消費者による食の安心安全志向の高まりから、有機栽培への関心も高まっているように思えます。有機栽培は化学肥料や農薬を使用しない、有機質のものだけで農作物を育てる栽培法です。この有機栽培で最も重要視されるのは、“土壌”そのものなのではないかと考えています。そこで今回は、農業の原点とも言える“土壌”に着目し、有機栽培土壌に重要な生態系について詳しく見ていきましょう。
一般的な土壌微生物について
土壌中には様々な動植物が存在しています。中でも微生物は最も多量に存在する生き物と言えるでしょう。
土壌中に生育する微生物の種類は広範囲に渡り、分類も幅広く分かれます。
しかし彼らの存在があるからこそ、動物の糞や死骸、枯れてしまった植物が分解され、再び土へと還り、その土を利用して農作物が育ち…という循環が生まれます。
土壌微生物のユニークなところは、土壌環境は微生物相のバランスに影響されるところです。例えば「除草剤の影響を微生物がどう受けるのか」という実験で、あるミカン園に除草剤をまいたところ、あまり好ましくないカビの多い土壌へと変化したといいます。除草剤によって、有機物を土壌へ還元するのに有用な微生物が死滅し、逆に農作物や有用微生物に害を与える微生物相の増加が見られ、土壌劣化につながったのです。除草剤の使用が絶対にNGというわけではもちろんありませんが、除草剤の利用によって生態バランスが崩れ、悪影響が及んだのは事実です。一方有機栽培では、化学的な肥料や農薬の使用はできないため、枯れた植物など農地のそのままの状態を活かすことができるので、土壌生物相を豊かにすることが期待できます。
菌根菌(きんこんきん)について
菌根菌は、土壌微生物の中で植物の生育に貢献している代表的なものと言えます。
植物の根に共生することで生育する微生物の総称なのですが、土壌中に含まれるリンなど栄養分を吸収し、植物がその養分を利用しやすいように供給する働きがあります。
一方菌根菌は、植物が光合成によって得た生成物を受け取ることで生育しています。共生は、互いに補い合って生きるためのアイディアなのですが、菌根菌の場合には植物の耐乾性、耐塩性、耐病性などの向上にもつながるため、農業従事者からしてみても好都合な存在だと言えます。
また有機栽培の場合、化学肥料を施した農地に比べると、微生物による有機物の分解を挟んでから植物が養分を吸収するため、少々時間がかかります。しかし菌根菌によって栄養分の効率的な吸収が行なわれるため、有機栽培と菌根菌の相性は抜群だと言えるでしょう。
病害に対抗する微生物について
加えて微生物は生き残りをかけて、それぞれ生存戦略を持ちながら生きています。そのため、農業や農作物によって有用な微生物を味方につけることで、害をもたらす病害から農作物を守ることも十分出来ます。人間の体内でも同じことが言えますが、土壌中にいる微生物は、農作物に良い影響を及ぼすもの、悪い影響を及ぼすもの、どちらかが増えるとその影響を受けるものの、ざっくり分けて3つに分けられます。そのうち特定の微生物には生存戦略として抗菌物質を生成するものもいます。そこで農作物に有用な微生物が有利になる土壌づくりを意識すれば、植物に害を与える微生物を抑制することにつながるのです。
病害に対して農薬を活用する人もいるでしょう。そんな時、化学農薬には即効性があります。しかし、有害な微生物と一緒に有用な微生物も殺してしまうリスクがあり、土壌環境をもとに戻すのに苦労するケースもよく聞きます。そのため有機栽培を行なう際、もし土壌環境が悪くなってしまった場合には、原因が何であるかを特定し、有用な微生物が優位に立てるような土壌環境に整えることが対策法と言えます。
生態系がもたらす農業への効果
農業の基盤ともいえる“土壌”、肥沃な土壌をつくることは、農作物を育てるうえでとても重要です。有機栽培に特化しなくても、土壌の生態系が豊富な土は、農作物づくりには欠かせない存在です。
ただし有機栽培を行なう際には、長い期間でとらえて取り組む必要があります。土壌の生態系がもたらす農業への効果は、即効性がありません。有機農業に適した土壌でない場合、微生物相が貧弱なために、すぐには農作物が育たないという場合も十分考えられます。長い時間をかけて土壌を豊かにする必要があるので、焦りは禁物です。しかし生態系が豊かになってしまえば、土も団粒構造の発達した水はけ、通気性のいい土になりますし、有機物を投与すれば順調に分解が進み、肥沃化につながるでしょう。病害虫も発生するかもしれませんが、豊かになればそれらを食べてくれる益虫や動物、微生物の存在も増えます。多様な生物の存在する土になれば、それこそ安心安全な食につながると言えるのではないでしょうか。
土壌環境を大事にする有機栽培は手間もかかるので、効率性を重視するのであればあまり向いていないかもしれません。しかし農業の基本、原点に立ち返り、重要な基盤である“土壌”を重視するにはもってこいの栽培法だと考えています。生態系の存在を意識して、農業に取り組んでみませんか?
参考文献
1, 第2部 有機栽培を理解するための基礎知識 日本土壌協会
2,生態学から見た有機農業 信州大学環境科学年報 2008
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