近年、作業の省力化や環境保全の観点から耕うん作業を行わない不耕起栽培や「浅耕」といった用語を目にする機会が増えました。本記事では、不耕起、浅耕の定義、耕すことのメリット・デメリットを復習していきます。
耕うん、浅耕、不耕起とは
耕うんとは百科事典によれば「作物の播種・植え付けの準備として、耕地の土壌を掘り返して砕き膨軟にすること」とあります。耕うんの目的は大きく分けて2つに要約できます。1つは物理性の改善です。耕うん作業によって固く締まった土壌を軟らかくすることで、通水性や通気性を改善することができます。2つ目は除草効果です。土壌表面に残った前作の植物残さや雑草、堆肥などを耕うん作業によって土中に埋め込むことで、雑草等の発芽を抑制し、次作の播種・移植作業の障害を抑えます。耕うんの一般的な深さは13〜15cmです。
一方、浅耕は言葉として明確な定義は見つからなかったものの、土壌表面を深さ2〜5cm程度にごく浅く掘り返すことを指します。
そして不耕起はその名の通り、農地を耕さないことを表します。
耕うん、浅耕、不耕起の使い分け
ホクレン営農技術情報誌「あぐりぽーと」にこんな1文がありました。
極論ですが、もし土壌物理性が十分に良好で、除草剤だけで十分に雑草を抑えられるのであれば、耕うんは必要ないことになります。
実際、耕うんを行う際には土壌に対しどのような効果をねらうのか、その作業を行う目的を理解して実施する必要があります。
耕すことのメリット・デメリット
農業情報誌『現代農業2023年1月号』によると、耕すことのメリットは以下の通りです。
- 整地・ウネ立てがしやすくなる
- 有機物や肥料を混ぜられる
- 土がふかふかになる
- 土壌の無機化が進み、乾土効果※が得られる
- 雑草が抑えられる
※水田に湛水する前に土壌を乾燥させることで、土壌中の窒素量が増加する現象。(出典元:小学館 デジタル大辞泉)
一方デメリットにはまず耕盤層ができることがあげられます。耕盤層はトラクターの踏圧などで土が練り固められてできる土中の硬く締まった層を指します。硬い耕盤層がつくられると排水性が悪くなったり、干ばつ時には耕盤に遮られて地下水が上がってこなくなったりというデメリットが生じます。
作物や雑草の根のあとにできた空気や水の通り道や土壌団粒が耕うん作業によって物理的に壊れることもデメリットとして挙げられます。これらはしばらくすると再び形成されますが時間を要します。
また、耕うんには雑草などの種子を土中に埋めて発芽を抑制する効果がありますが、埋められた種子が掘り起こされ、表層にくることで発芽し、かえって雑草が増えてしまうこともあります。
浅耕、不耕起の使い分け
耕すことそれ自体が悪いというわけではありませんが、土壌の成熟度合いによっては浅耕や不耕起に切り替えた方が、作業の省力化や環境保全面でメリットが得られることもあります。
『現代農業2023年1月号』で浅耕に取り組む農家の事例では、土壌が成熟していない場合には、人為的に物質循環を早め、有機物を蓄積することが重要と考え、浅耕を行っています。土壌の腐植含有率が10%を超えるまで浅耕作業を繰り返し、不耕起栽培に切り替えることを最終目標としていました。
不耕起に向く・向かない作物も知っておこう
ジャガイモやサツマイモなどの根菜類は不耕起栽培に向かないとされています。一方で、ダイズやソバ、飼料用トウモロコシなど生育が早い作物は不耕起栽培に向いています。2022年2月24日に起きたロシアによるウクライナ進行の影響で穀物価格が上昇したこともあり、国産トウモロコシ生産が注目を集めていることからも、飼料用トウモロコシは不耕起栽培に初めて取り組む人が挑戦しやすい作物といえます。
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耕うん作業にも注意点あり
土壌の物理性を改善するためには耕うん作業は必要といえます。ただし、雨天が続き、土壌が大量に水分を含んでいる際に土を掘り返してしまうと、土壌の物理性はかえって悪化してしまいます。耕うんを行う場合には、土壌の現状だけでなく、作業を行う際の気候条件も十分考慮して作業を行ってください。
参考文献
- 耕うん整地技術の向上で作物の安定生産をめざそう
- 『現代農業2023年1月号』(農山漁村文化協会、2023年)