
ジャイアントミスカンサスは「三倍体」雑種です。三倍体は“基本数の3倍の染色体数を持つ生物体(出典元:小学館 デジタル大辞泉)”で、減数分裂ができにくいため、種子を生じない「不稔性」となることが多いです。ジャイアントミスカンサスは不稔性のため、増殖させるには根茎による栄養増殖を用いる必要があります。一方で、遊休地で栽培の手間をかけずに育てる観点からは、種子が飛散することによる在来植物の生育への悪影響がないため、増殖できないのは利点ともいえます。
ヤナギは寒冷地で栽培できるエネルギー作物として注目を集めています。挿木で簡単に増やせる上、萌芽しやすいため、短期間で繰り返し収穫できます。ただし、植栽前年に圃場に除草剤を散布するなどして雑草を完全に取り除いたり、ヤナギの芽生えを雑草から守るために、植栽時もマルチなどで雑草を抑える必要があったり、そのほか、シカの食害対策が必要になるなど、上記2つに比べると栽培にやや手間がかかるように感じられます。
ヤナギの場合は施肥コストの高さも課題として挙げられますが、森林総合研究所『エネルギー作物としてのヤナギ「北海道におけるヤナギ栽培手法開発の現状と課題」』によると、牛糞で成長が2倍になったとあります。家畜の排泄物が利用できるのでは、と新たな技術開発に期待が高まります。
参考文献
- (3)担い手の動向:農林水産省
- 長期的な土地利用の在り方に関する検討会:農林水産省
- エネルギー資源としてのてん菜 – 砂糖|農畜産業振興機構
- (研究成果) 資源作物「エリアンサス」を原料とする地域自給燃料の実用化|プレスリリース・広報 – 農研機構
- エネルギー作物としてのススキ属植物への期待 – AgriKnowledge
- 森田茂紀『バイオエタノールの原料を作る – 「もう1つの栽培学」への挑戦 – 』東京農業大学「新・実学ジャーナルNo.119」(2015年4月)
- エネルギー作物としてのヤナギ「北海道におけるヤナギ栽培手法開発の現状と課題」
- 前田征児『エネルギー資源作物とバイオ燃料変換技術の研究開発動向』(2007年、科学技術動向2007年6月号)
- 農文協編『季刊地域47号 2021年秋号』(2021年、農山漁村文化協会)