本記事では、日本の食に欠かせないコメの副産物「もみ殻」の農業への活用術を紹介していきます。
もみ殻の基礎知識
もみ殻は「稲の実の外皮。籾米をついて玄米を得たあとの殻」です(出典元:小学館 デジタル大辞泉)。
もみ殻を構成する成分は炭水化物が80%、ケイ酸が15〜20%、そのほかの微量成分が数%で、一般的な肥料成分である窒素・リン酸・カリウムはほとんど含まれていません。“稲の実の外皮”であるもみ殻には、害虫などから稲の実(もみ)を守る役割があります。もみ殻にはガラスや陶磁器の原料にもなる物質・ケイ酸が含まれているため、丈夫で硬く、土壌微生物にも分解されにくいのが特徴です。
もみ殻と同じく、農業に活用される機会が多いコメの副産物に「米ぬか」があげられます。米ぬかは「玄米を精白するときに出る外皮や胚の粉」です(出典元:小学館 デジタル大辞泉)。ケイ酸以外の栄養素がほとんど含まれていないもみ殻とは異なり、米ぬかは脂肪・たんぱく質などを多量に含みます。
農林水産省が公開する「子どものための農業教室」というウェブページには、稲の実(もみ)の中身の写真が掲載されています。気になる方はぜひご覧ください。
もみ殻を生のまま使うことで得られる効果
土壌改良剤として役立つ
もみ殻には栄養素がほとんど含まれていないため、そのまま施用しても肥料効果は期待できません。
一方で、生のままのもみ殻は土壌改良剤としての効果が期待できます。土の中にすきこむことで水はけの改善に役立ちます。
通常、もみ殻のような炭素率の高い生の資材を土の中にすきこむと「窒素飢餓」が生じることが懸念されます。
窒素飢餓とは
新鮮有機物を土壌中に施用した場合、これを分解する土壌微生物と、作物とのあいだに窒素をめぐっての競合が起こり、作物の生育が抑制される現象のこと。
土の中にすき込まれた有機物の豊富な炭素を利用して、微生物の増殖が急激に進むと、微生物が炭素を糧に増殖する過程で窒素を消費してしまい、土壌中の窒素が不足してしまいます。
しかしもみ殻の場合、もみ殻に含まれる有機物のほとんどがリグニンやセルロースといった難分解性有機物です。そのため、土壌微生物による分解がされにくく、窒素飢餓は起こりにくいとされています。
より効果的に活用するために
もみ殻はその表面を覆う「クチクラ層」(ワックス成分)によって水を弾くため、そのまま土壌にすき込んだ場合、土壌で分解発酵するには3〜5年かかります。
水はけの悪い土壌であれば、土壌改良の効果が得られますが、水はけの良すぎる土壌に大量のもみ殻をすき込むと、土壌の保水性が低下してしまうことがあります。
ある程度の期間もみ殻を水に浸すと、もみ殻の吸水性が高まります。比較的水はけの良い土壌にすき込む場合には、もみ殻を最低でもひと冬、可能であれば1年間は風雨にさらして、ワックス成分を落とすことをおすすめします。
『現代農業 2018年11月号』では、もみ殻の吸水性を高めるために「氷結」させる手法が紹介されています。もみ殻が凍ったり溶けたりするのを繰り返すことで、組織を破壊し、吸水性を高めます。事例では、秋にもみ殻を散布し、10月後半から1月にかけて何度かロータリをかけ、均等に凍結処理を行っていました。土壌凍結深度が浅い場合は、ロータリ回数を増やして調整を行っています。
マルチング資材として役立つ
もみ殻は土壌微生物に分解されにくいことからマルチング資材としても利用できます。通気性が良いため、地温が上がりすぎるのを抑え、保湿・保温の効果が期待できます。雑草抑制の効果も期待できますが、多少のすきまが生じるため、ビニールフィルムでのマルチングよりは効果がやや劣ります。
参考文献
『現代農業 2018年11月号』(農文協、2018年)