萎凋病は土壌から根に感染する病気であり、日中に株全体が萎れたようになり、夕方に回復しても、翌日また萎れたようになる…これが繰り返されるうちに下葉の方から枯れ上がっていきます。茎を切ったとき、その断面が茶色く変色しているのが萎凋病の特徴です。
病原菌による土壌伝染性の病気であり、予防法としては清潔な土壌に植えること、萎凋病が発生した土は絶対に使わないことなどが挙げられ、主な対策としては土壌消毒が挙げられます。
しかし土壌消毒を行なったのに、農作物に萎凋病が出てしまうことがあります。その原因には、土壌消毒の消毒ムラなどが挙げられるのですが、萎凋病の原因菌を残さないために注目されているのが「野菜による抑制」です。
萎凋病の原因菌について知る
萎凋病はフザリウム属菌と呼ばれる糸状菌(カビ)が引き起こします。トマト萎凋病、ネギ類およびホウレンソウの萎凋病の他、カボチャ立枯病やウリ科のつる割病、レタスの根腐病などもフザリウム属菌による病気です。
栽培方法を問わず(露地、施設)、発病が繰り返されると土壌中に病原菌が蓄積するため、連作地では作づけを繰り返すごとに被害が大きくなっていきます。
またフザリウム属菌の厄介なところは、萎凋病によって枯死した植物の体内に厚膜胞子※を形成することです。
胞子とは無性生殖を行うために形成される生殖細胞のこと。空気中に飛んでいるカビの胞子が最適な生育環境に着床すると、そこで菌糸を伸ばし繁殖します。たくさんの菌糸が育ち、コロニー(集落)がつくられると、そこからまた胞子を飛ばし、どんどん広がっていきます。一方厚膜胞子は、分散→発育→増殖する胞子とは別物で、その目的は過酷な環境に耐えて生存することにあります。
厚膜胞子、すなわち長期間生き残るための器官が形成されると、植物が枯死して腐敗した後も土壌中で数年〜十数年生存します。そして厚膜胞子が存在する土壌中に、フザリウム属菌が寄生できる農作物が栽培されると、その作物の根が土壌中で十分発育したあたりで厚膜胞子が発芽し、根に侵入します。なお発病適温は27~28℃です。
消毒ムラにより生き残る場合もありますが、過酷な環境でも耐えられる胞子を作り出す菌なわけですから、完全に取り除くのは難しいということがわかります。
※出典元:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
野菜を使った萎凋病対策
野菜の良好な生育に必要な条件に、土壌微生物の多様性が挙げられます。土壌中の微生物は互いの生育を阻害する物質を生産して拮抗したり、お互いに共存したりして、多様性を保っています。
人間の腸内細菌では善玉菌と悪玉菌、そして日和見菌のバランスが保たれることで健康が維持されます。悪玉菌が増えすぎると体に不調が及びますが、だからといって善玉菌の数が多ければ多いほど良いというわけでもありません。多様性が保たれることが大切です。
野菜の萎凋病対策として紹介するのは
- ネギ栽培でホウレンソウ萎凋病を抑制する方法
- ブロッコリーの輪作でナス半身萎凋病を抑制する方法
です。
ブロッコリーの研究は先で紹介した原因菌と種類が違い、またそれぞれ萎凋病を抑制する機構は詳細は異なるものの、どちらの事例にも「拮抗微生物の増加」や「抗菌物質」が抑制に一役買っていることが記載されています。
まずネギ×ホウレンソウの場合。
岐阜大学応用生物科学部の研究チームは、ホウレンソウを栽培するウネ肩部にネギやニラを植えるだけで、土壌消毒後に生存した原因菌による萎凋病発生を抑えることができると明らかにしました。研究によると、ネギ類の根の周辺で増殖する細菌、中でもフラボバクテリウムという細菌が原因菌の増殖を抑制し、またネギ類の根から分泌される抗菌物質も萎凋病の抑制に関わっているとのこと。
そしてブロッコリー×ナスの場合。
ナス半身萎凋病の病原菌はバーティシリウム属と呼ばれる菌ですが、これもフザリウム属菌と同様の土壌伝染性病害菌です。1999年の研究により、ブロッコリーとの輪作でカリフラワーのバーティシリウム属による発病抑制効果が報告されており、群馬県農業技術センターと東洋大学生命科学部の研究チームは、これをナスで応用しました。その結果、ブロッコリーの輪作により、ブロッコリーもナス半身萎凋病に感染しましたが、一般的な萎凋病同様、茎が褐変するも、それが花蕾部までに至らないことがわかりました。
カリフラワーの研究では、
- ブロッコリー残渣から発生する抗菌物質
- 拮抗微生物の増加
- 土壌中の糸状菌の分泌物による原因菌の微小菌核※の分解
が抑制機構として挙げられたものの、ここでは、ブロッコリーから発生する抗菌物質による効果等は見られませんでした。
この報告では、ブロッコリーもナス半身萎凋病に感染するも、地表面以下で病気の進行が抑えられることで、原因となる微小菌核が形成されないことが抑制の要因ではないかとされています。
※菌類の栄養体が形成する硬い塊状の休眠体。変形菌類の栄養体(変形体)は低温、乾燥など、環境が成長に不適当になると、原形質流動をやめて丸まり、その周囲を包む膜が角質状になる。(引用元:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ))
土壌環境を整えるのも、発生抑制のコツ
他の野菜で萎凋病を抑制する例を紹介しましたが、萎凋病を発生させないためには、やはり土壌環境を整えることがベストです。“発病しやすい”土壌環境の事例を以下に示します。発病を抑制するために、土壌環境を見直してみましょう。
“発病しやすい”土壌環境
- 土壌pHが酸性
- 砂質土や赤土の土壌
- 萎凋病を発病した植物残渣のすき込み
- 土壌が極端に乾燥している、または極端に多湿な状態→発病が助長されるので注意
- 土壌中の新鮮な未分解有機物の存在→厚膜胞子の発芽を促進するので注意。完熟していない堆肥は避ける。
参考文献