土壌診断は、土壌の健康状態を知り、適切な土壌改良を行うためには欠かせません。本格的な土壌診断においては、分析機関で調べてもらう必要がありますが、土壌の状態を簡易的に把握するのに有効な指標もあります。
それがpH(酸性度)とEC(電気伝導度)です。
pHは酸性、アルカリ性の数値で示す指標、ECは土壌中の塩類濃度、窒素肥料の残存量を知るための指標です。
本記事では、自分でできる簡易的な土壌pH・ECの診断方法、そして測定する際の試料採取時や診断結果をもとに土壌改良を行う際に注意すべき点についてご紹介していきます。
まずは栽培に適さない土壌条件(pH、EC)を知る
なお、冒頭でも申し上げましたが、土壌の健康状態を総合的に分析したい場合には、専門分析機関による本格的な土壌診断を1年に1回でも依頼することをおすすめします。とはいえ、日常的に土の中の栄養がどのような状態にあるかを捉えておきたい場合には、簡易的な土壌診断が便利です。
農作物の健康的な生育には、その生育に適した土壌環境が必要不可欠です。そこで、まずは農作物の健康的な生育に適さない、栽培に適さない土壌条件について、代表的な2つのタイプを以下に記します。
低pH・低ECな状態
この状態の土壌は酸性が強く、また窒素肥料の残存量を知るための指標であるECが低いということは栄養分が少ないということです。いわゆる「やせ型」の土壌です。「やせ型」の土壌では、作物が必要な栄養分を十分に吸収できません。そのため、生育が悪くなります。
主な原因には、炭酸カルシウム不足や肥料不足があげられます。
高pH・高ECな状態
一方で肥料や石灰(炭酸カルシウム)の過剰な施用により、pHもECも高い状態も生育には適しません。この場合には、過剰な養分が作物の根に負担をかけてしまい、生育不良や病害を引き起こすことがあります。
pHとECの適正値
上記のような土壌条件にしないためにも、適切な土壌環境を作るために重要なのはpHとECの適正値を知ることです。
pHの場合、一般的に、野菜作物に適したpH値は5.5〜6.5の弱酸性です。pHが5以下では酸性が強すぎ、7以上ではアルカリ性が強くなり、いずれの場合も作物は養分を吸収しにくくなります。
ECは、その単位が「mS/cm(ミリシーメンス/センチメートル)」で表され、土壌中の養分が多いほど値が高くなります。作物の生育に適したEC値は、作物によって異なりますが、一般的に0.1〜1.0mS/cmが適正範囲とされます。ECが1.0を超えると、作物の根が塩害を受けやすくなります。ECが高い=土壌中の塩類濃度が高いと、浸透圧が高まり、根による養分・水分の吸収が阻害されます。根から水分が奪われることになるので注意が必要です。
とはいえ、作物が障害を生じる塩類濃度は作物ごとに異なります。イチゴやキュウリは根に濃度障害を起こしやすいため、過剰な施肥は禁物です。一方で、ホウレンソウやハクサイなど多肥を好む作物は耐塩性が高いです。
簡易的な土壌診断方法
簡易測定では正確性に限界がありますが、土壌の状態をおおまかに把握するには十分です。特に、肥料の過剰施用や塩類集積のリスクを避けるために、定期的な測定が推奨されます。
pHの測定
市販されている土壌pH診断キットには、土と水を混ぜて得られた上澄み液を使って測定する方法と、土壌に直接挿すだけでおおよそのpHが測定できる測定器を用いる方法があげられます。
上澄み液を利用するタイプの場合、乾燥させた土に水を加え、その上澄み液を測定に利用します。
住友化学園芸が発売している「アースチェック液」は上澄み液に測定液を加え、付属の比色表を使ってpHを測定します。この商品はpH4.0〜8.5の範囲で測定できます。堀場製作所が発売している「LAQUA twin pH」は上澄み液をセンサの上に滴下するだけで測定できます。こちらはpH2〜12の範囲で測定できます。
※それぞれの製品の詳しい使用方法、使用上の注意等は、各社のホームページなどでご確認ください。
また、数値で表される診断方法ではありませんが、圃場周辺に生える雑草を土壌pHの指標として捉えることができます。以下の記事に、土壌pHと雑草の関係が記載されています。ぜひこちらの記事も参考にしてください。
関連記事:雑草は畑の状態を表す指標になる!雑草と土壌の関係 – 農業メディア│Think and Grow ricci
ECの測定
ECもまた、土壌pHの測定に使用される市販の診断キット同様、上澄み液を使って測定するタイプと土壌に直接挿すだけでおおよその数値が測定できるタイプがあります。
ただし、ECの場合は土が乾燥していると安定した数値が検出されない場合もあります。たとえばセンサーを土壌に直接挿すタイプの場合、土が乾燥している場合には精製水や蒸留水で土壌を十分に湿らせる作業が必要になることがあります。
上澄み液を用いて測定するタイプは、土壌pHの場合と同様、土と水を混ぜて上澄み液を作り、それをセンサーで読み取らせるものが一般的です。
※市販されている製品の詳しい使用方法、使用上の注意等は、製品販売元のホームページなどでご確認ください。
pHもECも測定するなら
上記にもあるように、土と水を混ぜて生じる上澄み液を用意すれば、pHもECも測定できます。そこで、以下のものを用意してpHとECを一気に測定するのもおすすめです。
用意するもの
- ホームセンターなどで購入できる広口サンプルびん(50mLごとに標線のあるものがおすすめ)
- センサー部分を挿入するタイプの測定器(pH用、EC用それぞれ)
広口サンプルびんに、容積比が水:土=1:2となるように蒸留水と生土を加え、フタをして数分間振り混ぜ、懸濁します(たとえば蒸留水を100mL入れたあと、150mLのところまで生土を入れると、容積比が水:土=1:2となる)。
その後、懸濁液の上澄みにpH測定器とEC測定器のセンサー部分を挿入して測定すれば、土壌pHとECが1つの試料で測定できます。
簡易的な土壌診断を行う際の注意点
試料採取時の注意点
土壌pHやECを測定する際、土壌(試料)を採取する必要がありますが、この際、以下のことに注意してください。
- 採取の時期
- 採取する場所
- 採取する方法
基本的には作物の収穫直後に採取を行います。ただし、追記が必要かどうかを確認したい場合には生育期間中に行っても問題ありません。
同じ畑でも、場所によって作物の生育状況に差がある場合があります。作物の生育の良い場所、悪い場所、それぞれ別に試料を採取することが望ましいです。
試料を採取する際は、上記のように生育の良い場所や悪い場所、生育状況にさほど差がない場合でも畑の中央を含む別の地点5カ所から20〜50cmの深さの層を採取します。この際、試料は必ず垂直に採取してください。土壌を横から見たとしてV字型に採取してしまうと、その試料には土壌表面に集積した塩類が多く含まれることになり、正確な診断ができなくなります。
土壌診断後、酸性改良を行う場合の注意点
日本は降雨量が多いことから、土壌が酸性にかたよりやすいといわれています。日本で栽培される多くの作物は弱酸性の土壌を好むため、酸性が強い場合には石灰を施用するなどしてpHを上げることが一般的です。
ただし、この際にpHの値を見るだけで土壌改良を行うのは避けてください。たとえば、低pH・高ECな状態の土壌の場合、すでにECが高いため、pHを上げるために石灰を施用すると塩類濃度がさらに高まり、生育に悪い影響を及ぼす可能性があります。この場合には、高ECの原因となっている過剰な窒素を水で洗い流すなどの対応を行います。
一方で、低pH・低ECな状態の場合では、pHだけでなくECも低く、養分不足が考えられるので、一般的な酸性改良、石灰を施用した酸性改良が効果的といえます。
関連記事:今さら聞けない土壌診断の用語。化学性診断の指標について解説。
関連記事:土壌酸度計で分かること。土壌酸度計を使う目的や使う際の注意点について。
参考文献
- 一般財団法人 日本土壌協会『図解でよくわかる 土壌診断のきほん: 土の成り立ちから、診断の進め方、診断に基づく施肥事例まで (すぐわかるすごくわかる!) 』(誠文堂新光社、2020年)
- 一般財団法人 日本土壌協会『図解でよくわかる 土・肥料のきほん: 選び方・使い方から、安全性、種類、流通まで』(誠文堂新光社、2018年)
(2024年9月9日閲覧)