2018年10月に開催された『次世代農業EXPO』にて、土壌改良剤や肥料を扱うエリアでは数多くの「植物活性剤」を見かけました。なかでもキーワードとして目に飛び込んできたのは「フルボ酸」というものです。
本記事では、土壌改良や肥料の注目成分であるフルボ酸について紹介していきます。
フルボ酸とは何か
フルボ酸とは、植物などが微生物によって分解される際に生成される腐食物質のうち、酸によって沈殿しない有機物のことを指します。土壌など自然界に分布している成分と言われています。
腐食物質は、有機化学分析することができない一群の高分子化合物の総称です。微生物によって動植物が分解された際に生じる最終生成物、褐色から黒色をした有機物のことを指します。腐食物質が多く蓄積している土壌では、植物が育つのに必要な養分の供給や水分保持などが優れていると言われ、腐食物質の多さが植物の生成において重要だということを物語っています。
それら腐食物質を抽出することで、フルボ酸を分離することができます。フルボ酸はフミン酸とともにアルカリまたは弱酸のアルカリ塩で抽出されます。そこに酸を加えると、フミン酸は沈殿します。沈殿しなかった有機物がフルボ酸です。フルボ酸は精製するのが困難だと言われ、フミン酸と比べて研究が少ないというのも特徴です。紹介したように自然界の土壌や天然水中にも存在していますが、その含有量は非常に少ないです。
とはいえ近年の研究から、抗酸化作用、抗菌作用、植物の生育促進作用など、さまざまな効果が明らかにされており、注目の物質です。
腐植酸(フルボ酸とフミン酸)による効果
腐植酸を投入することの効果として、発根・根毛形成の促進が挙げられます。腐植酸の一部に水溶性のものが含まれており、それらは生育を促進する植物ホルモンに似た作用をもちます。その似た作用によって発根・根毛形成が促進されるのです。また保肥力の向上や土壌微生物の活性にも効果的です。腐植酸そのものが微生物たちのエサとなることで、微生物の働きが活性化し、土壌の団粒構造が整います。
また近年問題視されている「リン酸の固定化」にも効果を発揮します。「リン酸の固定化」とは、土壌にすきこまれた肥料に含まれるリン酸が、難溶性の化合物に変化することで、植物が吸収利用できなくなることを指します。腐植酸にはキレート作用(金属イオンと有機物の化合)があり、この作用は難溶性の化合物に変化したリン酸を吸収されやすい状態に戻してくれます。この作用によって、土壌中に蓄積してしまったリン酸成分の有効活用にもつながります。
土壌改良に活用されるフルボ酸
国土防災技術株式会社は、フルボ酸などを含む「人工腐食技術」を用いて、森林緑化等の環境改善や、塩害等で使えなくなってしまった水田を復旧させる活動を行なっています。2015年3月に、塩害を受けた水田にフルボ酸をまいたところ、2年前には10aあたり1俵しか収穫できなかった水田が、9俵まで収穫できるように改善されたという報告があります。
そのほかにもフルボ酸を希釈した液体を弱っていたさくらんぼの根に散布したことで、葉緑が増え、収穫物の糖度があがったという報告や、カルシウム欠乏症により「尻腐れ病」にかかったトマトの土壌にフルボ希釈溶液を散布したところ、病気の発現がおされられたとの報告があります。
また土木技術と緑化技術に取り組むサンスイ・ナビコ株式会社は、フルボ酸の働きに着目した植物活性剤を販売しています。土壌環境を改善する効果や、植物への養分供給の効果に着目した本製品は、僻地での植物栽培や植物の生育向上に期待できるとされています。
フルボ酸に頼らない土壌改良方法も覚えておこう
先で紹介した通り、フルボ酸は発根・根毛形成の促進や土壌微生物の活性化、「リン酸の固定化」に対する効果など、幅広い効果が期待されています。ただしフミン酸に比べて研究が少ないことや、フルボ酸を謳う商品の中には、フルボ酸を含有しているもののその他の物質(多糖やフェノール性物質など)を多く含有していると推定されるものもあり、効果に対する科学的データが不足しているという見方もあります。
そこで、フルボ酸に頼らない土壌改良の基礎も頭に入れておきましょう。
例えばフルボ酸(明確にはフルボ酸とフミン酸の総称である「腐植酸」)の効果として紹介した「リン酸の固定化」への対処について。土壌に施肥されたリン酸は植物に吸収されますが、アルミニウムなどを多く含む土壌(火山灰土壌など)では、土壌中の金属イオンとリン酸が急速に結合してしまい、吸収されにくい難容性の化合物に変化してしまいます。
そんな「リン酸の固定化」を解消する存在として「落花生」が挙げられます。
落花生は固定化されたリン酸を溶解・吸収できるのですが、それは落花生の根の表面で生じているキレート活性が要因です。根の細胞壁表面と土壌中に含まれる鉄・アルミニウムがキレート結合することで難溶性のリン酸から鉄やアルミニウムが引き剥がされます。そうして難溶性から変化したリン酸を吸収しています。
この反応が続くと、根の表面は鉄やアルミニウムで飽和状態になりますが、根の表面は2週間ほどではがれ、再び新しい根の表面が形成されます。この仕組みによって継続的にリン酸の溶解・吸収を行うことができます。