農産物の品種改良や栽培技術が進歩し、当たり前のように、新鮮な農産物が1年中店頭に並ぶようになりました。しかし生産する農産物を特化している場合、同じ作物を同じ圃場で育て続けることで「連作障害」が生じ、頭を抱えている人もいることでしょう。
連作により、特定の病害虫が優先的に増え、農産物の品質や収量に悪影響を与えてしまいます。そんな連作障害を回避するための方法のひとつに「土壌消毒」があります。
土壌消毒とは?
植物に病害を起こす土壌中の細菌・カビ類・害虫を駆除すること。殺菌・殺虫剤の注入、焼土、熱蒸気消毒法、太陽熱殺菌などがある。
引用元:三省堂 大辞林 第三版
農作物を連作することで、土壌中には以下のような変化が生じます。
- 栄養の偏り
- 病害虫の増加
同一作物を同じ圃場で育て続けることで、その作物が必要とする栄養分だけが土壌から吸収され、土壌中の栄養成分に偏りが生じてしまいます。その作物に必要な栄養が不足してしまっては、育つものも育ちません。
また偏るのは栄養だけではありません。土壌中の生態バランスにも偏りが生じます。特定の野菜に特定の病害虫がつくことは多々あります。連作すると、特定の病害虫ばかりが畑に集中することになります。繁殖し、その密度を増していった病害虫によって、農産物への被害が悪化する可能性があります。
連作障害を防ぐ方法のひとつには「毎年異なる野菜を植える」という方法が挙げられますが、生産する農産物を特化している場合には、その方法が活用できないことも。
そんなときに役立つのが「土壌消毒」なのです。
土壌消毒の方法について
焼土
古くから用いられている土壌消毒の手法、それが「焼土」です。名前の通り、土を焼いて消毒する方法です。土を加熱することで、土壌中の水分を蒸気に変え、土壌中の病害虫が棲みにくい環境に整えます。
焼土は以下の手順で行います。
- ドラム缶などを2つ割りにしたものを用意する
- 1.をかまどの上に載せ、用土を半分ほどそこに入れる
- 2.を下から加熱する
- 熱が強くなったら散水、撹拌し、熱が土全体に回るようにする
- 加熱温度が80℃以上になったら、濡れた莚(むしろ)などで覆い、弱火で30分以上保温
散水すると大量の水蒸気が出るため、火傷しないよう気をつけましょう。焼土することで病害虫や雑草の種子などが死滅します。
熱蒸気消毒
「焼土」では文字通り「土を焼」きますが、この方法では土壌中に蒸気や熱水を注入して、土壌中の温度を上昇させることで消毒を行います。土壌内部の温度を60℃にまで上昇させることで、土壌中の病害虫を死滅させる効果が得られます。
ただし「熱蒸気消毒」には、
- お湯、蒸気を発生させるボイラー
- 土壌に均一に蒸気等を注入する設備
等が必要です。設備投資が必要なことと、お湯、蒸気を発生させるための燃料のコストも考える必要があります。
太陽熱殺菌
太陽の熱を利用した消毒方法もあります。
土壌中に十分水分を入れたら、ビニールなどで覆い、太陽光を当てて、土壌温度を上昇させます。土壌中に存在する、連作障害を引き起こす病害虫のほとんどが、60℃で死滅します。いかに太陽熱だけで土壌温度を60℃に到達させるかがカギとなります。
「太陽熱殺菌」が効果的な農場は、夏場にカンカン照りになる地域です。一方、夏場でも日射量が少ない地域にはあまり効果的ではない方法です。
土壌還元消毒
「太陽熱殺菌」同様、土壌中に十分量の水を入れ、太陽熱で加熱します。ただ土壌中に水を入れる前に、米ぬかなどの有機物を土壌に混入します。そうすることで、土壌中の微生物が有機物を分解して活発に増殖することで、土壌中の酸素が消費され、病原菌が生育できない環境にすることができます。
「太陽熱殺菌」に比べ、土壌中の温度が低温でも効果があります。ただし注意点が1つ。土壌中の酸素が大量に消費され、還元状態となることで悪臭が出やすいのが難点です。農場が住居や住宅街と隣接している場合には、避けたほうがベターです。
殺菌・殺虫剤
最も一般的な「土壌消毒」の方法は「殺菌・殺虫剤」を用いることです。
- 安定した効果
- コスト面
で、とても優秀です。
ただし、かつて「土壌消毒剤」として使われていた成分の中には、使用が禁止されているものも。雑草からウイルス病まで幅広い効果が得られるとして用いられていた「臭化メチル」は、オゾン層を破壊する成分と指摘され、現在では一部の例外を除いて使用禁止となっています。
健康への影響などが懸念されるものもあるため、使用する際には、殺菌・殺虫剤の特性や効果の範囲を把握したうえで、用法用量を守って安全に使うことを意識してください。
まとめ
効果の安定性やコスト面から考えると、土壌消毒は「殺菌・殺虫剤」を使った方法を取るところが多いのが現状です。とはいえ、新しい土壌消毒法も登場しています。2013年頃からは「低濃度エタノール」を用いた土壌消毒法が注目されています。
「低濃度エタノール」を用いた方法においても、土壌消毒への目的は同じです。病害虫の増殖を防ぐため、消毒剤として使用されるエタノールを使用します。
- 1%程度に希釈したエタノール水溶液を農地に染み込ませ、湿潤状態にする
- 土壌表面をポリエチレンシートなどで覆う
- 2週間覆ったままにする
病害虫となる細菌やカビ、センチュウや雑草などの発生を抑えることができます。
参考文献