堆肥に加える有機物による土壌病害抑制効果について。

堆肥に加える有機物による土壌病害抑制効果について。

堆肥は、古くから使われてきた肥料のひとつで、枯れ草や枯れ葉などの植物や鶏ふん、牛ふんなどの家畜のふんなどを利用し、発酵させて作られます。近年では生ごみを利用した堆づくりも注目されています。

環境保全型農業が推進される中、有機物の利用が見直されており、中でも堆肥は、土壌改良剤としての効果や化学肥料に比べて地力維持に役立つこと、地下水汚染の心配も少ないことなどから、注目が高まっています。

また堆肥等に含まれる有機物の土壌病害抑制効果も注目されています。

 

 

堆肥に用いられる有機物

堆肥に加える有機物による土壌病害抑制効果について。|画像1

 

堆肥に用いられる主な有機物を以下にまとめます。

  • 牛ふん
  • 豚ぷん
  • 鶏ふん
  • 馬ふん
  • ワラ類
  • モミガラ
  • 野菜(キャベツ、コマツナ、ハクサイなどの野菜の他、野菜クズなど)
  • オガクズ
  • バーク
  • せん定クズ
  • エノキタケ廃培地
  • 家庭生ゴミ
  • 事業系生ゴミ
  • オカラ
  • コーヒーカス
  • 茶カス
  • ビールカス
  • 焼酎カス
  • 果汁カス
  • 米ヌカ
  • アオサ

参考資料:『Ⅴ 堆肥など有機資源の利用 – 農林水産省』より付表Ⅴ-1-1 堆肥原料と堆肥の成分量(藤原,2003)

※なお参考資料(↑)には堆肥に用いられる主な有機物の種類の詳細のほか、水分、炭素や窒素等の成分量、pHなども記載されています。ただし成分値に関しては、注意事項が本文中にも記載されていますが、原材料や堆積時期・機関等の条件によって養分含有率等に幅が生じるため、あくまでも分析事例として捉えるようにしてください

有機物によって窒素、リン酸、カリウムなど養分含有量に違いがあります。例えば参考資料をもとに牛ふん、豚ぷん、鶏ふん、生ゴミを用いた堆肥の成分量を比較してみると以下のようになります。

水分 全窒素 リン酸 カリ
牛ふん

(ふん主体堆肥)

66 2.1 2.06 2.19
豚ぷん

(ふん主体堆肥)

52.7 2.86 4.11 2.23
鶏ふん

(ふん主体堆肥)

38.5 2.89 5.13 2.68
家庭生ゴミ

(乾燥型)

12 4.54 1.37 1.33

水分以外は乾物当たり%

牛ふん堆肥は窒素やリン酸と比べるとカリウムが多く、豚ぷんと鶏ふんはリン酸が多いことが分かります。また生ゴミ堆肥は窒素が多いことが分かります。

ただし、養分含有量だけが堆肥の効果を決めるわけではありません

例えば牛ふん堆肥は、牛舎の敷料として用いられる稲ワラやモミガラが混入しており、繊維質が多く、土壌にすきこむことで保水性や保肥力、通気性の向上に役立ちます。豚ぷん堆肥や鶏ふん堆肥を土作りに活かしたい場合には、これらには繊維質が少ないので、稲ワラや木材チップなどを添加しないと、あまり効果が期待できません。

 

 

どのような土壌病害抑制効果があるか

堆肥に加える有機物による土壌病害抑制効果について。|画像2

 

堆肥や堆肥に含まれる有機物の土壌病害抑制効果は、松田明『有機物施用と土壌病害発生との関係』(関東東山病害虫研究会年報 第25集 (1978))にまとめられています。染谷孝『人に話したくなる土壌微生物の世界 食と健康から洞窟、温泉、宇宙まで』(築地書館、2020年)では、上記論文を参考に有機物の種類と有機物が土壌病害抑制効果を示した病害の例が記載されています。ただし有機物によっては、かえって病害を助長してしまった例もあります(↓)。

有機物の種類 軽減された病害の例 助長された病害の例
発酵牛ふん コカブ根こぶ病 ダイコン萎黄病
発酵豚ぷん キュウリつる割れ病
キュウリ立枯性疫病
トマト萎凋病
ダイコン萎黄病

ジャガイモそうか病

キャベツ萎黄病

発酵鶏ふん キュウリつる割れ病
トマト萎凋病
キャベツ萎黄病
トマト萎凋病
ダイコン萎黄病
バーク堆肥 キュウリつる割れ病
トマト萎凋病

ジャガイモそうか病

ナス半身萎凋病
ダイコン萎黄病
ダイコン褐色腐敗病
堆肥(牛ふんなど) キュウリつる割れ病
トマト萎凋病

コンニャク根腐病

コンニャク根腐病

有機物の施用には、土壌微生物全般に栄養分を供給し、活性化する作用があり、活性化された土壌微生物が間接的に土壌病害を抑制することが見出されています。

ただし『人に話したくなる土壌微生物の世界』によると、一般的にキュウリやトマト、ナスなどは有機物の施用量に比例して病害の軽減効果が高くなりますが、ダイコンやジャガイモといった根菜類や塊茎類は、有機物の施用により発病が助長される、とあります。これは有機物が、病害菌の栄養源にもなる場合があるからです。

また雨宮良幹『堆肥等有機物を利用した土壌病害の防除』(土と微生物 61巻2号(2007))には、鶏ふんや小麦フスマ、コーヒーカスなどを素材にした堆肥と市販されている有機物資材(複数の有機物にさまざまな微生物を混合して堆肥化したもの)の土壌病害抑制効果を比較したところ、単一素材の堆肥より市販資材、すなわち複数の有機物や微生物が混合されている堆肥のほうが効果が高かったとあります。

上記の事柄から、堆肥に利用される有機物には土壌病害抑制効果があるものの、土壌病害抑制を目的に堆肥を施すというよりは、さまざまな有機物を素材にした複合堆肥、またはさまざまな堆肥を組み合わせた混合堆肥を用いて、土壌微生物の活性化・多様化を図ることが有効であることが分かります

堆肥に利用する有機物を選定する際は、土壌の状態やどのような土壌病害が出やすくなっているかなどをしっかりと把握し、かつ、土壌病害抑制効果を過信せず、あくまでも地力向上、地力維持を目的に施用することをおすすめします

 

参考文献

  1. 環境用語集:「堆肥」|EICネット
  2. 有機物施用と土壌病害発生との関係 – J-Stage
  3. 染谷孝『人に話したくなる土壌微生物の世界 食と健康から洞窟、温泉、宇宙まで』(築地書館、2020年)
  4. Ⅴ 堆肥など有機資源の利用 – 農林水産省
  5. 堆肥等有機物を利用した土壌病害の防除 

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