環境負荷軽減につながると考えられる「有機物マルチ」の利点とは。

環境負荷軽減につながると考えられる「有機物マルチ」の利点とは。

農業資材の一つ「マルチ」は英語のマルチング (Mulching) を略した言葉で、畝の表面、作物の根元をさまざまな素材で覆うことを指します。マルチングを行うことで得られる効果には

  • 土の乾燥を防ぐ
  • 雑草を生えにくくする
  • 雨などで肥料が流れるのを防ぐ
  • 地温の調節ができる

などが挙げられます。

マルチの素材としてビニールが広く普及していますが、これらは使用後、農業廃棄物となり、環境負荷を軽減する「持続可能な農業」の観点からは望ましくありません。そこで注目されているのが「有機物マルチ」です。

有機物マルチは、ビニール素材の代わりに雑草や落葉、モミガラや米ヌカ、コーヒー粕や堆肥、敷きワラなどの有機物を利用してマルチを行うというものです。

 

 

有機物マルチの利点

環境負荷軽減につながると考えられる「有機物マルチ」の利点とは。|画像1

 

土壌中の生物多様性につながる

有機物を利用すると、土壌の湿度が保たれます。古い文献にはなりますが、『月刊 現代農業 2004年10月号』の巻頭特集に掲載されている有機物マルチを活用する農家によると、有機物マルチで覆った土は直射日光を遮ることができ、真夏でも湿っています。そのため、ミミズやヤスデなどの小動物や土壌微生物が生息しやすい環境になり、マルチの下には腐葉土のような層ができているのだとか。この事例の有機物マルチでは緑肥作物のヘアリーベッチと雑草、大きめの樹皮の破片とせん定枝が活用されています。

害虫防除

マルチングの素材に有機物を選ぶことで、有機物マルチが益虫(害虫の天敵)のすみかになり、被害の抑制につながるという利点があります。有機物マルチに集まる天敵にはコモリグモ類、ゴミムシ類などが挙げられます。コモリグモ類はさまざまな農作物に被害を及ぼす害虫ハスモンヨトウなどの捕食者です。ゴミムシ類はアオムシやアブラムシなどの捕食者です。益虫によって害虫が捕食されれば、農薬の利用を減らすことにつながります。

コスト削減

有機物マルチはビニール素材のマルチ同様、土の乾燥を防ぐだけでなく、雨などで土や肥料が流れ出てしまうのを防ぐ効果があります。肥料の流亡が減り、かつ土壌中の生物多様性が富むことで、肥料の量を減らすことができます。すなわち、肥料代の削減にもつながります。

『月刊 現代農業 2004年10月号』の事例では、有機物マルチの素材の一部を地域の廃棄物でまかない、コストを大幅に削減していました。

異なる有機物を使用しても効果はある

環境負荷軽減につながると考えられる「有機物マルチ」の利点とは。|画像2

 

全文を読むことはできませんでしたが、Ying Yong Sheng Tai Xue Bao『Effects of different organic matter mulching on water content, temperature, and available nutrients of apple orchard soil in a cold region』(2014年9月)の要旨から、異なる有機物が土壌の物理化学的特性にどのような影響を及ぼすかが記されていましたので、ご紹介します。

この実験では、有機物マルチとして

  • 雑草
  • 稲ワラ
  • コーンストロー(とうもろこしのワラ)
  • 粉砕枝

が使用されています。

果樹園の土壌水分や栄養分などを、有機物マルチを使用した圃場と使用していない圃場、またそれぞれの有機物マルチで比較しました。その結果、有機物マルチを施したことで

  • 土壌水分量の増加
  • 地温の調節
  • 土壌pHの酸性化の緩和
  • 土壌有機物の増加
  • 土壌中のアルカリ加水※性窒素、作物に吸収されやすいリン、カリウムの増加

が報告されています。

※アルカリ加水…水に溶ける塩基の総称。代表的なものは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど。

「土壌pHの酸性化の緩和」では、どの有機物マルチも土壌pHを上昇させたようですが、特にコーンストローのマルチが、土壌の酸性化を緩和し、土壌を中性に近い状態にする反応が生じた、とあります。

「土壌有機物の増加」では、有機物の種類によって増加の度合いが異なり、雑草が最も高かった、とあります。

「窒素、リン、カリウムの増加」においては、どれも全体的に増加させたものの、稲ワラのみ、アルカリ加水性窒素含量が有機物マルチを使用していない対照区よりも低かったと報告されています。

栄養成分の割合を調整しやすく即効性のある化学肥料とは異なり、有機物は土壌微生物によって分解され、ゆっくり効果を発揮するのが特徴です。

要旨では、どのような雑草が用いられたのかを知ることができなかったので、なんとも言えないのですが、稲ワラやコーンストローのように単一の植物ではない可能性も考えています。

先で紹介した『月刊 現代農業 2004年10月号』の事例では、緑肥作物と雑草、大きめの樹皮の破片とせん定枝を素材として利用していました。そのほかの事例では、茶ガラと雑草、せん定枝と羊毛クズ、また土壌の様子を見ながら米ヌカやオカラ、魚粉などを加えたりと、あらゆる有機物が活用されています。

有機物マルチに興味がある方は、ぜひ上記実験のように一種類の植物にしぼって土壌を観察してみたり、さまざまな有機物を合わせてみたりして、試してみてください。

 

参考文献

  1. 「マルチ」とはなんですか。:農林水産省
  2. 有機物マルチ・堆肥マルチ_現代農業用語集
  3. 地域のカス、ゴミなんでもマルチに
  4. 有機物マルチで病害虫の天敵に来てもらおう | NHKテキストビュー
  5. Ying Yong Sheng Tai Xue Bao『Effects of different organic matter mulching on water content, temperature, and available nutrients of apple orchard soil in a cold region』

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