土は農作物の生育にとても重要です。
農作物の生育に密に関わっている土ですが、土壌環境が悪いと生育障害が生じることがあります。
そこで本記事では、作物の生育障害の原因として「土壌」に着目。生育障害を引き起こす土壌環境の原因と対策について解説していきます。
生育障害の原因
大きく分けて「要素欠乏」か「要素過剰」によって生育障害が引き起こされます。
またその症状の発生は、要素の特性によって発生する部位が異なります。
窒素やリン、マグネシウムのような要素は、作物の体内で移動しやすいため、欠乏すると下葉から欠乏症状が発生しやすくなります。
一方で移動しにくいカルシウムや鉄などは、上葉から発生しやすくなります。
もちろん作物によって異なりますし例外もありますが、要素の移動しやすさを知っておくと、何の要素が植物に足りていないのかを理解する指標になります。
土壌条件に着目
本題である「土壌」ですが、土壌条件によっても欠乏症・過剰症の発生しやすい要素が変わります。
・土壌条件が酸性
→カルシウム、マグネシウム、五酸化二リン、マンガンが欠乏しやすい
・土壌条件が中性〜アルカリ性
→銅、亜鉛、鉄、マンガン、ホウ素が欠乏しやすい
・土壌条件が酸性
→銅、亜鉛、アルミニウム、マンガン、ホウ素が過剰になりやすい
また「アルカリ性土壌」は生育障害、生育不良を起こしやすい土壌の代表格です。
植物の栄養素として代表的なものは窒素・リン酸・カリウムですが、鉄分も植物の生育に欠かせない要素です。
通常、土壌中に鉄分は豊富に含まれているため、肥料として人為的に与える必要はないのですが、アルカリ性土壌に存在する鉄は水酸化第二鉄(Fe(OH)3)という水に溶けにくい形をしています。
そのため植物は十分な鉄を吸収することができなくなり、鉄欠乏症になってしまいます。
植物に必要な栄養素が過剰に蓄積することも、生育障害の原因となります。
窒素過剰による生育障害の例を挙げます。
窒素が過剰に与えられると、植物は徒長し軟弱になります。
軟弱になった植物は病害虫の被害に遭いやすくなりますし、品質低下にもつながります。
長野県中信農業試験場の行った試験によると、窒素の過剰施肥によってレタスの糖、ビタミンCの含有量が低下したとあります。また消費者の間で健康被害が不安視されている「硝酸態窒素」濃度が高まるという結果も報告されています。
生育障害、土壌に着目した対策法とは
まず養分の過不足によって生育障害が起きた場合について、代表的な要素欠乏症に対する対策を紹介していきます。
<窒素欠乏症>
→下葉から発生し、葉の色が淡緑色から黄色に変色。主な症状は、生育抑制。
応急処置を行う場合には、速効性のある窒素肥料を追肥し、不足分を補います。また予防する場合には、施肥量の適正化を図りましょう。
<リン欠乏症>
→下葉から発生し、葉の光沢が悪く暗緑色に変色。茎や葉柄は紫色に。
応急処置を行う場合には、第一リン酸カリウムもしくは第一リン酸カルシウムの0.3~0.5%溶液を葉面に散布します。予防する場合には、リン酸質肥料を施すなどして酸性土壌の改良を行いましょう。
<カリウム欠乏症>
→下葉から発生し、葉脈間や葉緑が黄化。主な症状は、草丈の伸長の悪化。果実の肥大不良、品質低下。
葉面散布では十分量のカリウム供給が難しいため、カリ質肥料を成分含量3~5kg/10aを目安に施肥します。予防する場合には、塩基バランスの適正化を図りましょう。
次に代表的な養分過剰症への対策です。
<マンガン過剰>
例)枝豆
排水不良の酸性土壌(pH5.6)で栽培したところ、マンガンを過剰に吸収。下葉の葉脈が赤紫色に。
例)トマト
ヨーロッパで栽培されているトマトをpH6以下の酸性・過湿土壌で栽培すると発症しやすい。
例)青じそ
アオジソ上部葉の湾曲が見られる。
酸性条件の土壌で発生した場合には、石灰質資材を使用し、土壌改良を図ります。
アルカリ性条件下で発生した場合は、土壌を乾燥させましょう。また養分過剰ですから、追肥量を大幅に減らすだけでも症状の抑制につながることがあります。
<ホウ素過剰>
例)きゅうり
葉縁が枯れ、落下傘葉が発生。
例)みかん
葉先端部が黄化。
ホウ素過剰に強い農作物を作付することで、過剰症を緩和します。トマトやカブ、大根などを作付しましょう。また多量の水を流し、ホウ素を洗い流した後、土壌pHを6.5以上に高めることでも効果があります。
対策を行う際注意しなければならないのが、欠乏症や過剰症の原因が“単一要素ではない”場合を考えなければならないということです。
他の要素が影響する場合も大いにありますし、要素だけでなく土壌そのものやpHが関わってくることもあります。
いずれにせよ、農作物を栽培する前や栽培期間中、こまめに土壌分析を行いましょう。
農作物の状態観察と共に、土壌条件の観察も念入りに行うことをおすすめします。
また病害虫による症状の場合もあるので、判別しきれない場合には農協や専門機関への相談もおすすめします。