農山漁村文化協会編『現代農業 2022年05月号』(農文協、2022年) で、緑肥の活用方法が紹介されていました。緑肥は、農研機構が公開している「緑肥利用マニュアル」において“栽培している作物を収穫せずにそのまま田畑にすき込み次に栽培する作物の肥料にすること、またはそのために栽培する作物のこと”と紹介されています。
そんな緑肥の栽培が土壌の状態を診断する方法の一つになります。
緑肥で土壌の状態を確認する方法
新規就農者などが、耕作放棄地などの野菜を育てるには少し疲弊した畑しか借りられなかったとします。そんなとき、いきなり野菜を育てようとするのではなく、緑肥を栽培することで、土壌の物理性や化学性を確認することができます。
たとえばヘイオーツなど生育の早い緑肥を栽培したとき、生育が芳しくない場合には土壌の物理性に問題があると考えられます。そのような場合には、深い根を張るソルゴーを栽培して水はけを改善したり、サブソイラ(耕盤層(硬盤層)を破砕する機械)を利用したりするなどして、物理性の改善を行いましょう。
緑肥を栽培しなくても、畑に元々生えている植物の植生にムラがないかなどを確認することでも、土壌の様子をうかがうことができます。植物の生育がよくない場所をスコップなどで掘ってみると、植物が元気よく育っている場所との違いが見受けられるはずです。土層や土質などを確認し、育てたい作物に合った土壌の条件になるよう適宜整えます。
育てている緑肥の葉が黄ばむなどの問題が発生した場合には、化学性に問題があると考えられるので、植物性の完熟堆肥などを多めに投入します。
緑肥の土づくりに役立つ効果
先で“深い根を張るソルゴーを栽培して水はけを改善したり”と紹介しましたが、ソルゴーに限らず、緑肥の根は深さ100cmくらいまで伸びることも多く、機械で耕転しにくい下層土にも影響します。そのため、深い土層の改良には緑肥がとても役立ちます。
また緑肥をすき込むことで作土にたくさんの有機物が供給され、団粒が形成されます。団粒化が進み、下層土の構造も変化することで、透水性も良くなります。下層土が改良されることで次に栽培する作物の根も伸びやすくなるため、土壌の保水性、乾燥害対策にもつながります。
緑肥の有無でこんなに違う!?
上記『現代農業』の特集では、硬く締まった土壌にソルゴーを作付けしてすき込んだ区画と、作付けしない区画でダイコンを育てた場合、どのような変化が生じるかの比較実験が紹介されています。
方法としては、足で踏み込むこともできない硬い土壌の全面に植物性の堆肥を散布したあと、ソルゴーを草丈2.5〜3mまで育ててすき込み、ダイコンのタネを播きます。対照区としてソルゴーを作付けしない区画も用意します。
その結果、ソルゴーを作付けした区画は足で踏み込めるほどに土が柔らかくなり、ダイコンも大きく育ちました。一方対照区は土が硬いままで、育ったダイコンも地上部が小さく、根長も短いものになりました。ソルゴーは地下80〜100cmの層にまで根を伸ばしています。
農研機構の「緑肥利用マニュアル」でも同様の実験が行われ、結果が得られています。エンバクを栽培した後にコマツナを栽培したところ、エンバクを作付けしなかった区画ではコマツナの根が耕盤層より下へはあまり伸びなかったのに対し、エンバクを作付けした区画では耕盤層を越えて伸びています。
緑肥を使用する際の注意点
緑肥を栽培した後、野菜を育てることになると思いますが、緑肥をすき込んですぐに別の作物を栽培すると「植え傷み」が生じることがあります。
植え傷みとは
苗の移植や植替えにより、根が切られて苗が弱ったり、移植・植替え後に新たな根がうまく伸びてこないことで、その後の苗の生育が停滞したり、枯れてしまったりすること。
出典元:植え傷み – ルーラル電子図書館−農業技術事典 NAROPEDIA
植え傷みは、緑肥の腐熟期間が短いと、緑肥が分解される中で急激に増殖した微生物やフェノールなどの生育阻害物質によって発芽や生育に障害が起きることで生じます。最適な腐熟期間は緑肥の種類やすき込みを行った季節や温度条件によっても異なります。
とはいえ、緑肥の種類によっては早めに次の作物を栽培した方が、効率的に養分が供給される場合もあります。マメ科の緑肥の場合、アンモニア態や硝酸態窒素などの養分が雨などで溶脱しやすいため、すき込み後に作付けするタイミングがはかりにくいかもしれません。
「緑肥利用マニュアル」には代表的な緑肥作物ごとの特徴や導入のポイントが記載されているので、緑肥の導入を考えている人はぜひ一度目を通してみてください。
また作物を育てるのに最適な土壌を維持するために、緑肥と作物を輪作するのもおすすめです。
『現代農業』の輪作の例では、トウモロコシの生育がばらついた翌年、春にライムギ、夏にソルゴーをすき込み、秋にケールを定植しています。緑肥による有機物の補給、深い根による物理性の改善を行うことで、作物の生育ムラの改善につなげています。
参考文献
- 農山漁村文化協会編『現代農業 2022年05月号』(農文協、2022年)
- 緑肥利用マニュアル