農業関連の展示会やイベントで「フルボ酸」と書かれた土壌改良剤や資料を度々見かけます。土壌改良に役立つ農業資材として注目を集めているフルボ酸ですが、本記事では土壌中におけるフルボ酸の位置付けについてご紹介していきます。
土壌中の有機物の分類、フルボ酸の位置付け
土壌中にはさまざまな有機物が存在します。例えば植物の根っこや動植物の遺体、微生物やタンパク質、脂質などが挙げられます。例にあげたように、土壌中に存在する有機物は生命活動を続けているものだけではありません。
犬伏和之、白鳥豊編『改訂 土壌学概論』(2020年10月、朝倉書店)では、土壌中の有機物についての分類を以下のようにまとめています。
土壌中の有機物で微生物などの「生命活動を続けている有機物」は全体の5%程度です。微生物などと違い、生命活動をしていない有機物(非生物性有機物)の中で、目視で同定することができ、除去することができる「粗大有機物」は20%程度です。なお粗大有機物には以下のようなものが挙げられます。
粗大有機物を広義に解釈すると、堆きゅう肥などの腐熟の進んだ有機物から、稲わら、麦稈、緑肥、山野草、青刈作物、落葉、収穫残渣、樹皮、ピートモス、おがくずなどの新鮮有機物、汚泥肥料、都市ゴミコンポストなどの再生利用有機物など、さまざまの種類がある。
そして残りの80%程度が「土壌有機物(腐植)」に分類され、これは「腐植物質」と「非腐植物質」に分けられます。聞き慣れない言葉かもしれませんが、本記事で着目するフルボ酸はこの腐植物質の一つです。
非腐植物質と腐植物質
まず非腐植物質は多糖類やタンパク質、リグニンなどを指し、土壌中に存在する有機物のおよそ30%を占めます。腐植物質は植物遺体などの分解産物が化学的、生物的に変化して合成された、化学構造が特定されない有機物の総称で、長期間安定して存在するのが特徴です。土壌中に存在する有機物のおよそ50%を占めています。下記に示す引用文や参考文献の一文にも記されていますが、定義しにくい物質でもあります。
腐植物質は、生体高分子のような目的産物ではなく、微生物が利用・分解された後の副産物と考えられている。そのため、これだけ科学技術が進んだ現在でも土壌中における各腐食物質の大きさ、その構造やその生成経路などは複雑で正確に理解されているとはいえない。
引用元:犬伏和之、白鳥豊編『改訂 土壌学概論』57ページ(2020年10月、朝倉書店)
そんな腐植物質は酸とアルカリへの反応(溶解性)からフミン酸(腐植酸)、フルボ酸、ヒューミンに分画されます。
要約すると、
- 酸にもアルカリにも不溶→ヒューミン
- 酸にもアルカリにも可溶→フルボ酸
- アルカリに可溶で酸に不溶→フミン酸
となります。
とはいえ、先で紹介した引用文にも“その構造やその生成経路などは複雑で正確に理解されているとはいえない”とあるように、上記図で示した分画方法はあくまでも実験操作上での定義であり、化学構造に基づいた分画ではないことに注意が必要です。
腐植物質の構造は複雑で、フルボ酸の構造は現時点でも完全に解明されていません。しかしフルボ酸等の高分子化合物の利用 – J-Stageで述べられているように平均的な化学構造モデルは研究されています。特徴として-COOH であるカルボキシル基と -OH のフェノール系水酸基を複数持つことが挙げられています。またフミン酸、フルボ酸ともに重量換算でおよそ50%は炭素で、窒素は数%〜5%程度含まれます。
フルボ酸に関する研究はフミン酸に比べると少ないといわれていますが、土壌中に存在する有機物のおよそ半分が腐植物質であると知ると、今後研究が進み、より効果的に活用する方法などが登場するのではないかと期待が高まります。
フルボ酸を農業資材として活用することで得られる効果については以下の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
関連記事:今注目の有機物!植物を活性化させる「フルボ酸」とは何か|農業メディア|Think and GROWRICCI
参考文献
- 農地土壌の現状と課題 – 農林水産省
- 犬伏和之、白鳥豊編『改訂 土壌学概論』(2020年10月、朝倉書店)
- フルボ酸等の高分子化合物の利用 – J-Stage