肥料の一種である堆肥は、辞書上では“わら、雑草、落葉、海藻などを積み重ね、水や硫安などの窒素を適度に補給しながら切り返し、腐らせたもの(引用元:精選版 日本国語大辞典)”と記載されています。
堆肥には、窒素、リン酸、カリウムなどの栄養成分が作物に吸収しやすい形で含まれているため施肥効果が高く、またその効果が長く持続し、地力を増大させることから土壌改良剤としても利用されます。
そんな堆肥について気になる疑問を見つけました。それは「堆肥だけで栽培は可能か」というものです。
堆肥だけを利用して植物を栽培することは可能なのでしょうか。
堆肥だけの栽培は……
結論から申し上げると、堆肥だけで作物を栽培することはおすすめできません。
冒頭で紹介した「畑の土は堆肥だけではダメですか」という質問(園芸相談センターの過去ログ)への回答にもありますが、堆肥だけだと“窒素過多でつるぼけしやすい”とあります。加えて、堆肥中の成分は堆肥の材料として何を利用するかによって変わります。
たとえば上記回答の場合、市販の牛糞堆肥のみで栽培したところ、ホウレンソウとコマツナは栽培できたものの、ジャガイモはつるぼけを起こして肥大せず、ナスやトマトは病気になったと記載されています。
そして牛糞ではなく鶏糞堆肥を使ったならば、また違う結果になったと考えられます。
尿酸が大量に含まれる鶏糞を利用すれば、窒素の肥料分としての即効性が期待できます。ただし、養分過剰による生理障害の一つである肥料焼けに注意しなければなりません。鶏糞に多く含まれる炭酸カルシウム、リン酸カルシウムによるカルシウム過多、鶏糞堆肥を与えることによる土壌中のリン酸過剰にも注意を払う必要があります。
「堆肥栽培」は堆肥だけを利用することではない
「堆肥栽培」というキーワードがありますが、これは堆肥だけで栽培することを意味しているのではありません。
堆肥栽培は、業界・技術専門誌「現代農業」の特集で登場した用語であり、その背景には化学肥料の価格高騰があります。化学肥料が高騰したことで、肥料として使える地域資源はないかと探し求めた農家たちが、畜産農家が処理に困っている家畜糞や食品工場から出る野菜や果物の皮や芯などの廃棄物、生ごみやもみがら、雑草などを利用した栽培方法が「堆肥栽培」なのです。
堆肥の上手な使い方
材料によって性質が異なる堆肥は、肥料目的で使うのか、土壌改良目的で使うのかによって、適した動植物原料や成分の割合が変わってきます。
肥料目的で使用する場合には、窒素成分の割合が高いものがおすすめです。即効性を求める場合には、先で紹介したような注意点を意識する必要はありますが、鶏糞を利用した堆肥がおすすめです。
土壌改良目的の場合は、稲わらやもみがらなど繊維質の割合が多いものがおすすめです。繊維質の多い堆肥を土壌にすき込むことで土がふかふかになると、水や空気、肥料の通りがよくなります。
また堆肥は、分解が進んでいない未熟なものを施すと作物の害になることが知られていますが、完熟堆肥ではなく中熟堆肥の効果に関する話題を目にする機会が多くなった気がします。
水を加えても発酵が起きない、分解が進みすぎた堆肥より、完熟しきっていない状態の堆肥の方が、有用微生物の数や有用微生物が増えるためのエサが多く、土壌にすき込んだ際の効果が期待できる、とされています。
もちろん中熟であろうと完熟であろうと、闇雲に加えるのは効果的ではありません。土壌中の病原菌が有用微生物よりも優位にならないよう注意をし、土壌の様子をよく観察しながら加えていくことが重要です。
参考文献