有機物の被覆が干ばつに強い土壌を作る!?有機物被覆による土壌への効果

有機物の被覆が干ばつに強い土壌を作る!?有機物被覆による土壌への効果

近年、環境保全に配慮した農業のあり方が広く認知され始めています。そんな中、リジェネラティブ農業※について情報発信を行うアメリカのNPO法人Regeneration Internationalのホームページに「有機栽培」に取り組むことで、作物が異常気象や気候変動に強くなる、とあります。

上記ホームページに記載されていた有機栽培に期待される効果の中で、最も合点がいくものに「干ばつに強い土壌を作る」がありました。ホームページにはこう記載されています。

Create drought-resistant soil: The addition of organic matter to the soil increases the water holding capacity of the soil. Regenerative organic agriculture builds soil organic matter.

引用元:Why Regenerative Agriculture? – Regeneration International

翻訳すると、“土壌に有機物を加えることで、土壌の保水力が高まります。再生型有機農業は土壌の有機物を構築します。”とあります。

本記事では、上記で紹介されていた「有機物の被覆による土壌への効果」についてご紹介していきます。

※関連記事はこちら(↓)。
世界で注目されている「リジェネラティブ農業」とは何か。

 

 

乾燥地で作物の収穫量が少ない理由

有機物の被覆が干ばつに強い土壌を作る!?有機物被覆による土壌への効果|画像1

 

なぜ有機栽培が干ばつに強い土壌を作ることができるのか紹介する前に、乾燥地で作物の収穫量が少ない理由について紹介させてください。

不規則または不十分な降雨も原因の一つですが、降った雨が流出してしまうことも原因です。最大で40%もの降雨が流出するといわれています。その原因には地形や傾斜、降雨強度なども挙げられますが、過度な耕起などの不適切な土地管理もまた流出の原因です。

降った雨は土壌表面に降り積もっていきますが、その一部は土壌に浸透し、土壌水分として補給されます。しかし不適切な土地管理により有機物量が減った土壌の場合、水の浸透が進まず、土壌水分は失われていきます。

土壌水分量の増加が重要

干ばつを抑えるためには、土壌水分量を増加させることが重要です。土壌の保水能力には、その土壌の土質や土壌の深さ、土壌構造など、さまざまな要因が関わってきますが、適切な土壌管理によってその能力を向上させることができます。そして土壌の水分量を増加させる方法には大きく分けて

  • 水の浸透を促進する
  • 土壌の蒸発を管理する
  • 土壌の水分貯蔵能力を高める

の3つがありますが、これらすべてに土壌有機物が関わってきます。

 

 

有機物の被覆による土壌への効果

有機物の被覆が干ばつに強い土壌を作る!?有機物被覆による土壌への効果|画像2

 

土壌表面を植物残渣やカバークロップが覆うことで得られる効果は以下の通りです。

雨滴の衝撃による土壌の密閉化、クラスト(土膜)化を防ぐ

→雨水の浸透を促進する
→雨水の流出を減少させる

植物残渣やカバークロップ、マルチングなどで覆われていない土壌は、雨粒の影響を受けやすくなります。むきだしの土壌に雨粒が当たると、土壌の塊から土壌粒子が剥離し、これらの粒子が表面の孔を塞ぎ、表面クラスと呼ばれる薄い不透水性の土砂の層を形成します。この層は雨水の土壌への浸透を妨げてしまうため、流出を増加させることになります。

植物残渣やカバークロップなどで覆うことで、雨水の影響から土壌を保護することができます。また蒸発による土壌からの水分の損失を防ぐことにもつながります。

Alexandra Bot,José Benites『The importance of soil organic matter』(FOOD AND AGRICULTURE ORGANIZATION OF THE UNITED NATIONS Rome, 2005)には、休耕地の植物を土壌表面のカバークロップとして活用し、土壌表面からの蒸発を抑えることで、土壌中の水分量が4%増加したことが記されていました。この水分量はおよそ8mmの追加降雨量に相当するとあります。

土壌中に水分が浸透するようになることは、収量増加にもつながります。上記論文に引用されていた研究では、小麦の残渣レベルが高いと、降水の貯蔵量とソルガムの収量を増加させることを示しています。8-12トン/haの残渣レベルでは、残渣管理を行わなかった場合と比較して土壌中の水分貯蔵量は約80〜90mm、ソルガムの穀物収量は約 2.0トン/ha 増加した、とあります。

土壌温度を調整する

→土壌表面温度がさがり、種子の発芽や根の発達、土壌微生物の活動への影響を少なくする

土壌温度が高すぎると、種子の発芽や根の発達、土壌微生物の活動に悪影響を及ぼします。例えば、一般的に発芽と苗の成長に理想的な根圏温度は25〜35℃とされていますが、トウモロコシの苗の場合、35℃を超えると発育が極端に低下します。さらに大豆の種子の場合、40℃を超えると発芽がほぼゼロになってしまいます。

有機物で被覆すると、太陽の熱を大気中に反射させることで、土壌温度表面の温度を下げることができます。被覆されていない土壌に比べると、被覆土壌の最高温度は低くなります。

ミミズなど土壌動物の活動が活発になる

→ミミズなどによる生物攪拌活動により間隙が拡大され、孔隙の改善につながる
→間隙が拡大することで水がより容易に浸透し、土壌中に保持されるようになる

上記論文に引用されていた研究では、ブラジル南部の土地で、雨水の浸透量が慣行耕うんでは20mm/hだったものが、不耕起では45mm/hにまで増加した、とあります。

 

参考文献

  1. Why Regenerative Agriculture? – Regeneration International
  2. 第5節 気候変動への対応等の環境政策の推進:農林水産省
  3. Agroecology and the Right to Food – Regeneration International
  4. The importance of soil organic matter

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