「炭」は古くから土壌改良剤として活用されてきました。最近は「バイオ炭」というキーワードを目にすることがあります。そこで本記事では、バイオ炭とは何か、「もみがらくん炭」や「竹炭」との違いは何か、炭を土壌にまくことでどんな効果が得られるのか、などについてご紹介していきます。
バイオ炭とは何か
農林水産省のホームページには以下のように記されています。
バイオ炭には、木炭や竹炭などが該当し、具体的な定義としては、「燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350℃超の温度でバイオマスを加熱して作られる固形物」とされています。(2019年改良IPCCガイドラインに基づく) 。
“木炭や竹炭などが該当し”とあるように、以下で紹介する「もみ殻くん炭」や「竹炭」は、上記の具体的な定義に当てはまるのであれば、バイオ炭の1つといえます。簡潔にいえば、もみ殻くん炭とは「もみ殻を焼いたもの」、竹炭とは「竹を焼いたもの」です。
バイオ炭は、地球温暖化対策、環境保全型農業の観点から注目されています。
バイオ炭の原料となる木材や竹等に含まれる炭素は、そのままにしておくと微生物の活動等により分解され、二酸化炭素として大気中に放出されてしまいます。しかし、木材や竹などを炭化し、バイオ炭として土壌に施用することで、その炭素を土壌に閉じ込め(いわゆる「炭素貯留」)、大気中への放出を減らすことが可能になります。
出典元:同上
バイオ炭を使用することで、土壌への炭素貯留と土壌の透水性を改善する効果が期待されます。ただし、一般的にバイオ炭はアルカリ性(pH8〜10程度)のため、酸性土壌のpHを調節する効果があるものの、過剰に施用すると土壌のpHが上昇し、かえって作物の生育に悪影響を及ぼす可能性もあります。農林水産省のホームページには、バイオ炭の施用上限値が公開されています。
バイオ炭の定義は曖昧!?
農林水産省が公開するバイオ炭の定義は冒頭で記した通りですが、国際的な科学誌Natureの記事を扱うメディア「Natureダイジェスト」の記事によると、論文によってはバイオ炭の対照区(対照実験で比較対象を設定する際、ある特定の条件を除外して行われる一連の実験)として「もみ殻くん炭」が含まれていることもある、と書かれています。
また農林水産省環境政策室「バイオ炭の農地施用を対象とした方法論について」においては、バイオ炭として以下のものの名称が挙げられています。
<木炭由来の5種>
- 白炭
- 黒炭
- 竹炭
- 粉炭
- オガ炭
<上記5種以外を原料とするその他のバイオ炭>
- 家畜ふん尿由来(鶏ふん炭など)
- 草本由来
- もみ殻・稲わら由来(もみ殻くん炭など)
- 木の実由来
- 製紙汚泥・下水汚泥由来
バイオ炭を土壌にまくことで得られる効果
先でも紹介していますが、土壌への炭素貯留と土壌の透水性を改善する効果、土壌のpHを調節する効果が挙げられます。
土壌の透水性、加えて貯水性については「Natureダイジェスト」にも記載されています。アメリカ・コロラド大学の生物地球化学者レベッカ・バーンズらの研究によると、砂にバイオ炭を加えると水の移動速度を遅く、粘土を多く含む土壌ではバイオ炭を加えることで移動速度を速くすることができるといいます。砂の粒子は球形をしており、粘土の粒子は平べったい形をしています。一方、バイオ炭の粒子は無定形であり、それが土壌の粒子の隙間で不規則な形の通り道を作り、水の流れに影響を及ぼします。
その他の効果としては、モミガラくん炭_現代農業用語集、「Natureダイジェスト」より、バイオ炭に豊富に含まれるミネラル分(ケイ酸やカリウムなど)が土壌中の有機物成分の増加や作物の耐病性の向上に寄与する、といわれています。
バイオ炭の使い分け
農研機構が2015年に公開した成果情報『バイオ炭の理化学的特徴を考慮した畑地基盤の改良技術』には、どのような目的にどのようなバイオ炭が適しているかが記されています。
先で紹介した酸性土壌のpH調整に用いる際には「鶏ふん由来のバイオ炭」、保水性の改良のために用いる際は「木質系のバイオ炭」や「作物残渣由来のバイオ炭」、保肥性の改良には「低温生成※の木質系バイオ炭」を推奨すると書かれています。
※この研究では、スギやヒノキなどの木材チップやもみ殻、鶏ふんなどを原料に400、600、800℃でバイオ炭が生成され、400℃で生成されたバイオ炭に高い保肥性が確認されました。
バイオ炭の難点
気づいた人もいるかもしれませんが、バイオ炭は原材料や作り方が多種多様なため、その性質や効果にばらつきが出るというデメリットがあります。そのため、バイオ炭の研究成果はいい報告ばかりではありません。
Shelby Rajkovich『Corn growth and nitrogen nutrition after additions of biochars with varying properties to a temperate soil』(Biol Fertil Soils、2012年)では、家畜糞尿(乳牛厩肥)、紙、木炭、堆肥から作られたバイオ炭は実験で使用したトウモロコシの生育を改善できず、むしろ生育を低下させ、作物の収穫量を減少させる、と報告されています。
Maud Viger『More plant growth but less plant defence? First global gene expression data for plants grown in soil amended with biochar』(GCB Bioenergy、2014年)では、実験植物としてシロイヌナズナとレタスを用いてバイオ炭を施用したところ、シロイヌナズナ、レタスともに成長の促進が確認されたものの、昆虫や病原体、干ばつなどのストレスに対する防御遺伝子の活性を低下させることが示唆されています。
これらの報告は、バイオ炭そのものがもたらす影響というより、施用方法(状態が決して悪くない土壌に施用してしまうなど)や施用したバイオ炭の種類が原因の可能性も考えられます。
もみ殻と家畜糞尿が全く違うものであることから分かる通り、原材料が違えば、バイオ炭の働きも異なります。各々の土壌に適切なバイオ炭を選択し、適切に施用する必要があるという「手間」も、使う人によっては難点に思えるかもしれません。
参考文献
- バイオ炭の施用量上限の目安について:農林水産省
- モミガラくん炭_現代農業用語集
- 竹炭_現代農業用語集
- バイオ炭の農地施用を対象とした方法論について
- バイオ炭は地球と人類を救えるか | Nature ダイジェスト
- バイオ炭の理化学的特徴を考慮した畑地基盤の改良技術
- Corn growth and nitrogen nutrition after additions of biochars with varying properties to a temperate soil Shelby Rajkovich, Aki
- More plant growth but less plant defence? First global gene expression data for plants grown in soil amended with biochar – Viger – 2015 – GCB Bioenergy – Wiley Online Library