農業の基本は「土づくり」です。よりよい土壌環境を整えるには、物理性・化学性・生物性を見直しましょう。
・物理性:土の構造や通気性、排水性、保水性など
・化学性:pH、肥料成分、保肥力など
・生物性:土壌中生物・微生物の多様性
これらを改良することは、農作物のよりよい生育につながります。しかし農作物の健康管理には目がいっても、土壌の健康管理になかなか手が回らない・回せないという人もいるのではないでしょうか。そんな人にオススメなのが、土壌診断“キット”の存在です。
土壌づくりに欠かせない土壌診断
土壌診断は、よりよい農作物生産のためには欠かせません。
従来の栽培方法では、生産量を高めるために多くの肥料が土壌に施されてきました。
しかし農林水産省の土壌環境基礎調査によると、大量に施された肥料の影響で、リン酸やカリウムが土壌中に蓄積傾向にあることがわかっています。言うなれば、人間の「肥満状態」に近い状態で、決して健全な土壌環境ではないというのが現状です。
加えて近年、肥料価格は高騰傾向にあります。適切な土壌環境に整え、かつ肥料代を節約するためには、土壌診断によって土壌の状態を明確に把握し、改善していく必要があると言えます。
土壌診断では、冒頭で紹介した物理性・化学性・生物性の3つの観点から、土壌が健全かどうかを診断します。できる限り、土壌が健康な状態か否かは関係なく、定期的に・継続的に行うべき診断です。人間の「健康診断」と同じように診断できることが理想と言えるでしょう。
診断キットのススメ
土壌を診断できる機器は販売されています。例えばpH診断や土壌中の塩濃度を測る機器など、さまざまなアイテムがあります。これらを活用すれば、自分一人でも診断を行うことはできるでしょう。しかし「診断キット」があれば、土壌の一部を採取することで分析を委託することができます。診断内容やその価格は土壌分析を受け付けている業者によってさまざまですが、おおよその流れは同じです。
1,土壌分析を申し込む
2,手順に従い、土壌を採取する
3,分析センターにて土壌分析
4,診断書や分析証明書が発行される
自分の調べたい項目を網羅している業者に頼むのがよいでしょう。
診断のポイントなどを掲げている業者もありますから、さまざまな観点で見比べてみてください。例えば農機大手のヤンマーで提供する「ヤンマーの本格土壌診断」では、専門家による最適な土壌改善策がレポートの形で届きます。
この本格診断では、病害や生育不良の原因がわかるだけでなく、どのくらいの肥料を施すべきなのか、栄養バランスの整った土壌になっているかどうかなど、分析結果だけでなく改善策も用意してくれます。「土壌の調子が悪いのはなんとなくわかるが、どう改良すべきか悩んでいる」という人にとってはありがたいサービスなのではないでしょうか。
簡易的なキットの存在も
一般的な土壌診断では、表面の土を採取して分析するだけかと思いきや、生産者自身が圃場の真ん中に穴を掘り、土の乾き具合や湿り具合、根の状態、土の層などを確認する必要があります。また先でも紹介したように、ご自身でも分析することができますが、分析機器の使用法や土壌分析用語(pHやEC、CECなど)、評価法を理解する必要があります。
そこで「土壌診断をより簡便にできる」キットも用意されています。「みどりくん」はガーデニング用の土壌検査試験紙をベースにつくられた、圃場などの土壌に合わせたカラーチャートや分析器具を組み合わせてできたキットです。
「みどりくんN」:土壌pH、硝酸態窒素を測定
「みどりくんPK」:水溶性リン酸とカリウムを測定
など用途別に分類され、バッテリーなどは不要です。
採取器と養分抽出のためのプラスチック容器でできており、試薬類も不要という簡便さです。アナログな診断キットではありますが、肉眼だけで土壌養分を測定できる簡便さは魅力的なのではないでしょうか。
その他診断キット事例
そのほかにも特定の農産物で起こる病気を診断するキットが開発・販売されています。昨今、健康への関心が高い人たちの間で話題の「遺伝子検査キット」のような簡便さで(遺伝子検査キットは、唾液を容器に入れて分析センターに送ることで、遺伝子的観点から起こりうる病気の可能性を導くもの)、農作物に起こりうる病害被害を避けることができます。
『次世代農業EXPO』(2018年10月開催)で紹介されていたのは、vegetaliaが展開する「根こぶ病菌密度診断サービス」です。アブラナ科の野菜にのみ発生する病気で、土壌中の病原菌が原因です。土壌中の病原菌汚染度が高ければ高いほど、被害は深刻になります。そこでこの診断キットでどの程度発病する可能性があるかを診断し、事前の防除対策を促すのです。
発病の可能性を診断するためには、まずWEBで申し込みを行い、専用キットに土壌サンプルを採取します。その後返送するだけで、およそ2週間後に診断書が届きます。土壌中の物理性・化学性・生物性の検査を行い、適切な防除対策を取ることができれば、必要量以上の農薬を使用せずとも、病原菌から野菜を守ることができるでしょう。病気にかかるよりも前に対策を練ることで、生産に関わる費用のコストパフォーマンスも良くなりますよ。
本記事では土壌診断キットについてご紹介しました。このような分析、診断が手軽にできるようになれば、新規就農者が土壌への向き合い方に気負わずに済むのではないでしょうか。