マルチ資材や焼いたものが土壌改良剤として活用されるもみ殻には「ケイ酸」と呼ばれる成分が多く含まれています。
もみ殻を構成する成分は炭水化物が約8割、ケイ酸が約2割で、そのほかの栄養素がほとんど含まれていないことから、もみ殻そのものに肥料効果はあまり期待できません。しかしケイ酸は、植物の種類によっては有利に働くことがあります。
本記事ではもみ殻に多く含まれるケイ酸について、その効果などをまとめました。
ケイ酸とは
ケイ素(Si)は原子番号14の非金属元素で、自然界ではケイ酸(SiO2)またはケイ酸塩として多量に存在しています。一般的な植物の場合、ケイ素含量は極めて低い(0.1〜0.5%程度)のですが、イネはケイ素含量が10〜20%と高く、代表的なケイ酸植物として知られています。
ケイ素含量が高く、ケイ酸を多量に吸収するイネにケイ酸を施用すると、根の活性や耐倒伏性などの向上や病害虫への抵抗性が強化されることが知られています。
ケイ酸施用の効果はイネ以外の植物や土壌に対しても発揮されます。原口朋子・内田泰『水溶性ケイ酸が作物の種子の生長とミニトマトの糖度に及ぼす影響』(永原学園佐賀短期大学紀要38、2008年)によると、植物に対しては成長促進や耐病性・耐害虫性の向上、耐気候性の向上、品質向上、収量増加などの効果が報告されており、土壌に対しては塩類障害の軽減、酸性土壌の中和などの効果があげられています。
野菜の生育に関するケイ酸の効果
上記論文『水溶性ケイ酸が作物の種子の生長とミニトマトの糖度に及ぼす影響』では、ケイ酸が種子(小松菜、二十日大根、アスパラ菜、さやえんどう、高菜)の生育、ミニトマトの糖度にどのような影響を及ぼすかについて実験が行われました。
種子に関する実験では、用意した種子に発芽キットや試験管を用いてケイ酸濃度を変え、生育の変化を調べました。ケイ酸濃度は蒸留水を入れた対照区と、ケイ酸濃度55ppmを加えた55ppm区、同様にしてケイ酸を加えた110ppm区、220ppm区で比較されました。
以下がその結果です。
対照区と55ppm区における茎長の伸長率 | 最適なケイ酸濃度 | |
小松菜 |
64%(1.64倍) |
220ppm |
二十日大根 |
77%(1.77倍) |
55ppm、220ppm |
アスパラ菜 |
19%(1.19倍) |
110ppm、220ppm |
さやえんどう |
73%(1.73倍) |
220ppm |
高菜 | 36%(1.36倍) |
55ppm |
同論文の中で「アスパラ菜は他の種子に比べると伸びが少なくケイ酸をあまり必要としていないのではないかと考えられる」とありますが、いずれもケイ酸によって伸長率に変化が生じています。
ミニトマトの糖度に及ぼす実験でも、上記と同様に濃度を変えたケイ酸(対照区、55ppm区、110ppm区、220ppm区)がミニトマトを栽培するプランターに加えられました。その結果、対照区と55ppm区を比較した際、ミニトマトの苗を定植後85日目と95日目ともに55ppm区のトマト糖度の平均値が高い結果が表れました。
定植後85日目のミニトマトの糖度平均
- 対照区 7.5%
- 55ppm区 8.8%(1.18倍)
定植後95日目のミニトマトの糖度平均
- 対照区 6.9%
- 55ppm区 7.8%(1.14倍)
ケイ酸を多く含むもみ殻活用アイデア
上記論文では、種子、ミニトマトの糖度ともにケイ酸の効果が見られましたが、ケイ酸は通常の土壌中で植物に取り込まれにくい不溶性の形で存在しており、実際のほ場で効果を得るためには水に溶けて植物に利用されやすい形での施用が求められます。
そんな中、ケイ酸資材として「もみ殻灰」が有効とされています。もみ殻灰には可溶性ケイ酸が豊富に含まれます。燃焼方法によって成分量は異なり、高温で燃焼すると可溶性ケイ酸は少なくなりますが、400℃で燃焼させて生成したもみ殻灰を水稲に施用すると、もみ殻を施用していない区に対して収量が20%増加したことが報告されています。また有害な重金属等をほとんど含まないことから有機農業にも利用できます。
農業情報誌『現代農業』の記事では、ほ場にもみ殻灰をまくことでコマツナの葉色が濃くなった、もみ殻灰の匂いがアブラムシなどの害虫対策につながった、やせた土地を改善したなどの効果が紹介されています。
参考文献
- もみ殻と米ぬかを畑に使うときのポイントと注意点【畑は小さな大自然vol.82】
- もみ殻の再利用方法7選!活用事例も紹介 | 金沢機工株式会社
- 3もみ殻
- 水溶性ケイ酸が作物の種子の生長とミニトマトの糖度に及ぼす影響
- 籾殻の熱分解特性およびケイ酸資材として有効な籾殻灰の簡易判定法
- もみ殻灰のケイ酸資材の可能性について 朝日工業株式会社生物工学研究所 2015年7月1日
- 籾殻の低温燃焼による高溶解性ケイ酸質肥料資材化
- くん炭を株元にたっぷりまいたらアブラムシが激減 – 現代農業WEB
- くん炭で、田んぼの地力ムラが劇的改善 – 現代農業WEB
『現代農業2018年11月号』(農文協、2018年)