作物の生育に欠かせない土壌。土壌中の養分状態は作物の生育に大きく影響します。養分が不足していたり偏っていたりするのは好ましい状態とはいえません。土壌養分が過剰な場合も同様です。
農作物の生育にとって最適な土壌にするため、そして適正な施肥量を知るためには「土壌診断」が欠かせません。本記事では土壌診断に関連する「用語」に着目し、土壌診断用語についてわかりやすく解説していきます。
土壌診断が重要な理由
用語の解説の前に、まずは土壌診断の重要性について解説していきます。用語の解説だけを知りたい方は次の項目「土壌診断によく登場する用語」をご覧ください。
農作物の生育にとって良い土壌は、以下に示す物理的要因、化学的要因、生物学的要因が重なり合った土壌を指します。
物理的要因 | 厚くてやわらかい土の層がある
→作土性(耕せる部分)や有効土層(根が伸び広がることができる部分)の厚さ 保水力や排水性がある 風や水による侵食作用に耐える力がある 等 |
化学的要因 | 土壌の緩衝作用がある(ストレスを緩和する力がある)
→pHが適正範囲にある 作物に必要な養分を保持する力、供給する力がある 等 |
生物学的要因 | 有機物を適度に含んでいる
土壌中の微生物の活動が活発である →有機物や有害物質の分解力、病害虫の抑止力などにつながる 等 |
どれか一つの要因が抜きん出ていれば良いわけではなく、全ての要因がバランスよく保たれた土壌が「良い土壌」といえます。
そして土壌診断は、そんな土壌の状態、特に化学的要因の部分を科学的に知ることができます。土壌診断を行うことで、土壌中のどんな養分が不足しているのか、過剰にあるのかを把握することができます。不足している養分を増やし、過剰な養分を減らすことで「良い土壌」に近づけることができれば、農作物の収量や品質は安定したり向上したりします。
また土づくりに必要な資材の必要量の把握にもつながるため、施肥コストを減らせるという利点もあります。
土壌診断によく登場する用語
pH(土壌の酸性度)
pHは酸性、アルカリ性の数値で示す指標です。土壌溶液中に含まれる「水素イオン」濃度の指標であり、水素イオン濃度が濃いものを酸性、薄いものをアルカリ性と呼びます。指標は0から14までの数値で表され、
- 指標0〜7未満 酸性
- 指標7 中性
- 指標7より上〜14 アルカリ性
となります。
日本で栽培される農作物の多くはpH5.5〜6.5のやや酸性の土壌でよく育ちますが、5.5以下の酸性土壌になると
- 鉄やマンガンが過剰になることで起こる害やアルミニウムによる根の成長阻害
- 土壌微生物の活力低下により、有機物の分解が遅れてしまう
などの悪影響が及ぶ場合があり、栽培には注意が必要です。
EC(電気伝導度)
ECは土壌中の塩類濃度、窒素肥料の残存量を知るための指標です。
塩類が多く残っている土壌溶液は電気を通しやすくなるため、ECの値は高くなります。ECの値が高い、すなわち土壌中の塩類濃度が高い状態だと、浸透圧※により根の中の水分が土壌中に出て行ってしまい、根から養水分を吸収しにくくなるなどの障害が起きてしまいます。
※濃度の異なる2つの液体が半透膜(水は通すが、水に溶けている分子は通さない膜)を介して隣り合った時、濃度を一定に保つために、水分が濃度の薄い側から濃い側に移動する圧力のこと。先の場合、濃度の薄い側が「根」、濃度の濃い側が「土壌中」となる。
陽イオン交換容量(CEC)または塩基置換容量
土壌がどれくらい肥料を保持できるかを示す指標です。
肥料など、土壌に施用される養分の中で、
- 窒素(アンモニア)
- カリウム
- カルシウム
- マグネシウム
は、水に溶けてプラスの荷電をもつ陽イオン※となります。
※すべての物質は原子からできており、中央に原子核、その周りにある電子という構造になっている。イオンは電気を帯びた原子のことを指す。プラスの電気を帯びたものが陽イオン、マイナスの電気を帯びたものが陰イオンである。
陽イオンはマイナスに荷電した土壌粒子に吸着されます。それにより、肥料などで土壌に施用される養分は雨や灌水で流出しにくくなります。
そして陽イオン交換容量とは、その陽イオンを土壌がどれだけ吸着できるかの最大量を示します。値が大きいほど、土壌の保肥力は高くなります。必要な陽イオン交換容量の目安は15〜30です。
塩基飽和度
上記の「陽イオン交換容量(CEC)」にどれくらいの割合で交換性陽イオン※が保持されているかを示したものです。
※水素、ナトリウムを除く、カルシウムやマグネシウム、カリウムなどの塩基を指す。
土壌中の健康状態を示す値ともいえ、人間の健康状態で例えると以下のようになります。
塩基飽和度 |
人間の健康状態で例えると… |
40%以下 |
栄養失調 |
40〜60% |
空腹 |
60〜80% |
健康(適正) |
80%超え |
肥満 |
80%を超えてしまうと、土壌溶液の濃度が高くなってしまうため、根が濃度障害を起こすことがあります。
pHとECで簡易的な土壌診断は可能
土壌診断は専門家に依頼して行うこともできますが、pHとECを調べれば、簡易的ではありますが土壌診断を行うことはできます。
pHと塩基飽和度には、pHが低いほど塩基飽和度も低く、pHが高いほど塩基飽和度も高くなる、といった相関があります。
pH6.5(弱酸性)の場合、塩基飽和度は80%の状態(健康な状態)に位置し、pHが7を超えアルカリ化が進むと、塩基飽和度は100%を超えていきます。pHが分かれば、塩基飽和度の状態もおおよそ分かります。
ECは、農作物を収穫後、他の農作物を栽培する際の施肥量の診断に役立ちます。
pHとECのバランスで土壌のおおよその状態が分かります。
出典)「土壌診断の基本指標と簡易診断法」(『新版 日本の農と食を学ぶ 上級編 ー日本農業検定1級対応ー』)を参考に作成
あまり好ましくない状態に位置していても、適正な数値になるよう対策を行えば、土壌は回復するはずです。
参考文献
- 土壌診断について|JA全農
- 日本農業検定事務局編、『新版 日本の農と食を学ぶ 上級編 ー日本農業検定1級対応ー』、2020年4月1日、一般社団法人農山漁村文化協会
- 植物細胞と浸透圧ー中学ー|クリップ|NHK for School
- 10min.ボックス 理科1分野〔理科 中・高〕|NHK for School
- 原子の成り立ちとイオン
- 肥沃な土壌とは(CECと塩基飽和度)|深堀!土づくり考|土づくりのススメ|営農PLUS|農業|ヤンマー