「土壌消毒」は、
- 連作障害の回避
- 土壌病害の軽減
- センチュウ被害の軽減
などを目的に行われます。
また近年、頻繁に発生している集中豪雨により、土壌がダメージを与えられたときにも「土壌消毒」は効果的です。集中豪雨で圃場が冠水すると、疫病菌などによる病害の発生が心配されます。土壌を回復させるためには、集中豪雨後ただちに排水し、薬剤防除を行うなどの対応が必要です。
本記事ではさまざまな土壌消毒の方法を紹介するとともに、近年注目されている「低コスト」な土壌消毒法を紹介していきます。
土壌消毒の種類
土壌消毒には
- 物理的防除(太陽熱などを使用)
- 化学的防除(薬剤を使用)
- 生物的防除(センチュウ対抗作物などを使用)
などが挙げられます。
物理的防除
「太陽熱消毒」は、太陽光を利用して土壌の温度を上昇させ、土壌中の病害虫を死滅させる消毒法です。
- 土壌に十分な水を入れる
- ビニールなどで被覆する
- 太陽光を当てる
太陽熱「だけ」で消毒する場合には、十分な太陽熱を当てる必要があります。そのため、西南暖地に位置する施設栽培向きの消毒法とされ、夏場でもカンカン照りにならない土地では少々不向きな場合もあります。
太陽熱消毒の期間ですが、土壌温度が40度くらいの場合には、消毒を終えるまで20日間以上必要になります。しかし、比較的に熱に強い土壌に有益な微生物が急増すれば、有益な微生物の発酵熱と静菌作用が加わり10〜14日ほどで済む場合もあります。
「土壌還元消毒法」は、「太陽熱消毒」よりも低温で効果を示す消毒法です。そのため、十分な太陽熱を当てられない地域にオススメの消毒法です。
- フスマや米ぬかなど、分解されやすい有機物を土壌に混入する
- 有機物を混入した土壌に十分な水を入れる
- 太陽光に当てる
分解されやすい有機物を入れるのは、土壌中にいる微生物を増殖させることが狙いです。元々土壌中にいる有益な微生物が活発に増殖することで、彼らは土壌中の酸素をたくさん消費します。土壌が還元状態になれば、病原菌に必要な酸素を不足させ、死滅させることができます。
ただし、還元作用により悪臭が出やすいのが「土壌還元消毒法」の難点です。
化学的防除
土壌消毒剤を使用して消毒を行います。効果が安定して得られることやコスト面からもっとも一般的な土壌消毒の方法です。
ただし薬剤を使用する場合には、用法用量を守ることが鉄則です。例えば土壌消毒剤として使用される「クロルピクリン」は激しい刺激臭が特徴の揮発性の液体です。使用する際には必ず
- 防毒マスク
- 保護メガネ
- ゴム手袋
といった保護具の着用が必要になります。
また薬剤を使用した後、ラベルに記載されたガス抜き期間をきちんと取りましょう。ガス抜きが不十分の場合、薬害が発生します。作付けに移りたいと焦ることもあるかもしれませんが、ガス抜き期間を怠るのはNGですよ。
生物的防除
センチュウ対抗作物として挙げられるのは、イネ科、マメ科、キク科の植物です。
品種によってセンチュウを減少させる能力に違いがあるため、対抗作物を選定する場合には事前に
- 圃場にいるセンチュウの同定
- 前年度のセンチュウ被害の程度
- 対抗作物自身の生育に適した環境か否か
などを調べ、効果的な対抗作物を見極める必要があります。
また対抗作物の種をまく前に、必ず雑草を取り除きましょう。コブセンチュウやネグサレセンチュウは雑草に寄生して増殖する特徴があります。雑草を放置したまま対抗作物を栽培すると、センチュウを抑制する効果が薄れてしまいます。
注目の低コストな土壌消毒法
昨今、注目されている「低コスト」な土壌消毒法は、エタノールを利用した土壌消毒法です。
エタノールには高い消毒効果があります。医療用に使用されている消毒剤のエタノール濃度は80%ですが、この濃度を農地に処理すると、莫大な量のエタノールと費用が必要になり魅力的ではありません。
しかし注目されている方法では、「エタノール濃度1%」で十分な消毒効果が得られます。
- 濃度1%に希釈したエタノール水溶液を農地に十分染み込ませる
- 空気を遮断するため、農業用ポリエチレンシートで土壌表面を被覆する
- 2週間被覆する
研究では、畑から採取した土を
- 滅菌したもの
- 滅菌していないもの(生土)
に分け、それぞれに病原菌(病原性フザリウム)を摂取後、低濃度のエタノールで土壌消毒。すると、病原菌は滅菌した土壌では密度に変化がなかったものの、生土では検出されませんでした。この結果が示しているのは「土壌中に棲む有益な微生物が土壌消毒に影響を及ぼしている」ということです。低濃度のエタノール水溶液を処理したことで、ある種の土壌微生物が活発化し、土壌中が急激に還元状態になっていたのです。
これにより病害虫や雑草の発生を抑制することができます。
この結果は「土壌還元消毒法」と同等の効果をもたらしますが、「低エタノール処理」のほうが土壌中に均一に混和しやすく、希釈処理も容易にできます。もちろん「低温だと効果が不安定になる」などの課題もありますが、労力が軽減できるという面でも注目の消毒法です。
酒かすで土壌消毒!?
最後に、地域の未利用資源を有効活用した土壌消毒法を紹介します。
日本酒の生産が盛んな福島県喜多方市で「酒かす」を利用した土壌消毒を行う農家がいます。土壌消毒に米ぬかやエタノールが使用できるのであれば、「米が原料でアルコールが含まれる酒かすも使えると思った」とのこと。酒かすは水分量が多いため、もみ殻などと混ぜて水分量を調節しながら使用します。土壌消毒の仕組みは「土壌還元消毒法」や「低エタノール処理」と同じ。還元状態にして酸素を必要とする病害虫を死滅させます。
農家が土壌消毒を低コストで行えるだけでなく、地域の未利用資源の活用により、地域にとっても魅力的な内容なのではないでしょうか。
参考文献