農林水産省によると、日本の野菜生産は収穫・調整作業に大きく時間が割かれていることが分かっています。少々古い資料にはなりますが、平成26年11月に農林水産省が出した「青果物の生産をめぐる状況」によると、キャベツの生産における作業別労働時間のうち、収穫・調製作業が全体の約4割を占める結果となりました。もちろん、収穫・調製作業にそこまで大きく時間を割く必要のない作物もありますが、収穫作業を省力化できるに越したことはありません。
そこで本記事では、収穫作業が楽な野菜を紹介していきます。
収穫作業が楽な野菜10選
※記載するタネまき・定植時期は、関東標準・一般地(寒冷地や暖地ではない)における時期であり、一般的な野菜における時期です。紹介する品種を育てる際には、それぞれの品種で推奨される最適時期に従って栽培してください。
※画像はイメージです。紹介する品種の写真ではありません。
「ゆたか32号」「まい緑214号」「のぞみ424号」葉柄が短く折れにくいブロッコリー
- タネまき
春まき 2月
夏まき 7月、8月
「ゆたか32号」「まい緑214号」「のぞみ424号」(ナコスのたね)は、葉柄が短いため、折れにくい特徴があります。機械作業性がよく、収穫効率のいい野菜と言えます。
また「のぞみ424号」は葉柄が短いだけでなく、花蕾が葉っぱに囲まれているという特徴もあります。この特徴により風にも強く、寒さ焼けしにくいメリットもあります。
「ラクロ」「あのみのり2号」「PC筑葉」トゲのないナス
- タネまき 2〜3月
ナスといえば特徴的なのが「トゲ」。新鮮なナスであればあるほど頑丈なトゲがあり、指にグサッと刺さるとなかなか痛みが引きません。新鮮さを把握するにはとても良い特徴なのですが、収穫作業のことを考えると難点ともいえます。
またナスを安定的に生産するために、人工授粉やハチなどを利用した受粉作業、ホルモン処理などを行う必要がありますが、それらの管理がうまく回らないと安定した収量はなかなか得られません。
「ラクロ」(アサヒ農園)「あのみのり2号」(野菜茶業研究所)「PC筑葉」(タキイ)はトゲがなく、調整作業がしやすい品種です。また単為結果性(受精が行われずに子房壁や花床が肥大して果実を形成すること)のため、管理を必要としません。
「甘美人」割れにくく、刃物いらずなニンジン
- タネまき
春まき 3〜4月
夏まき 6〜7月 7〜8月
「甘美人」(ナント種苗)という品種は、とても割れにくい品種です。300本収穫したとき、割れは1本程度で済むという割れにくさです。
「甘美人」の魅力は割れにくさだけではありません。「甘美人」の葉はとても長く、立ち硬いのですが、その葉の特徴により手でパキッと折ることができます。刃物を使わず、手だけで葉を折ることができるので、収穫作業も楽チンです。
肥大には時間がかかりますが、大きさがMLサイズ程度で収まるのも魅力的です。MLサイズ程度に育った頃には葉だけでなく細かい根も折れやすくなるため、洗浄機で簡単に根を除去することも可能です。
「甘美人」はニンジン特有の青臭さが少なく、肉質が柔らかいため、消費者ウケも良い品種です。ただしその肉質の柔らかさゆえ、荒く扱うと肩が割れることも。洗浄機に入れる際には、1度に洗う量を少なくしたり、洗浄時間を短くすることをおすすめします。
「きら〜ず」皮の厚さが調節可能なミニトマト
- タネまき 3〜5月
老若男女に人気の野菜ミニトマト。近年では、皮の薄い甘い品種の人気が高まっているようです。しかし皮が軟らかすぎると実が傷つきやすくなります。収穫やパック詰めに繊細な作業が必要になり、作業に時間がかかってしまいます。
「きら〜ず」(ナント種苗)は皮の薄い品種ではありますが、かん水により皮の厚さを調節することができます。水を控えれば皮を厚めにすることができるので、収穫前に皮の厚さを調節すれば、繊細な作業への負担を減らすことができます。
軸が長めで、指でつまんで収穫できるのも利点のひとつです。
「ハイドン」不要な外葉が除きやすいホウレンソウ
- タネまき
春まき 3〜5月
夏まき 7〜9月
秋まき 9〜11月
「ハイドン」(サカタ)は
- 軸が折れにくい
- 葉が絡みにくい
ため、収穫作業がしやすいです。不要となる外葉が下を向きやすく、外葉を除去しやすいのも特徴です。
また
- 不安定な気候でも生育しやすい
- 気温が上昇しても徒長しにくい
といった特徴もあり、生育の安定性にも定評があります。
「里ごころ」「菜々子」「はっけい」葉が絡みにくいコマツナ
- タネまき 3〜10月
「里ごころ」(武蔵野種苗園)「菜々子」(タキイ)「はっけい」(サカタ)の草姿は立性。そのため、葉が絡みにくく収穫作業がしやすいのが特徴です。
「里ごころ」は日に日に葉柄の太さが増していきますが、草丈がむやみやたらに伸長しすぎないのも魅力のひとつです。
「紅法師」土がつきにくいミズナ
- タネまき 3〜10月
ミズナは切り口付近に土がつくと、見た目や商品価値が低くなってしまいます。葉柄が赤い「紅法師」(タキイ)は土がつきにくいという特徴があります。「主根が太く、側根が細い」という根の形状が、土をつきにくくします。
また葉柄の1本1本が太いため、多少荒く扱っても痛みにくいという特徴もあります。
「ピュアホワイト」「クリスピーホワイト」丈夫なトウモロコシ
- タネまき 4〜5月
トウモロコシの中には包葉が短いものもあります。包葉が短いと、先端部分が露出してしまい、コガネムシ被害を受けやすくなります。また果皮が薄い品種だと、収穫時の荒い扱いで実が潰れることもあります。
「ピュアホワイト」(雪印種苗)と「クリスピーホワイト」(サカタ)は先端までしっかりと包葉があるため、コガネムシ被害に遭いにくく、収穫のとき多少雑に扱っても不安がありません。「クリスピーホワイト」の場合、果皮が厚めのため、実が潰れる心配もありません。
また「ピュアホワイト」の特徴的な形状にも注目。円筒形に近い形になるため、箱詰めする際に隙間ができにくく、作業がしやすくなります。
「つや太郎」「Vシャイン」整枝作業が軽減できるキュウリ
- タネまき 4〜5月
- 定植 5〜6月
「つや太郎」「Vシャイン」(共にタキイ)は管理作業がラクな品種です。「つや太郎」の側枝は比較的ゆっくりと発生します。「Vシャイン」は側枝の節間が短めという特徴があります。側枝の特徴と過繁茂になりにくいという性質から、整枝作業を軽減することができます。
「恋みのり」摘果いらずなイチゴ
- 定植 10月
「恋みのり」(九州沖縄農業研究センター)には、
- 果房ごとの着果数が少ない
- 不受精果が少ない
- 正常果が9割以上
- ランナー(茎につく新芽)の発生が少ない
といった特徴があります。
着果数と不受精果が少ないことから摘果いらず。また収穫量は少ないですが、大玉になりやすく、正常果が9割以上のため、選別しやすいのも魅力です。そもそもランナーの発生が少ないため、ランナーを除去する作業も少なく、栄養が分散する心配もありません。
参考文献
- 青果物の生産をめぐる状況 農林水産省
- 「収穫・調整作業がはかどる品種」、『現代農業』、農文協、2019.02、p.205〜p.217
- 株式会社ナコス
- アサヒ農園
- 野菜茶葉研究所 農研機構
- タキイ種苗株式会社
- ナント種苗株式会社
- サカタのタネ
- 武蔵野種苗園
- 雪印種苗株式会社
- 九州沖縄農業研究センター 農研機構