土壌の情報は、農業生産を行う上でとても重要なものです。特に施肥を行う際には、土壌の状況を把握しておく必要があります。そこでぜひチェックしていただきたいのが「日本土壌インベントリー」のウェブサイトで公開されている「農耕地土壌図」です。
※「農耕地土壌図」の使い方を知りたい方は目次の「農耕地土壌図の使い方」をクリックしてください。
日本の土壌の分類について
ここでは「日本土壌インベントリー」のウェブサイトに記載されている土壌の分類をまとめます。
造成土 | ・人の影響を強く受けている土壌。 ・土壌群には「人工物質土」と「盛土造成土」がある。 人工物質土…家庭ゴミやビニール、プラスチックなど元々自然界にない物質でできたもの。都市域や工業地帯、廃棄物処理地などに分布。 |
有機質土 | ・湿性植物の遺体からなる含水比の高い土壌。 ・沖積地(ちゅうせきち)や谷地、高山などの湿地に分布。 |
ポドゾル | ・漂白層と腐植層または鉄・アルミニウムが集積した層が重なる土壌。漂白層の上に粗腐植層が存在する層序(地層の重なっている順序)が一般的。 ・山地の一部や丘陵地などに分布。 ・一般的な土壌の化学性は強酸性で、塩基類に乏しい。貧栄養。 |
黒ボク土 | ・土壌を構成する主な物質は火山灰に由来する。 ・主に北海道南部、東北北部、関東、九州に分布。 ・物理性が良い(保水性や透水性がよく、耕起しやすい)。 ・リン酸の吸着力が高い。 |
暗赤色土 | ・暗赤色の次表層(土壌表面から20~60cmの間の層)を持つか、石灰岩あるいは「石灰質堆積物」に由来する。 ・山地の一部や丘陵地などに分布(北海道と九州・沖縄には比較的多い)。 ・化学性は土壌を構成する主な物質により変わるため、塩基性から酸性まで幅広いのが特徴。 |
低地土 | ・主に河川周辺に分布。 ・河川氾濫により堆積した土砂等が土壌を構成する主な物質。 ・土壌養分が豊富で、一般的には肥沃な土壌とされる。 |
赤黄色土 | ・風化の進んだ赤色または黄色の土壌。 ・主に本州の中位段丘(13万年前にできた段丘)から高位段丘(50万年前~20万年前にできた段丘)等に分布。 ・有機物の蓄積が少なく、粘土含量が高い土壌で、透水性が悪い。保水性も低い。そのため湿害、干害を受けやすい。 ・化学性は強酸性。 |
停滞水成土 | ・停滞水または地下水による影響を受け、断面内に湿性の特徴を示す層をもつ台地、丘陵地、山地の土壌(引用元:日本土壌インベントリー)。 ・排水不良な斜面下部、また台地・丘陵地等の棚田地帯に分布。 ・保非力は高いが、排水性や透水性は良くない。 |
褐色森林土 | ・褐色または黄褐色の次表層(土壌表面から20~60cmの間の層)をもつ土壌。 ・火山灰の影響の少ない山地・丘陵地に分布。 |
未熟土 | ・土層が薄い、もしくは土壌の層が積み重なった状態があまり発達していない、若い土壌。 ・主に山地、傾斜地、海岸に分布。 ・保非力が低いが、排水性が良い。 |
<地形から見た主な土壌群>
台地・山地の土壌 | ・褐色森林土※ ・赤黄色土 ※日本の国土の30%程度を占める。多くは山林地帯に分布。 |
火山性の土壌 | ・黒ボク土※
※国土全体の31%、畑地の約半分を占める。 |
低地の土壌 | ・低地土 |
その他の土壌 | ・泥炭土…北海道に多く分布する土壌。低温湿潤な環境下で植物の分解が進まなかったため、繊維質が目視できる。 |
参考文献:一般社団法人日本土壌協会『図解でよくわかる 土壌診断のきほん 土の成り立ちから、診断の進め方、診断に基づく施肥事例まで』、2020年、誠文堂新光社
農耕地土壌図の使い方
「日本土壌インベントリー」で公開されている全国デジタル土壌図(縮尺20万分の1)を拡大していくと「農耕地土壌図」(縮尺5万分の1)に切り替わります。画像をクリックすると土壌の分類名や特徴が表示されるだけでなく、農作物に応じた施肥量の目安なども表示されます。
<使い方>
- 「日本土壌インベントリー」のウェブサイトにアクセスし、「土壌図」をクリック
- 縮尺の大きな地図が表示されるので、「農耕地土壌図」(縮尺5万分の1)に切り替わるまで拡大する(緯度・経度や住所を入力すれは、目的地(自分の農地など)を示す農耕地土壌図を表示可能)
- 土壌図が示されたら、目的地にカーソルを合わせて、クリックすることで、その地点に分布する土壌分類名が表示される
- 3の土壌分類名をクリックすると、土壌の特徴を見ることができる。
2020年8月には新機能(土壌有機物管理ツール)と土壌温度、水分推定値、断面データなどを示したデータベースが追加されました。土壌有機物管理ツールでは栽培する作物、緑肥作物、堆肥などの施用量などを入力することで、土壌中の有機物含量の変化を計算することができます。土壌温度、水分推定値、断面データなどを示したデータは、土壌温度・水分推定値であれば緩効性肥料や有機物肥料を施用した際の溶出パターンの把握などに役立てられると期待されており、断面データもまた施肥設計や栽培管理などに活用できると期待されています。
今後も継続的にアップデートされることが期待できます。
土壌図を活用することで得られること
土壌図から土壌の特性を知り、その土地に適した作物を選ぶことで、無理のない栽培が可能になり、安定的な収量と品質の維持につながります(適地適作)。
例えば黒ボク土なら、土層が深くやわらかいため、地中で生育する作物(根菜類やイモ類、落花生など)の栽培が適しています。赤黄色土粘土含量が高く、強酸性の土壌のため、酸性を好む茶樹の栽培などに適していますが、表層がやわらかく耕作しやすいことから、アルカリ性資材を投入して土壌pHを調整した上で、粘土質の土地に適応しやすいジャガイモなどが栽培されていることも多いです。
実際には土壌の分類だけでなく、「土性」と呼ばれる区分も把握する必要がありますが、土壌の状態を知るのに「農耕地土壌図」はとても便利なので、ぜひ活用してみてください。
参考文献
- 一般社団法人日本土壌協会『図解でよくわかる 土壌診断のきほん 土の成り立ちから、診断の進め方、診断に基づく施肥事例まで』(誠文堂新光社、2020年)
- 『農耕と園芸 2017年12月号』(誠文堂新光社、2017年)
- 日本土壌インベントリー
- 全国の土壌の種類や分布を示した「デジタル土壌図」が土づくりの実践に役立つ新機能と新たなデータを追加