本記事では、病害「サツマイモ基腐病」についてご紹介していきます。
サツマイモ基腐病とは
後述する病原菌の影響で、生育不良や萎れ、葉の黄変や赤変、株の黒変などが生じ、最後には茎葉の枯死や塊根の腐敗につながる病気です。
サツマイモ基腐病の原因
サツマイモ基腐病の原因はDiaporthe destruens(ディアポルテ・デストルエンス)という糸状菌です。サツマイモがこの糸状菌に感染することで発生します。貯蔵中の塊根にも発生します。
サツマイモ基腐病に感染するとどうなる?
圃場で生育不良や萎れ、葉の黄変や赤変、株の地際のあたりが暗褐色~黒色になっていたらサツマイモ基腐病の可能性があります。サツマイモ基腐病に罹った塊根には種イモの腐敗や苗基部の黒変が見られます。
感染し、発病した株を圃場に残しておくと、病変部に柄子殻(または分生子殻)と呼ばれる微小な黒粒が形成されます。そこから原因菌の胞子が放出され、二次伝染によりサツマイモ基腐病の蔓延を引き起こします。
茎葉が繁茂する時期には発生が拡大していても株の異常に気づきにくいため、茎葉の生育が衰える収穫時期になると一気に枯れ上がったように見えることが多いです。
基腐病はサツマイモだけ?
基腐病菌はヒルガオ科植物にのみ感染します。作物ではサツマイモのみ被害が知られています。
病害が発生する要因
2018年、2019年の疫学調査によると、サツマイモ基腐病の発生には、過去に病害が発生したことの他に、圃場の排水性や積算降水量が大きく影響していると考えられています。
サツマイモ基腐病は主に、感染した種イモや苗を植え付けることで圃場に持ち込まれます。過去に発生した圃場では、収穫後、病気に罹った株の残渣中で病原菌が生き残り、収穫した種イモや土壌を汚染することで、次作の伝染源となる可能性があります。収穫時には健全だった塊根が貯蔵中に腐敗し、それが周囲の塊根に接触することで伝染することもあります。
先で紹介した柄子殻(または分生子殻)から放出される胞子が、雨により生じる湛水や跳ね上がりによって周辺の株に広がると圃場中に病気が蔓延します。
サツマイモ基腐病の対処法
サツマイモ基腐病に限りませんが、病害の基本的な対策には「持ち込まない、増やさない、残さない」ことがあげられます。病害が発生していない圃場であれば、まずは原因菌に汚染された種苗を「持ち込まない」ことが何よりも重要です。
発生初期であれば「増やさない」ことが重要です。サツマイモ基腐病菌を定着させないための対策を行います。たとえば病気に罹った株を取り除く際に使用したハサミで健全な株を切ると、健全な株が病原菌に感染する恐れがあります。使用する道具はこまめに火災滅菌や丁寧な水洗い、拭き取りを行い、伝染を予防しましょう。
土壌汚染が進んでからだと防除が格段に難しくなります。すでに何度も発生している圃場の場合は、健全な種苗を供給・確保すること、圃場の病原菌密度を低減させることが対策として必須となります。
健全な種苗を確保する
種イモを採取するために、一般圃場とは区別して管理を行う専用圃場を設置しましょう。
種イモは必ず病気が発生していない圃場から採取し、選別・消毒後、健全な苗床に伏せ込みます。
また自家種イモを連用せず、定期的にウイルスフリー苗などを導入することもサツマイモ基腐病の防除には大切です。ウイルスフリー苗であっても病原菌に感染している可能性は0ではありません。必ず苗消毒を行ってから、健全な苗床に伏せ込みましょう。
育苗を行う際、生育や葉の色に異常が見られた場合には、種イモごと苗床の外に持ち出して処分してください。萌芽苗の株元が変色していなくとも、病原菌を保菌している可能性はあります。採苗と同時に、サツマイモ基腐病に登録のある殺菌剤で消毒を行い、発病リスクを抑えましょう。
連作しない
前作でサツマイモ基腐病が発生した圃場でサツマイモを連作すると、再び病気が発生し、圃場がより汚染されてしまいます。サツマイモ基腐病が発生した場合には、この圃場ではサツマイモを連作せず、休耕したり、原因菌であるディアポルテ・デストルエンスが宿主としない作物の栽培を行いましょう。
排水対策を行う
先で紹介したように、サツマイモ基腐病の発生には圃場の排水性や積算降水量が大きく影響していると考えられています。加えて、サツマイモ基腐病が多発する圃場は下層土が硬い傾向にあり、地下への排水性が悪いとも考えられています。
降雨後に湛水させないこと、湛水時間を減らすこと、湛水を圃場の一部に留めることで被害を軽減させることができるので、作付け前には排水路を点検して堆積物を取り除きましょう。表面排水の促進には明渠の施工、地下排水の促進には耕盤破砕が効果的です。
苗床で病害が発生した場合
まずは異常が見られた株や発病株、残渣を極力外に持ち出し、処分しましょう。持ち出しできない残渣は複数回耕転して細断します。こうすることで残渣の分解を促進するだけでなく、残渣に残った病原菌が土壌消毒に用いる薬剤に十分さらされるようにします。
サツマイモ基腐病に登録のある土壌消毒剤を用いて、地温や土壌水分などが適切な条件下で土壌消毒を行います。効果を高めるため、薬剤処理後、ビニールなどで被覆しましょう。
発生状況によっては以下の対策を
宮崎県が公開している「サツマイモ基腐病対策マニュアル」には、“前作で基腐病が発生していたら、まず始めに考える対策”としてフローチャートが紹介されています。このマニュアルでは発生状況によっては被害が少ない傾向にある「定植が早い作型(目安:8月上旬までの収穫の作型)」を用いることや抵抗性品種の使用、栽培品目の変更などを勧めています。
サツマイモ基腐病の発生が多く、土壌がすでに広く汚染されている場合は、土壌消毒の効果は低いとされています。この場合にはサツマイモ以外への品目変更を検討します。
参考文献