農作物を生産するうえで、土壌はとても重要です。土壌は作物が倒伏しないように支持したり、作物に必要な養分や水分を供給したりと、さまざまな役割をになっています。作物生産に必要とされる土壌の物理的要因、化学的要因、生物学的要因のすべてを満たす能力である「地力」の高い土壌は、高い生産力をもたらしてくれます。
「地力」について
地力は物理的・化学的・生物学的要因の相互作用で形成されます。上記3つの要因は、土作りの話題でも度々登場する内容なので、ここでは簡潔に図にまとめます。
地力の高い土壌に望ましい環境とは
水稲生育の場合
大量の水を湛水している水田は、水稲生産の他、洪水や土砂崩れを防いだり、田面からの水分の蒸発や作物からの蒸散によって気温が上昇するのを抑制したり、多様な生物の生息場所としての役割を果たしています。
透水性があること
水田土壌は湛水により酸素の補給が少なく、有機物の分解はゆるやかです。水稲は根の皮層(植物の組織で茎や根の表皮と中心柱の間にあるもの/引用元:ひそう【皮層】|ひ|辞典|学研キッズネット)に地上部から根の先端部へ酸素の拡散を促進する「通気組織」を形成するため、酸素が少ない湛水条件下でも生育ができます。
しかし土壌の酸素不足が進むと、土壌中は強い還元条件下となります。この条件下では、水稲の生育を抑制する有機酸の量が増えたり、硫酸などのイオウ化合物が微生物によって還元されて生じる硫化水素が、水稲の根腐れ障害や養分吸収阻害を引き起こしたりと、水稲の生育に悪影響を及ぼします。
透水性とは、水が土壌中に浸透しやすいかどうかの程度を表したものです。20℃における1秒当たりの流速(cm)を表します。根の活力が維持されるためには、 透水性は1日2cm程度が望ましいです。
土壌の硬さと作土深
作土深15cm以上が望ましいです。
水田におけるロータリ耕うん作業で、能率を重視した結果、耕深が10〜11cmと浅い水田もあるようですが、耕深が浅いと、根域が狭くなり、根が水分・養分を吸収するための土壌層が減るので、根や地上部の生育に影響が及びます。
また農業機械の大型化に伴い、機械が走行したところの下層土が踏み固められます。人が歩いたり、牛馬などの家畜を使って耕うんを行うことで、作土層の下の土壌硬度が大きくなることはありますが、大型の農業機械を用いると固い層の形成が顕著になります。固い層ができると、透水性が悪くなる、根の伸長が阻害されるなどの障害が生じます。そのため定期的に、深耕や心土破砕などの土壌改良を行って作土層を拡大したり、有機物を施用して膨軟化を促す必要があります。
十分な土壌養分
水稲の生育に必要な元素には窒素、リン、カリウム、イオウ、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられます。
また、水稲は生育に多くのケイ酸を必要とします。ケイ酸を吸収させるメリットには
- 受光態勢を改善させ、光合成能力を高める
- 根の酸化力を向上させ、鉄やマンガンの過剰吸収を抑制する
- 茎葉の表面に集積することで茎葉表面が硬化し、病害虫の食害耐性が向上する
- 倒伏を抑制する
などの効果が挙げられます。
最適pHはpH5.5〜6.5
土づくりが停滞するとpHが低下しがちです。pHが低下すると、施用された生稲わらを分解する微生物の働きが弱まり、湛水条件下での還元化を進めることになります。先で紹介したように、還元化が進んだ土壌は水稲の生育に悪影響を及ぼします。
畑作物の場合
畑の環境は水田と比較して微生物による有機物の分解が早いのが特徴です。その分、有機物管理を適切に行わないと、地力が低下しやすいので注意が必要です。
適度な通気性、排水性、保水性
畑作物の栽培に適した土壌は、上記3つが適度に保たれることが重要です。土壌は固相、液相、気相の三相構造になっており、三相のバランスが作物の生育に影響を与えます。
降雨による水が適度に保持され、適度に排水される団粒構造である必要があり、そのためには堆肥などの有機物施用と深耕などの土づくりが重要です。
土壌の浅い層に耕盤層がない
耕盤層とは耕起や機械に踏み固められることでできる硬く締まった層のことです。耕盤層ができると、根が十分に伸長できず、排水不良が起こりやすくなります。根が自由に伸長できる柔らかさと作土層が十分に深いことが望ましいです。
養分バランスが適切である
畑作物の栽培には肥料を多く施用することがあり、土壌中に肥料分が集積し、生育に必要な養分がアンバランスな状態になることも。pHとEC※が適度に保たれた、養分バランスの良い土壌であることが望ましい環境といえます。
※EC(電気伝導度)とは
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参考文献