農作物を育てる上で重要な栄養素といえば、窒素、リン、カリが挙げられますが、鉄などの微量要素も欠かせません。本記事では鉄に着目して、鉄が土壌や農作物に与える影響や自分で簡単に用意できる含鉄資材の作り方を紹介します。
土壌や農作物への影響
日本の土壌には鉄が多く含まれているといわれています。畑地では鉄分が不足することは少ないですが、畑地の土壌がアルカリに偏って鉄が溶けにくくなったり、老朽化した水田で作土から鉄が溶脱※することで、土壌から鉄が不足することもあります。
※溶脱作用とは「水が土の成分を溶かして下層へ運ぶ作用のこと」(出典元:よ | 農業・園芸用語集 | タキイ種苗株式会社)。
鉄不足は、鉄欠乏症を生じさせます。水田の場合は、根ぐされなどを引き起こす硫化水素が発生しやすくなり、稲の栄養障害や病害が生じる可能性があります。
そうならないためにも、土壌中の遊離酸化鉄(Fe2O3)を1.5%〜4%程度に保つことが重要です。
遊離酸化鉄が不足している場合の対策
一つに、含鉄資材の施用が挙げられます。主な含鉄資材は転炉さい(転炉スラグ、てんろ石灰とも呼ばれる)で、これは「製鉄所で銑鉄から鋼を製造するための転炉で副成される資材」のことです(出典元:転炉スラグを用いた 土壌pH矯正による 土壌病害の被害軽減技術)。
もう一つの対策には、作土から溶脱した鉄の移動先である下層を掘り上げ、作土と混合する方法があります。この対策を行う場合には、下層と作土の遊離酸化鉄含有量を測定し、1.5%〜4%に足りない場合には、不足分を含鉄資材で補います。
鉄資材を含む微量要素市場の現状
なお、市場調査レポートによると、世界の鉄資材を含む微量要素市場は成長傾向にあります。同資料によると、2021年の農業用微量栄養素市場はアジア太平洋が最大地域で、北米もまた今後成長が予想される地域なのだとか。
またインド科学環境センターが発表したレポートによると、いくつかの州で採取した土壌サンプルの大半で、窒素と有機炭素の不足が確認されています。微量要素の欠乏は、農作物の健全な生長に必要な栄養素の不足を表します。世界的に土壌中の栄養素が不足していると慣れば、市場の成長も納得できます。
しかし、2021年2月に起きたロシアによるウクライナ侵攻は、新型コロナウイルス流行から回復しかけていた世界経済を混乱させる物であり、肥料に限らず、世界の多くの市場に影響を及ぼしています。さまざまなものの価格が高騰する中、含鉄資材が必要となった時には、自作することも考えたいところです。
含鉄資材を自作してみる
農業誌『現代農業』には、農業用資材を自作する方法が度々紹介されています。含鉄資材において代表的なのは「タンニン鉄」です。
タンニン鉄とは、植物がもつタンニン(種子に多く含まれる渋み成分)と鉄を反応させて作ったものです。
タンニン鉄を作るのに利用する植物には、柿や茶葉、クリの葉などが用いられます。タンニンのもととなる柿や植物の葉を潰して水に薄め(茶葉の場合はティーバッグに入れる、あるいは、あらかじめティーバッグに入った茶葉を利用することも)、そこに長めの釘などの鉄資材を投入して反応させます。早ければ数時間で、液体が真っ黒になります。タンニン鉄の完成です。
これを散布している農家のコメントを見ると、生長促進や品質向上への効果が挙げられています。
参考文献