土づくりに欠かせないものといったら何でしょうか?
植物が生育するために必要不可欠な空気や水、栄養素はその土台となる土そのものにも必要ですが、その条件を整えるために役立つのが堆肥(たいひ)の存在です。堆肥と土には密な関係があります。農作物にとって良い土を作るために、まず堆肥づくりが重要といっても過言ではないでしょう。そんな堆肥ですが、どのように土へ影響を与えるのでしょうか。今回は堆肥と土の密な関係についてご紹介します。
堆肥と土の関係
農作物を生育させる土台として重要な土に必要不可欠な存在に“水”が挙げられます。土の水分が過剰に余っていても、乾燥して水分が枯渇している状態も農作物には好ましくありません。そんな時、土に必要な水分量を整えてくれるのが堆肥です。堆肥にはスポンジのような水分吸収力と発散力が備わっています。ゆっくり吸収し、ゆっくり放出する堆肥のおかげで、最適な水分含量の土へ整えることができます。
加えて農作物の生育や農作物を育てる土壌に住まう微生物にとっても重要な“空気”も、堆肥のおかげで整えられます。堆肥によって適度にふかふかとした土ならば、通気性が良くなり、水分も肥料分も吸収性が良くなるのです。もし堆肥を利用しなかった場合、砂状の土であれば粒子と粒子の間に隙間が空いてしまい空気も水分も養分も通り抜けてしまうばかりです。逆に粘土質であれば、その粘り気によって隙間が完全に埋まり、空気も水も養分も通さなくなります。
堆肥を加える前の土の状態もよく見極める必要がありますが、農作物の生育に最適な状態に土を整えるためには、堆肥によるバランス調整が必要なのです。このバランス調整能力はpH調整にも一役買います。土の状態が酸性よりであればアルカリ性によった堆肥を、またその逆であればそれに対応する堆肥を用意することで土を作物を育てやすい中性に整えることができます。
堆肥づくりの基礎
そんな土づくりにこの上なく便利なアイテムとなる堆肥ですが、作り方は至ってシンプルです。何故なら動物質の物、植物質の物のほとんどが堆肥の材料になりうるからです。農用地に生えてしまった雑草や家畜の糞など廃棄物として処分していたものが素材となるのです。
動物質の素材であれば、家畜の糞、家畜の寝床として活用していたワラなどが活用しやすいと言えます。しかしペットで飼っている犬や猫の糞には、堆肥には向かない病原体などが存在する可能性が考えられるので、初めて自力で堆肥づくりに挑戦する場合には避けた方がベターです。もちろん堆肥を作っていく中で研究目的であればおすすめしますが…
植物性の素材であれば、農用地に生えて作物の生育の邪魔をする雑草だけでなく、剪定で出た葉や茎、芝なども利用できます。硬い茎や葉は細かく切り刻むことで、堆肥づくりを迅速に進めることができます。
ちなみに病気になってしまった植物も、燃やしてしまえばその灰が堆肥として活用できるので、農作物が万が一病気になってしまっても再利用ができるという観点でも、堆肥づくりには利点があると言えます。
良い堆肥を作るためのコツは、植物性素材と動物性素材の割合を3:1、動物性が少ない量となるように調整することをおすすめします。また堆肥として素材が変貌していく過程の中で欠かせないのが微生物の存在ですが、彼らによる分解を迅速に進めるためには、水分が多過ぎる状態は避けた方がいいでしょう。動物の糞によって水分が多くなるようなら、ワラを混ぜて水分量を調整した方が、土づくりにおける次の行程に進みやすくなります。
堆肥と微生物の関わり
様々な素材を微生物が分解することによって堆肥が出来上がっていきます。動植物の死骸や廃棄物等、有機物が植物にとって利用しやすくなるためにも、微生物による分解の行程は欠かせません。堆肥と微生物の関わりについて見ていきましょう。
まず微生物は堆肥の原料となる有機物に含まれる糖やアミノ酸を分解していきます。この分解の行程で増殖する微生物の呼吸によって生じる熱や発酵熱によって、堆肥はホカホカとした暖かいものになります。堆肥化が進む過程で温度が高まると、高温下で繁殖する微生物が活躍します。繊維質の主成分であるセルロースやヘミセルロース、リグニンといった成分は高温下で生育する微生物によって分解されていきます。この時に、複雑な構造を持ったこの成分は一気に分解されるわけではなく、まず酸素のある環境を好む微生物によって繊維質の素材は分解され、セルロースがむき出しになります。
この過程で大量に酸素が消費されることで、酸素のない状態を好む嫌気性のセルロース分解菌が、むき出しのセルロースを分解することができます。リグニンと呼ばれる成分の分解は、キノコなど担子菌の役割です。堆肥の温度は徐々に落ち着いた温度へと低下していきますが、この環境は担子菌だけでなく、ミミズなどの小動物にも生育しやすい環境となります。
堆肥と微生物の関わりは密ですが、決して一種類の微生物が堆肥づくりに関わっているわけではないということが分かります。適材適所と言いますか、ある微生物相が素材を分解していく過程で生じたものを、また他の微生物相が分解し、それをまた分解し、といったように素材に適した微生物が分解に関わっているのです。
堆肥づくりのコツ
良い堆肥を作る上で、微生物は欠かせない存在です。ですから微生物が住みやすい環境を意識して、堆肥の素材を用意することも、堆肥づくりのコツと言えます。例えば炭素と窒素の量の比率は堆肥づくりには欠かせない要素です。炭素率は20~30%程度、それに加えて含水率が60%程度の状態が最適な堆肥づくりのための比率と言えます。堆肥を作る上で家畜の糞はとても活用しがいのある素材ですが、炭素率で見ると牛糞はかなり適正な素材ですが、豚や鶏の糞は炭素率が低いという傾向があります。
炭素率の高さは堆肥化の進行と、堆肥の臭いへ影響します。炭素率が高過ぎると堆肥になるまでの時間がかかる難点がありますが、低過ぎると堆肥化の過程でアンモニアが発生しやすくなり臭くなる難点があります。よって廃棄物は活用しがいがありますが、周辺環境への配慮も兼ねて、バランスを見ながら素材を加えていきましょう。また水と空気は土、堆肥だけでなく微生物の生育にも必要不可欠な要素です。含水率は60%が最適ですが、水分が多すぎれば腐敗し、低すぎれば微生物の生育を妨げる要因となります。
自然界の微生物も活用しよう
堆肥づくりに有用な微生物は有用菌を購入し投入するのもおすすめですが、家畜の糞や寝床用のワラ、植物の枯れ草や雑草に付着している微生物の力を借りるのも効果的と言えます。なぜならどんなに良いと言われる有用菌を利用しても、微生物が住みやすい環境を作らないことには、堆肥づくりに適した微生物を育むことはできないからです。
堆肥づくりは、農作物の生育に適した土壌づくりに重要な行程ですが、その堆肥づくりそのものも、様々な生き物の力を借りることで出来上がる重要な存在です。様々な微生物の力によって作られた良い堆肥があるからこそ、物理的にも化学的にも生物学的にも最適な土壌が出来上がるのです。
参考文献
1.チャーリー・ライリー 『Soil&Compost ナチュラルなほんものの土と堆肥』(2003)、産調出版株式会社
2.セミナー生産技術 藤原俊六郎 良い堆肥生産のポイント(2)
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