土壌中の有機物が果たす機能、生物への養分供給と土壌pH緩衝能について。

土壌中の有機物が果たす機能、生物への養分供給と土壌pH緩衝能について。

言わずと知れたことですが、農業において土壌は作物を生産するための基礎であり、「よい」土壌は農地の生産力を高めます。そんな土壌中にはさまざまな有機物が存在しています。土壌中のさまざまな有機物とともに「よい」土壌がもつ特徴的な機能について紹介していきます。

 

 

土壌中のさまざまな有機物

土壌中の有機物が果たす機能、生物への養分供給と土壌pH緩衝能について。|画像1

 

土壌中の有機物の詳細な分類は以下の記事にて紹介しています。

土壌改良剤として注目が集まる「フルボ酸」って何?土壌中におけるフルボ酸の位置付け

簡潔に分類したものが以下の図です。

「よい」土壌がもつ機能には土壌有機物が関わっている

土壌中の有機物が果たす機能、生物への養分供給と土壌pH緩衝能について。|画像2

 

上記図で示した「土壌有機物」には生物に養分を供給する機能があります。

土壌有機物自体が微生物のエサとなり、土壌微生物の生命活動を支えています。このことは土壌微生物の多様性の維持にもつながり、多様な微生物がもたらす拮抗作用※により植物病原菌の増殖抑制にもつながります。


拮抗とは

(1) 競合ともいう.構造の類似した物質同士が特定の活性などについて干渉しあう現象.拮抗阻害などの例がある.
(2) 対抗,相反などと似た意味に使う.二つの因子が相反する作用をすること.

引用元:朝倉書店 栄養・生化学辞典

という意味です。微生物の拮抗作用には競合(生育の場と栄養を取り合う)、寄生、抗生、溶菌などが挙げられます。

また土壌有機物が微生物に利用されることで分解されると、土壌有機物に含まれる窒素、リン、カリウムなどが土壌中に放出されます。植物はこれらの元素を養分として利用していますから、“生物に養分を供給する”の生物は植物も当てはまるといえます。

土壌中の有機物が果たす機能、生物への養分供給と土壌pH緩衝能について。|画像3

 

土壌pH緩衝能も重要な機能の一つです。

土壌がイオンを吸着することで、土壌中の急激なpH変化を抑えます。2010年4月に公開された農業環境技術研究所の月刊ウェブマガジン「農業と環境」No.120の記事にわかりやすい例が出ていたので、引用文を以下に記載します。

たとえば酸性雨が降っても、土のpH値が大きく酸性に傾くことはなく、作物の根は守られます。

引用元:土の緩衝作用:作物を守るヘルメット(常陽新聞連載「ふしぎを追って」

水に塩酸など強酸性のものを加えると、pHは急激に低くなります。しかし土壌に塩酸を加えても、水中ほど急激にpHが低下することはありません。土壌が水素イオンを吸着し、水素イオンが土壌中に保持されるからです。土壌pH緩衝能はアルカリ物質に対しても認められます。

ただし、土壌pH緩衝能は無限に働くわけではありません。また降水量の多い日本では土壌pHが酸性化しやすく※、施肥でも土壌pHは低下します。作物ごとに最適なpHの範囲は異なるため、実際に土づくりを行う際は、土壌本来がもつ力に任せすぎず、土壌pHの最適化を図る必要があります。

※土壌粒子は表面にマイナスの荷電をもち、植物の養分となるカルシウムやマグネシウムなどプラスの荷電をもつ陽イオンを吸着しています。

雨には大気中の二酸化炭素などの酸(水素イオン)が含まれており、雨が土壌中に浸透すると、その水に含まれる水素イオンとカルシウムなどの陽イオンが交換されます。

雨水が土壌下方へと浸透していくのとともに、その水によって交換されてしまった養分が失われ、雨水由来の酸(水素イオン)が土壌粒子表面に吸着保持されて、土壌は酸性になります。

本記事でご紹介した機能の他に、土壌の団粒構造の形成や、メカニズムはまだ明確になっていないものの植物生育を促進する機能なども挙げられます。

 

参考文献

  1. 農地土壌の現状と課題 – 農林水産省
  2. 土壌微生物セミナー(2) – 雪印種苗
  3. 土の緩衝作用:作物を守るヘルメット(常陽新聞連載「ふしぎを追って」)
  4. 雨が降ると土は酸性になる? – フォレスト表面.eps
  5. 土壌酸性 – ルーラル電子図書館 – 農業技術事典 NAROPEDIA
  6. 3 化学性の改善 (1) 酸性の改良(pH)- 農林水産省
  7. 1.土壌の塩基
  8. 土壌肥料用語集 ら行|JA全農
  9. 犬伏和之、白鳥豊編『改訂 土壌学概論』(2020年10月、朝倉書店)

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