気象庁の「日本の天候の特徴と見通し」より発表された6〜8月の平均気温予報を見てみると、2020年6〜8月の平均気温が全国的に平年並みか高い傾向にあることがわかります。
2018年7月には、記録的な高温とそれに伴う豪雨が甚大な被害をもたらしました。その背景には複数の要因がありますが、地球温暖化に伴う気温上昇を否定することはできません。そして2020年も地球温暖化の影響がおさまることはないでしょう。
平年並みか高くなることが予想される2020年の夏。農作物だけでなく、体にもこたえるような暑さが予想されますが、本記事では、その酷暑を少しでもポジティブに捉えられるような、酷暑をフル活用する「太陽熱土壌消毒」についてご紹介していきます。
太陽熱土壌消毒とは
太陽熱エネルギーを利用して地温を上昇させることで、土壌中の病原菌や雑草の種子などを死滅させる技術を指します。
薬剤による土壌消毒と比較すると、農薬を利用しない分コストを削減できること、また薬剤の残留がない、病害虫の薬剤耐性・抵抗性が発達しないといったメリットがあります。有機農業を実践している場合には、土壌防除を行うのに有機JAS認証の規定から逸脱しないで済むという点もメリットといえます。
酷暑を効果的に利用しよう
太陽熱土壌消毒の最適期は梅雨明け(7月中旬〜下旬)から9月上旬です(暖地であれば、近年高温傾向にあるゴールデンウィーク期間もおすすめです)。
従来であれば、平均して3週間程度かかる太陽熱土壌消毒。かつては気象条件によって防除効果が左右されやすく、晴天で最高気温30℃以上の日が 30 日以上必要とされていましたが、1日の最高気温が35℃以上の日を指す猛暑日が珍しくなくなった今、酷暑により地中温度を55〜60℃以上に保つことができれば、2週間程度で済ませることができます。
それから、病原菌は乾いた土の中では50℃以上であっても病原性を持続しますが、土壌中に最大容水量の60%ほどの水分(湿った土をぎゅっと握り手を開いたとき、土の塊にひびが入る程度)があれば、40℃でも死滅させることができます。後述する方法を実践する際には、土壌水分と地中温度を保つこと意識しましょう。
太陽熱土壌消毒の流れ
①有機物資材や石灰窒素を施用
土壌改良と地温上昇の促進のために、まずは有機物資材や石灰窒素を土壌に施用します。有機物資材は土壌微生物の増殖を促進し、石灰窒素は有機物の分解の増強や土壌pHの調整、また分解される際に発生する熱により、地温上昇の増強に役立ちます。
②耕耘と畝立て
有機物資材や石灰窒素等が均一に混合されるよう、土壌を耕耘します。20〜25cm程度に混ぜ合わせられるよう、できるだけ深く耕しましょう。また熱効率が良くなるよう、畝幅60〜70cmほどの小畝を作り、土壌の表面積を広くします。畝を立てることで消毒後の排水も良くなります。
③灌水/湛水
熱の伝わりをよくするため、土壌に水を与えます。散水の量は土の乾き具合にもよりますが、土壌の水はけが悪くても圃場容水量以上の水を与えることを目標にします。
なお短時間に大量の散水を行うより、時間をかけて少なめの水量を与える、または複数回に分けて散水するほうが土壌中の水分含量が高くなります。また湛水できない、散水設備がないなどの場合には、梅雨の時期の降雨を利用しましょう。降雨後、作業できる程度に土壌が乾いてから消毒を行えば、土壌に水を与えたことによる地温上昇効果が高まります。
④被覆する
専用のビニールフィルムや使い古したビニール材などを利用して被覆します。使い古したものを利用する場合には、破れ目などをふさいでから使いましょう。
なお③と④の行程は入れ替えて行うことも可能です。やりやすい方法を選びましょう。
⑤太陽熱消毒が終わったら…
先で“55〜60℃以上に保つことができれば、2週間程度で済ませることができる”と紹介しましたが、株式会社大地のいのちが紹介している太陽熱土壌消毒法には、太陽熱消毒を終える基準値が紹介されていました。
畝上から30cm深の温度×日数で積算温度を算出し、これが800℃以上になれば終了してよい。(例えば40℃×20日=800℃)〜中略〜余裕があれば900℃~1000℃までやってもよい。
この基準値の他に、「陽熱プラス実践マニュアル」には効果の目安となる「~℃以上の積算時間」等が記載されています。「陽熱プラス」では地温の計測を消毒法の基本としています。気象情報を利用して地温を推測する方法も紹介されています。
十分な太陽熱処理を行った後は、被覆材を剥ぎ、2〜4日ほど乾燥させます。土壌表面が固まりきらない程度に乾いたら、播種、定植を行います。
気象庁のホームページにある「農業気象ポータルサイト」には、営農活動や屋外活動における気象に関する知識や身を守るための情報がまとめられています。高温や日照に関するものだけでなく、冬季の低温や火山灰に関する情報も掲載されているので、ぜひ活用してみてください。
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参考文献